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55.ハートのフリして

 日が暮れる。

 図書館での宿題を切り上げた二年一組一行は、河川敷にやってきた。

 図書館に来ていなかったクラスメイトも集まっていた。

 これから花火をやるのだ。


「みんな、花火はたっぷりあるから自由に楽しんでくれ。火の後始末は忘れないように」


 委員長大石からの注意が終わると、みんなが花火へと群らがった。

 それぞれ好きな花火を手に取っていく。


「これもらい!」


 勇美が『怒羅金ドラゴン』という噴き上げタイプの花火を取った。


「へへへ、思いっきりぶっ放してやんよ」


 危なく笑ってる。

 宿題をしていて鬱憤が溜まっているのだ。


「俺はこれを」


「じゃあ私も」


 倫行と希世子は、オーソドックスな手に持つ花火を取った。

 希世子が蝋燭の火に花火を近づける。

 すぐにススキのような火の花が咲いた。


「きれい」


 希世子が花火を見つめる。


「(結局、夏休みの間に佐藤君を惚れさせることはできなかったわね)」


 夏の出来事を思い出していた。


「三上、写真を撮ろう」


 倫行がはしゃぎながらスマホをポケットから出した。


「(人の気も知らないで)」


 ため息混じりに希世子が微笑んだ。


「撮るぞ」


 スマホを構える。


「ええ(まったく)」


 希世子は、イタズラ心から花火で空中にハートマークを描いた。

 ピロリンとシャッター音が鳴った。


「どれ」


 倫行が写真を見る。


「な、なんと!?」


 目を見開いて驚いた。


「どうかしたの?」


 希世子もスマホの画面を覗き込む。

 そこには希世子と希世子が空中に描いたハートマークがくっきりと写っていた。

 残光が撮れたのだった。


「(あっ、ネットでこういう写真見たことあるわ! たまたま撮れたのね!)」


 希世子は、知っていた。


「ハ、ハートマーク!? こ、こ、これって」


 倫行の声が震えている。


「(マズい! 私の気持ちがバレた!)」


「こんな写真が撮れるなんてすごい!」


「(あれ?)」


「なんだこれ!? 花火でこんなことできたのか!? すごいな! アハハハ!」


 倫行が無邪気に笑った。

 全然バレてなかった。


「……そうね」


 ホッとしたような残念なようなむなしいような複雑な心境の希世子だった。



 ……



 いろんな種類の花火をやり終え、希世子は、最後に線香花火を取った。

 火をつけるとパチパチと綿毛のような火花が弾けた。


「こういう花火もいいよな」


 隣に倫行がしゃがんだ。

 手には、線香花火を持っている。


「和むわね」


 希世子が柔らかく笑う。


「今年の夏休みは、いろいろあったな」


 倫行が線香花火を垂らす。


「ええ、楽しい夏休みだったわ」


「二学期もよろしくな」


「こちらこそ、よろしくね」


 希世子は、自身の線香花火を倫行の線香花火にくっつけた。

 倫行の線香花火に火がついた。

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