46.導くフリして
夏休み初日の正午。
昨日クラスで、「一学期が終わった打ち上げをやろう」という話になり、本日二年一組は、河川敷にあるキャンプ場に集まっていた。
これからバーベキューをやる予定だ。
「佐藤君、こんにちは」
倫行に会えて嬉しい希世子がすました顔で声をかけた。
「やあ、三上。地中海はどうした?」
「八月に少しだけ行くことにしたの」
「もとからその予定だったくせに」
勇美が白い目で見た。
「みんなー! 今日は集まってくれてありがとー!」
全員そろうと、イベント事が大好きなクラス委員長、大石雄馬がライブみたいな挨拶をした。
「「「いえーーーーーい!」」」
みんなからレスポンス。
ちなみに、担任の朝田千鶴にも声をかけたが、仕事なので来れなかった。
「さっそくだけど、持ってきた食べ物や飲み物を出してくれ!」
バーベキューの道具は、キャンプ場で借りたが、食材は持参だ。
それぞれが役割を担当していた肉、野菜、ジュースなどを出していく。
デザートにはスイカもあった。
バーベキューの準備が整った。
「よーしみんな! レッツBBQ!」
「「「いえーーーーーーーーーー!」」」
◆◆◆
みんなが食欲を満たすとデザートタイムになった。
川で冷やしていた大玉スイカがビニールシートの上に載せられた。
バーベキュー中に誰かが、「せっかくだからスイカ割りしよう」と言い出し、みんなが賛成したのだった。
「最初は誰が行く?」
委員長の大石が木の棒を持ってみんなを見た。
「はいはいはい!」とほぼ全員手を挙げている中、
「じゃあまずは、スイカを持ってきた倫行」
倫行が選ばれた。
「よし!」
気合いが入る倫行。
棒を受け取り、目隠しをされ、その場で十回まわされて、
「スタート!」
スイカ割りが始まった。
「どこだ? こっちか?」
方向がわからない。
「(大丈夫よ、佐藤君。私があなたを導いてあげるわ)」
希世子も準備オーケーだ。
「(まずは左ね)」
指示を出そうと口を開く。
しかし、それより先に、
「倫行、真っ直ぐだ!」
「後ろよ!」
「右! もっと右!」
周りが偽情報を教えた。
「む? こっちか? どこなんだ?」
倫行が行き惑う。
「(なんてことなの!? これじゃあ佐藤君がスイカまでたどり着けない!)」
希世子は憂えた。
「(させないわ! 私が佐藤君を導く! たとえ暗闇の中にあっても愛の力で!)」
希世子は、胸いっぱいに息を吸い込んで、
「左よーーーーーーーーーーっ!」
思い切り叫んだ。
川辺の水鳥がビックリして逃げ出した。
「……左か?」
倫行が正しい方向へ動き出す。
「(届いた! 私の愛が届いたわ!)」
喜ぶ希世子。
「違う違う! もっと左だ!」
「右斜め前だよ!」
「回れ右しろ!」
またもや嘘を教えるクラスメイトたち。
「(させない! 私の美しい声だけを聞いて!)そのまま進んでーーーーーーーーーーっ!」
希世子が、周りの声にかき消されないよう大声を張り上げた。
空気がビリビリ震えて水面にさざ波が立った。
「……真っ直ぐだな」
倫行が希世子の声に従った。
「(また届いた! やっぱり佐藤君は私の愛情ある言葉から真実を感じているんだわ!)」
希世子が感激している。
その調子でスイカの前に着き、
「そこ!」
という希世子の声に、倫行は、棒を振り下ろした。
パカーンっと見事にスイカが割れた。
「おおーーーーーっ!」
みんなから拍手が起こる。
倫行も目隠しを外して、
「やったーーーーーっ!」
嬉しさに飛び跳ねた。
「私の愛を感じてくれたのね、佐藤君」
希世子が満ち足りた顔で倫行を見つめた。
「一番デカい声に反応してただけじゃね?」
隣から勇美。
「愛の勝利ね!」
聞こえないフリをした。




