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62.催眠術のフリして

 夜。

 希世子は、清丸と一緒にテレビを見ていた。

 画面の向こう側では、男性が芸能人に催眠術をかけており、かかった人たちが男性の言うことを何でも聞いていた。


「すごいわねぇ」


「ワフ」


 希世子も清丸もテレビに釘づけだった。



 ◆◆◆



 翌日の朝。

 希世子がカバンの中身を机の中へ移していると、倫行が登校してきた。


「おはよう、三上」


「おはよう、佐藤君」


「昨日テレビで催眠術やってたんだけど、すごかったぞ」


 倫行が興奮気味に話しだした。


「私も見たわ。なんでも命令を聞いてしまうやつでしょう?」


「それ!」


 嬉しそうな倫行。

 希世子も「同じ番組見ててラッキー」と喜んだ。


「不思議だよな。こうやってるだけで催眠にかかるとか」


 倫行が催眠術の真似事をして、ピンと立てた人差し指を左右にブンブン動かした。


「もっとゆっくりじゃなかったかしら? こんなふうに」


 希世子が倫行の眼前で人差し指を左右に動かした。

 倫行の目がそれを追う。


「で、『あなたは私の命令を何でも聞くようになります』って」


 倫行の目がトロンとしてきた。


「三、二、一、はい。みたいなね、フフフ」


 希世子が笑って指を下ろした。

 倫行は、ボーっとした表情だ。


「……佐藤君?」


 倫行の様子がおかしいことに気づいた。


「え、まさか? 佐藤君、右手上げて」


「……はい」


 上げた。


「左手上げて」


「……はい」


 上げた。


「変顔して」


「……はい」


 した。


「かかってる……」


 倫行は、催眠術にかかっていた。


「(どうしましょう)」


 希世子が困った。


「(やってほしいことがたくさんあるわ)」


 何をさせようか悩んだ。


「(『私を好きになりなさい』はさすがにあれだけど、『希世子、愛してるぜ』って言わせるくらいなら……)」


 あれこれと考える。

 そこへ、


「おーす」


 勇美がやってきた。


「佐藤? なんで万歳して変顔してんだ?」


 勇美が訝しむ。

 命令された状態のままだった。


「勇美、実は佐藤君、私の命令を何でも聞く催眠にかかっちゃったの」


 希世子が説明。


「マジかよ」


 ビックリな勇美。


「それで万歳変顔させるなんて、希世子って鬼だな」


 ゴクリと息を呑んだ。


「ち、違うわよ! これは催眠にかかってるか試したらこうなったの!」


「だったらそろそろ解いてやったら? みんな佐藤見てるぞ」


 勇美の言う通り、周りが倫行の奇行を気にし始めていた。


「わかってるわ(残念だけど、やってもらいたいことはあきらめましょう)手を叩くと元に戻ります。三、二、一、はい!」


 希世子が昨日テレビで見たように手を叩いた。


「は!」


 倫行のボンヤリとしていた瞳に光が戻った。

 両手を降ろし、変顔もやめた。


「ごめんなさい、佐藤君」


 すぐに希世子が謝った。


「まさか成功するなんて思わなかったから」


「いいんだ、気にしないでくれ」


 倫行は、笑って許した。


「万歳して変顔させられた時は困ったけどな」


「催眠にかかっている間の記憶があるの?」


「ああ」


「そう……」


 『希世子、愛してるぜ』とか言わせなくて良かったと胸を撫で下ろす希世子だった。

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