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66.吊り橋効果なフリして

 休み時間。

 移動教室での授業が終わり、自分のクラスに戻る途中。

 希世子が四階渡り廊下に出ると、前を倫行が歩いていた。

 微妙に猫背になっている。


「佐藤君」


 希世子が呼ぶ。


「む?」


 倫行が立ち止まって振り返った。


「なんだか背中が曲がってるけれど、どうかしたの?」


「あ〜……」


 倫行は、ポリポリと頬をかき、


「実は俺、高いところがあまり得意じゃないんだ」


 恥ずかしそうに言った。


「まぁ、そうだったの」


「しかもこの渡り廊下、四階だし、天井がないし、壁が胸の高さまでしかないし、揺れてる気がする」


「揺れはしないと思うけれど」


 と話しているところへビュウと強い風が吹いた。


「うわっ!?」


 倫行が風に煽られ壁に手をついた。


「ビ、ビックリした〜」


 倫行の心臓がドキドキと早鐘を打つ。


「大丈夫?」


 心配する希世子。


「あ、ああ」


 倫行は、返事をして希世子を振り返り、


「三上は、大じょ……」


 突然固まった。


「佐藤君?」


「な、何だこのドキドキは……」


 倫行が胸を押さえた。


「ドキドキ?」


 希世子が首を傾げた。

 しかし、状況とドキドキという言葉から、


「(もしかして、吊り橋効果的なことが起きてる?)」


 と判断した。

 吊り橋を渡るドキドキを目の前の異性に対するドキドキと勘違いしてしまうアレである。


「お、俺はもしや、み、三上のことが……」


 倫行の目が熱っぽい。


「(間違いない! ついにやった! 佐藤君が私に落ちたわ!)」


 希世子は、すました顔をして心の中で喜びまくった。

 そこへ、


「おりゃ」


 勇美がやってきて倫行の背中を押した。

 倫行が壁に体をぶつける。

 顔が下を覗いた。


「うひゃっ!?」


 目を白黒させてすぐさま壁際から離れた。


「勇美っ、何してるの!」


 希世子が叱る。


「へへへ、ビビってやんの〜」


 いたずらっ子勇美は、走って逃げた。


「まったく。佐藤君、勇美がごめんなさい」


 希世子が倫行を見た。

 倫行の目は、走って行く勇美を追っていた。

 瞳がうるうるしていた。


「……どうして俺は、河井を見てこんなにもドキドキしてるんだ?」


「佐藤君?」


「さっきよりもドキドキしてる。もしかして、俺は河井のことが」


「早まってはダメ! それは吊り橋効果と言って――」


 もったいないけど説明した。

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