29.絵を描くフリして
美術の時間。
今日は、中庭で写生だった。
「みなさん、自由に描いてください。風景、花、虫などなんでもかまいませんよ」
女性美術教師が説明して写生開始。
みんなが思い思いの場所へ移動した。
希世子は、倫行の動きを気にしていた。
風景画を描くフリして、さりげなく倫行を絵の中に入れるつもりなのだ。
「(世界が認める私の手であなたを描いて感動させてあげるわ)」
希世子が心の中でウフフと笑った。
倫行は、しばらくウロウロしていたが、木の下に腰を落ち着けた。
「(では、あの木を描きましょうか)」
希世子は、倫行が背をもたせかけた木を描くことにした。
……
「はい、そこまで」
四十分ほど経って教師が終了の声をかけた。
「ふむ」
希世子が鉛筆を置いて自分の描いた絵を眺める。
「ゴッホを超えたわね」
自信たっぷりだ。
「さて」
と倫行のところへ行こうとすると、
「三上、どうだ?」
倫行から希世子へ近寄ってきた。
「こんな感じよ」
希世子が絵を見せた。
「う、上手い! 高校生レベルではない!」
倫行が驚愕した。
「ありがとう(そうでしょうそうでしょう)」
「やや? ここにいるのは俺か?」
「ええ。(気づいたわね。さあ、感動なさい! 感動しすぎて私に告白してもよくてよ!)」
「実は俺もなんだ」
「え?」
「ほら」
倫行が自分の描いた絵を見せた。
頭の横、長い黒髪にアゲハ蝶が止まっている希世子の横顔が描かれていた。
「(私だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)」
希世子は、目玉が飛び出しそうなほど驚いた。
「(女神かと思ったけど私だわ! モナリザ以上よ! ダ・ヴィンチを超えてるわ!)」
感動した。
「髪飾りみたく全然動かなくってな。こりゃいいと思って」
「まぁ、変わった蝶だこと、フフフ(お家に持って帰りたーーーーーい! 部屋にあるモネを外してこっちを飾るから!)」




