65.扇ぐフリして
希世子が廊下を歩いているとすれ違った男子二人が、
「三上さんて、いつも良い匂いだよなぁ」
「これフェロモンだよ。たまらん」
恍惚の表情で残り香を嗅いだ。
「フェロモンか……」
希世子がクンクンと己の匂いを嗅いだ。
……
教室に戻り席に着くと、希世子は、下敷きで自分を扇いだ。
「ふ〜、まだまだ暑いわねぇ」
風が希世子の後ろの席、倫行のほうへも送られる。
「(フフフ、どうかしら佐藤君? 私のフェロモンは?)」
希世子の目的は、自身を扇ぐことではなく、フェロモンを倫行に嗅がせることにあった。
「(さぁ、佐藤君! 私の極上フェロモンで恋に落ちなさい!)ふ〜、暑い暑い」
さらにパタパタと扇いだ。
すると、
「そんなに暑いのか? だったら俺も扇いでやろう」
倫行が下敷きで希世子を扇いだ。
「ありがとう、佐藤君(嗚呼、佐藤君からの佐藤君フェロモンが私の脳を痺れさせる……)」
甘い香りに希世子の扇ぐ手が止まりそうになる。
「(いけないわ希世子! 至高の佐藤君フェロモンに負けてはダメ!)暑い、暑いわ〜」
希世子がさらに勢い良く扇いだ。
「そんなにか? だったらもっと」
倫行も扇ぐ手を強めた。
「(もはやあなたのフェロモンは禁断の果実……はっ!? しっかりなさい希世子! 気をしっかり持つの! 佐藤君フェロモンを返さないと私何をしでかすか!)本当に暑いわ〜」
希世子は、もっと扇いだ。
「よし、俺も」
倫行ももっと扇いだ。
二人とも汗だくになるまで扇いだ。




