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118.恋してないフリしない

 今日、三年生は卒業式をむかえた。

 体育館には母校を巣立つ生徒のすすり泣く声がいくつも聞こえていた。



 ……



 式を終えた三年生が校内のあちこちで、涙ながらに、時には笑顔で思い思いの時間を過ごしている。


 そんな校庭の一角。

 三年女子が三年男子を呼び出していた。

 女子が意を決したように口を開いた。


「ずっと好きだったの。付き合ってください」


 告白だ。


「ありがとう」


 男子が微笑んでお礼を言った。


「でも、お前とは付き合えない」


 しかし、告白は断った。


「え? な、何で? う、うちらずっといい感じだったじゃない」


「俺、彼女できたんだ」


「え……」


「俺もお前のこと好きだった。でも、もう遅いんだ」


「そんな……」


「さようなら」


 男子がその場を後にする。

 女子は、悔いの残る表情で男子のいなくなった場所をずっと見つめていた。


 そのやり取りを校舎の陰から聞いている女子がいた。

 希世子だった。



 ……



 ガラリと扉を開けて希世子が教室に戻ってきた。

 中には誰もいない。

 もうみんな帰っていた。

 図書室で借りた本を机に置いた。


「もう遅い……」


 先ほど告白を受けた男子のセリフを口に出してみた。

 それを倫行の口から出たところを想像した。

 背筋がゾっとした。


「でも、佐藤君がいつまでも一人とは限らないわよね」


 倫行の机に指を触れる。

 女子は後悔していた。

 てきれば悔いなく卒業したい。

 倫行に想いを告げて。


「……好きよ、佐藤君」


 口に出してみた。


「え……」


 教室の入り口から声がした。

 希世子が顔を上げる。


「み、三上が俺を?」


 閉め忘れた扉の向こう、倫行が廊下に立っていた。


「!」


 まさかのタイミングに希世子が目をまん丸にして驚いた。が、


「というシーンがすごく良かったわ、この本」


 希世子は、図書室で借りてきた本を見せてとっさに誤魔化した。

 もちろんそんなシーンなどない。


「あ、ああ、なんだ、ビックリした」


 倫行がハハハと笑う。

 希世子も微笑んでいるが心の中では冷や汗を拭っていた。


「三上は読書家だな」


 倫行が教室に入って窓辺に歩み寄った。


「佐藤君は、何をしていたの?」


「知り合いの三年生を見送っていたんだ」


 外を眺める。

 胸ポケットに花を挿した三年生が校門を出ていく。


「先輩、スッキリした顔で帰っていったよ。俺も来年は、先輩のように悔いなく卒業したいな」


「悔いなく……」


 先ほどの女子の表情が頭をよぎった。

 悔いの残る顔。

 倫行にフラれるのは嫌だ。

 でも何もしないで後悔するのも嫌だ。

 後悔したくない。

 あんな顔で倫行の背中を見送るだけなんて絶対に嫌だ。


「……さっきのは、本当なの」


「え? 本当って?」


「さっきの気持ち」


「それって」


 希世子が倫行を正面から見つめる。


「佐藤君、好きです」


 フリをしないことにした。


「一年生の時、あなたに廊下で助けられた日から、ずっとあなたのことが好きでした」


 隠さず全てをさらけ出すことにした。


「……」


 倫行が驚いた様子で目を瞬き、


「ありがとう」


 お礼を言った。


「すまない」


 しかし、すぐに謝った。


「そう……」


 後悔はない。


「でも、これからも友達でいて」


 言葉を絞り出す。

 それでも希世子の表情が崩れる。


「友達?」


 倫行がキョトンとした。


「あ、いや、ち、違うんだ!」


 あわてた。


「違う?」


 涙声の希世子が首を傾げた。


「こんなこと、女子の口から言わせるなんて、俺は自分が情けなかったんだ」


 倫行が息を目一杯吸い込む。


「三上!」


「?」


「好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 目一杯叫んだ。

 窓がビリビリ震えた。


「……好き?」


 戸惑う希世子。


「ああ! 俺も三上のことが大好きだ!」


「そうなの……?」


「そうなんだ!」


「佐藤君が私を好き……」


 希世子が言葉を噛み締める。


「本当なの?」


「本当だ」


 倫行が真実であることを証明するように大きく頷いた。


「いつからだろうな。気がつけばいつも目で追っていた」


「ああ……ああ……!」


 希世子が顔を手で覆った。

 嬉しい感情が言葉にならない。

 けれど、代わりに涙が溢れる。

 頬を伝い流れ落ちた。


「おめでとー!」

「よかったなー!」


 突然外からそんな声が聞こえてきた。

 二人が窓を開けて外を見る。

 外にいる生徒たちが自分達を見上げて拍手していた。


「希世子ー! やったなー!」


 勇美もいた。

 涙目で、でも笑顔で祝福していた。


「わ、私たちのこと気づいてるの? な、何で?」


 希世子が涙目を擦りながらあたふたする。


「俺が大声で告白したから聞こえていたんだろう」


 窓が震えていたぐらいだった。


「希世子ー、今の気持ちはー?」


 勇美がインタビュアーみたく聞いてくる。


「こ、これは、ち、違……」


 恥ずかしさのあまり誤魔化しそうになったが、


「俺も聞きたい」


 との倫行の言葉に、希世子は、


「佐藤君、大好きーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 心の中ではなく、声に出して叫んだのだった。

118話ですか。

お読みいただきありがとうございました。

アンドお疲れ様でした。

また次の作品でお会いできると嬉しいです。

ではでは。

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