35.混ざるフリして
放課後。
掃除を終えた希世子が教室に戻ってくると、女子五、六人ほどが残ってワイワイ話していた。
「あ、三上さん、お疲れー」
女子たちが希世子に気づいて声をかける。
「お疲れ様。楽しそうだけど何を話してたの?」
「ウチのクラスの男子で誰がカッコイイかって」
「(ほほう。これは、私以外に佐藤君を好きな子がいるか調査するいい機会ね)」
希世子は、そう考え、
「みんなは誰が良いのかしら?」
混ざることにした。
「私は、近藤君」
「アタシは、沢田君」
「私は――」
みんなが名前を出していく。
しかし、倫行の名前は出てこない。
安心は安心だが、出てこないなら出てこないでモヤっとする。
「佐藤君はどうかしら?」
直接聞くことにした。
「あ〜、佐藤君いいよね。真っ直ぐっていうか誠実っていうか」
「(よくわかってるわね、フフフ)」
希世子が喜んだ。
「彼氏いなかったら、本気で狙ってたかも」
「(その場合、私も本気であなたを狙ってたかも)」
「ん? 今なんかゾクッてした」
「佐藤君、確かに良い人よね」
「でも、友達止まりかな」
結局、倫行はみんなから好印象だったが、本気で好きな人はいなかった。
「(ライバルがいなくて良かったわ)」
希世子が安堵した。
「それで、三上さんは誰が良いと思うの?」
「え?」
「三上さんがカッコイイって思う人知りたいわ」
「……」
いきなり話を振られて希世子が口ごもる。
しかし、みんなが正直に言っている中で自分だけ口を閉ざすという卑怯なことなどできるわけもなく、
「私は……」
希世子が教えようとしたら、
「何言ってんのよ。三上さんは、あの人でしょ」
「あ、そっか」
「そうそう、あの人に決まってるよね」
みんな勝手に納得した。
「知ってるの?」
希世子が確認する。
「そりゃね〜」
「ね〜」
みんなしてニマニマと笑った。
「(そうなの!? どうして!?)」
信じられないといった面持ちの希世子。
「(あっ、もしかして私から佐藤君はどうか聞いたからそれで!?)」
思い至った。
そこへ、
「おつ〜」
希世子と同じく掃除を終えた勇美が教室に入ってきた。
「あ、噂をすればだね」
「タイミング良すぎ」
女子たちが笑顔で迎えた。
「は? 噂?」
勇美は、キョトンとしている。
「勇美の噂なんてしてた?」
希世子も首を傾げた。
「今してたじゃない」
「今?」
「三上さんが一番カッコイイと思う人、ていうか好きな人、勇美でしょ?」
「え゛」
希世子の喉から変な声が出た。
「二人仲良いからわかるよね」
「いつも一緒だしね」
全員の共通認識になっていた。
「……お前、そうだったのか?」
勇美がキモそうな顔で聞く。
「違うわよ」
即否定した。
「みんな勘違いしてるわ」
希世子が言うが、
「わかってるって」
「ウチら邪魔しないから」
全然わかってなかった。
「でもさ、女だけど勇美ってクラス一のイケメンだから気持ちはわかる」
女子の一人が言うと全員頷いた。
「クラス一? イケメン?」
希世子が、『もう何が何だか』という顔をしていると、
「カッコイイと思う男子はバラバラだけど、クラスで一番カッコイイと思う人は……」
一人が言ってみんなを見回す。
「「「「「勇美!」」」」」
全員の声がそろった。
女子たちの考えるクラスで一番のイケメンは、高身長でショートカットの女子、河井勇美だった。
「勇美ってウチらの理想だわ」
「マジ王子様」
「女とわかっててもたまんないよね」
パーフェクトな人気ぶりだった。
「「……」」
希世子と勇美が目を見交わす。
「……おめでとう、勇美」
希世子が一応祝福した。
「全っ然嬉しくねぇ!」
喜ばなかった。




