37.月が綺麗なフリして
回転寿司からの帰り道。
希世子は、勇美と倫行の三人で帰っていたが、勇美が、「用事があった」と言って別れた。
その際、勇美が希世子にウインクした。
二人きりにしてあげたのだ。
「(ありがとう、勇美)」
ウインクを返し、倫行と一緒に手を振って見送った。
「(さぁ、佐藤君との二人の時間を楽しみましょう)」
再び歩き出す。そこへ、
「あら、佐藤君に三上さん」
二人の担任である朝田千鶴に会った。
「今帰りですか?」
三人並んで歩き出す。
「(二人きりの時間が……)」
五歩くらいで終わった。
「先生も今帰りですか?」
倫行が聞いた。
「ええ。今日は、ずいぶん早くあがれました」
とは言っても辺りは薄暗い。
「いつもお疲れ様です」
「ありがとう、先生」
希世子と倫行の頭が自然と下がる。
「いやですよ、そんな」
照れ臭そうな千鶴。
「(でも、いつも本当にお世話になってるわよね。先生も回転寿司お誘いすればよかったわ)」
希世子がちょっと後悔した。
「あ、見てください」
倫行が東の空を指さした。
そこには黄色い満月が浮かんでいた。
「月が綺麗ですね」
倫行は、空を見上げてつぶやいた。
「(本当、綺麗なお月さ……何ですって!?)」
希世子が驚きもあらわに倫行を見た。
「(こ、こ、告白じゃないの!)」
アイラブユーを『月がきれいですね』と訳した夏目漱石の本を思い出したのだ。
「(いえ、待つのよ希世子。佐藤君は、夏目漱石の訳を知らなかっただけかもしれないわ)」
その可能性が高いと考えた。
「(私ったら考えすぎよね、フフフ)」
希世子が自嘲の笑みをこぼした。
「確かに」
千鶴も空を見上げる。
「月が綺麗ですね」
同意した。
「(漱石返し!?)」
希世子の驚きが止まらない。
「(こ、これは確信して言ってるわ! 教師が知らないなんて考えられないもの!)」
決めつけた。
「(そういえば、朝田先生は、席替えの時も私と佐藤君の仲を引き裂こうとしていたわね)」
そう妄想している。
「(これは聞き流すことはできないわ)朝田先生」
「はい」
「生徒と教師で漱石だなんてもってのほかです」
「はい?」
千鶴は知らなかった。
倫行も。




