69.辞書借りるフリして
英語の授業中。
希世子が後ろを振り返る。
「佐藤君、私英語の辞書を忘れてしまったの。少しの間貸してくれるかしら」
「もちろん」
倫行が快く頷き英和辞典を渡した。
「ありがとう」
希世子は、受け取るとお礼を言って前へ向き直った。
さっそく辞書を開いてページをめくり、『love』が書かれた箇所で手を止めると、自身の長い黒髪を一本抜いてそこに置いた。
「(これでいいわ)」
完成である。
「(これで、佐藤君が辞書を開いた時、「この長い髪は、三上に貸した時のか? でも何で『love』のページに? まさか、三上は俺のことを……」となるはず)」
そんな作戦だ。
「(さぁ、佐藤君、考えなさい! 考えて考えてlove=三上希世子とおなりなさい!)ウフフ」
成功を確信して希世子が微笑む。
「(でも、念のため、もう一本くらい挟んでおきましょうか)」
希世子がページをめくった。
「(『marrige』にも挟みましょう。『like』にも。『couple』にも――)」
あちこち挟んだ。
……
「(できた)」
髪を挟み終えて辞書を閉じた。
「(これを佐藤君が見れば……)」
希世子が出来栄えを確認する。
辞書のあちこちから髪の毛がはみ出ていて気持ち悪かった。
「(……やっぱりやめておきましょう)」
元に戻した。




