49.狐なフリして
本日は、神社にて夏祭り。
河原から花火も上がる。
日暮れ時。
希世子は、二年一組の仲間と神社前に集まっていた。
浴衣に身を包み髪を結い上げているその姿は、大人の色気を漂わせている。
「そろそろ行こうか」
全員そろったので移動開始。
委員長、大石雄馬を先頭に歩き出す。
「あら、佐藤君は?」
希世子が雄馬に聞いた。
どこにもいない。
「倫行は、今日用事で来れないってさ」
「そう(ガーーーーーーーーーーン)」
すました顔でショックを受ける希世子。
「(私の浴衣姿でメロメロ&一緒に花火でキュンキュン作戦が……)」
ダメになった。
「希世子、行くぞ」
Tシャツジーパンとラフな格好の勇美が促す。
「ええ」
今日は、普通に楽しむことにした。
◆◆◆
あちこちの夜店を覗いているうちに花火の時間が近づいてきた。
「勇美、もう行きましょう」
希世子が声をかける。
「もうちょい……」
勇美は、型抜きをやっていた。
「みんな河原の方に行ったわよ」
「もうちょい……」
ずっとこれである。
「ハァ」
希世子は、ため息をこぼして辺りを見た。
花火を見るための場所に移動し始めているため、人がだいぶ少なくなっている。
そんな中、たこ焼き屋が目に止まった。
「そういえば、まだ食べてなかったわね」
花火を見ながら食べようと思いそちらへ行くと、店の中に倫行がいた。
法被姿で器用にたこ焼きを焼いている。
倫行の用事とは、アルバイトだった。
「佐藤君!」
ふいの出会いに希世子が喜ぶ。
「なんてたこ焼きさばきかしら」
うっとりした。
「ちょっと驚かせてあげましょう」
いたずら心が芽生えた。
さっき買った狐のお面をかぶってたこ焼き屋の前に来た。
「いらっしゃいませ!」
倫行が威勢よく迎えた。
希世子が指を一本立てる。
「一つですね! ありがとうございます!」
倫行がテキパキとパックにたこ焼きを詰めてソース、マヨネーズやらをかけて希世子の前に置いた。
「お待ちどうさまです! 三百円です!」
希世子が頷き三百円を倫行の手に載せ、
「ありがとうございます!」
と言った倫行の手首をガシッと掴んだ。
「え? お、お客さん?」
倫行がビックリしている。
「(フフフ)」
いたずらが成功し、希世子が面に隠れて笑った。
「(あまり怖がらせるのもかわいそうだわ。ここらでお面をとって正体を明かしましょう)」
ということで希世子が狐面を外そうとした。
そこへ、
「倫行、休憩行ってきていいぞ」
店の奥から五十歳くらいの男が顔を出した。
ここの店主である。
「あ、はい。え、え〜と」
返事をした倫行が、困った顔で店主と狐面の女を見た。
「お? なんだよなんだよ」
店主が希世子に捕まっている倫行を見てニヤニヤした。
「逆ナンとかモテるじゃねぇか、倫行」
「ぎ、逆ナン!?」
倫行が驚いた。
「(逆ナン!?)」
希世子も驚いた。
そんなつもりではなかったのに、という驚きだ。
パッと手を離した。
「ほれ、行ってこい。ゆっくりしてきていいからな」
「は、はあ」
店主に送り出されて倫行は店を出た。
「あ〜、その〜」
狐面をかぶった希世子を前に倫行が困っている。
「(正体を明かさないと)」
と希世子は思いつつも、倫行の半纏の袖を掴んで歩き出した。
「(顔を隠してると、なんだか大胆に行動できておもしろいわね)」
楽しんでいた。
希世子がベンチに座る。
倫行も仕方なく隣に座った。
間が空いていたので希世子が密着した。
倫行がビクッとした。
「クスクス」
肩を揺らして倫行の反応を楽しむ希世子。
倫行の顔は赤い。
グ〜
倫行のお腹が鳴った。
希世子は、買ったばかりのたこ焼きのパックを開けて、爪楊枝で一つ刺し、倫行の口元へ運んだ。
「た、食べろと?」
「コクコク」
「あ、あ〜んか?」
「コクコク」
「で、では、あ〜ん……あ、熱っ、熱い」
「クスクス」
希世子が笑う。
「はふっ、はふっ、フフ、ハハハ」
倫行もだんだん楽しくなってきた。
その時、ドーーーンと空気を震わせる音が響いてきた。
二人が顔を上げる。
夜空には大輪の花が咲いていた。
花火が始まったのだ。
「きれいだな」
「コクコク」
二人はしばし打ち上げられる花火に見入った。
「なぁ、君は誰なんだ?」
花火を見上げたまま倫行が口を開く。
「なんとなく、知ってる人のように思うんだが」
「(そうね。そろそろ正体を……)」
明かそうと思ったが、
「(……私、密着したりあ〜んしたんだった)」
とてもじゃないが明かせないことに思い至った。
ということで、そっと立ち去ろうとしたら、
「希世子」
勇美がそばに来た。
「あ、佐藤。お前、用があるんじゃなかったっけ?」
「……三上なのか?」
勇美の疑問はひとまず置いて、倫行が狐面の希世子を見た。
「プルプルプル!」
希世子は、思い切り首を横に振った。
「でも今、河井が呼んでたぞ」
「希世子? 何で喋らねぇの?」
二人が詰め寄る。
「(マ、マズい)」
追い詰められた希世子は、おもむろに立ち上がり、
「私は、神社に住む狐コン」
裏声で言った。
「狐?」
「コン?」
二人が首を傾げる。
「そろそろ帰る時間だコン。さようならコン」
希世子は、竹林の中へと歩いて行った。
「「……」」
どうしていいかわからない倫行と勇美だった。
……
後日、このことを二人に問い質された希世子だが、知らぬ存ぜぬの一点張りだった。




