48.食べれるフリして
夏真っ盛りの八月の朝。
希世子が清丸と散歩をしていると、
「あら、希世子ちゃん」
家の垣根越しに名前を呼ばれた。
「橋本のおばあ様、おはようございます」
そこは、薔薇のアーチがある橋本しづ子の家の前だった。
「おはよう。まぁ、可愛らしいワンちゃん」
しづ子が清丸に手を振る。
その手には軍手がはめてあった。
「何か作業をしてらしたんですか?」
「今、庭の畑でお野菜を採ってたのよ」
「家庭菜園ですか。素敵ですね」
「園ってほどじゃないけどね。あ、そうだ。希世子ちゃんも一緒に収穫どう?」
「(この暑い中で野菜の収穫……)せっかくですけれど」
「倫行君もいるわよ」
「ご一緒させていただきます」
◆◆◆
「たくさん採れたな〜」
「本当ね」
野菜の収穫を終え、倫行と希世子は縁側で休んでいた。
「このキュウリ美味い」
「トマトも甘くて美味しいわ」
好きなだけ食べてもいいとのことなので、二人とも採れたて生野菜を堪能していた。
「二人ともお疲れ様、これも食べてね」
台所で料理をしていたしづ子が戻ってきた。
持っているお盆には、やはり採れたてのゴーヤを使ったゴーヤチャンプルーが載っていた。
「(うっ)」
料理を見た希世子が心の表情を歪めた。
「(採っていたから出るかもと思っていたけれど、出てしまったわね……)」
ゴーヤが苦手だった。
「(あのにがいのがダメなのよね)」
「はい、どうぞ」
しづ子が二人の間にゴーヤチャンプルーを置いた。
「これも美味そうだ! いただきまーす!」
倫行がさっそく箸をつけた。
豪快にゴーヤチャンプルーを口へ運ぶ。
「モグモグモグ、美味い!」
絶賛した。
「(美味しそうに食べる佐藤君、可愛い)」
希世子がキュンとした。
「さ、希世子ちゃんも冷めないうちに」
しづ子がすすめる。
「はい(どうしましょう。出されたものを断るなんて失礼だし)」
困る希世子。
横では倫行の箸が止まらない。
実に美味そうに食べつづけている。
「(そうだわ!)」
希世子がいいことを思いついた。
「(佐藤君のこの姿を見ながら食べれば、美味しいと錯覚して私も食べれるにちがいないわ!)」
そこに目をつけたのだ。
「(愛の力を持ってすればゴーヤも克服できる!)」
希世子が箸を取った。
「いただきます」
ゴーヤチャンプルーを摘んで口へ入れた。
「モグモグモグ」
咀嚼する。
「(にがい……)」
克服できなかった。




