117.呼び出しのフリして
バレンタインデーの翌日。
お昼休み。
「もし止めなかったら、どんな答えが……」
希世子がまだブツブツ言っていた。
弁当を前に箸が進んでいない。
「いつまで言ってんだ」
パンを食べながらウザったそうな勇美。
「そんなに気になるなら止めなきゃよかったんだ」
「でも、うまくいく可能性は百パーセントじゃなかったのよ」
「でも、うまくいってた可能性もある」
「ああ、止めなかったらどんな答えが……」
ループしている。
「早く告らないとどっかの女に取られるぞ」
「今のところそれらしい影も噂もないから大丈夫よ」
「そうかもだけど」
と肯定してから勇美は、友達と駄弁っている倫行を見て、
「……いや、そうでもないかも」
すぐ否定した。
「え?」
希世子も勇美の視線の先へ目を向けた。
倫行のそばに知らない女子がいた。
ネクタイの色は、同じ二年生だ。
「佐藤君よね?」
女子が声をかける。
「そうだが、君は?」
「話したいことがあるの。一緒にきてくれない?」
「いいぞ」
倫行は、女子と教室を出て行った。
「ウソ!?」
「マジで!?」
「告白か!?」
教室内が騒然とした。
「おいおいおい、ビックリだな希世子」
勇美が顔を前へ向けた。
誰もいなかった。
希世子はすでに倫行のあとを追っていた。
「希世子のやつ、変なことしでかさないだろうな」
勇美も希世子を追って教室を出た。
……
校舎裏へやってきた倫行と女子。
いかにもな雰囲気の場所だ。
「告白かしら……」
あとを追ってきた希世子が不安いっぱいに校舎の陰から見ている。
「そうなんじゃね」
途中で希世子に追いついた勇美も予想は同じ。
「どうするよ、佐藤がオーケーしたら」
「……」
希世子は、答えられない。
「ついてきてくれてありがとう」
女子が倫行へお礼を言った。
「それはいいが、話って何だ?」
「本当は、昨日話したかったの」
昨日は、バレンタインデーだ。
「やっぱり告白だわ」
「だな」
希世子と勇美が確信を持った。
「佐藤君、率直に言うわ」
女子がまっすぐに倫行の瞳を見つめた。
「(結果はわからない。けれど、もし佐藤君がオーケーしたら……私耐えられないわ!)」
希世子がギュッと拳を握った。
「佐藤君」
「待って!」
希世子が止めようと飛び出した。
「私はあなたが憎い!」
「え? あれ?」
「ん? 誰かいるの?」
女子が振り返る。
誰もいない。
希世子は、すぐに引っ込んでいた。
「告白は告白だったな」
小声で勇美。
「恋とは真逆じゃない」
冷や汗を拭う希世子。
「今誰かいなかった?」
女子が倫行に聞いた。
「い、言われたことが衝撃的すぎて、それどころじゃなかった」
倫行がバックンバックン鳴っている胸に手を当てた。
「お、俺と君は初対面だよな?」
「そうね」
「なぜ俺を憎む?」
「昨日、勇美さんにバレンタインガムをもらったでしょう?」
「ああ」
「それが許せない」
「なぜだ?」
「私のほうが勇美さんを好きなのに!」
女子が悔しさに叫んだ。
「どうして、佐藤君にだけ……うぅっ」
悲しんだ。
「……え〜と」
倫行が困っている。
「そういうこと」
希世子が察した。
「告白じゃなくてよかったな。帰ろう」
勇美が逃げようとした。
「ちょっと、勇美。あの子なんとかしなさいよ」
希世子が止める。
「あたし何も見てない聞いてない」
知らんぷりしようとした。
「早く!」
背中を押した。
「わっ」
勇美が校舎の陰からまろび出た。
「え? い、勇美さん!?」
女子がすぐに気づく。
「も、もしかして、い、今の会話聞いてたりとか……」
「……うん、聞いてた」
勇美がしんどそうに返事した。
「は、恥ずかしーーーーー!」
女子は、顔を赤くして逃げ出した。
変な空気の中、勇美と倫行が残された。
「なんか、ごめん」
「いや、うん」
勇美が倫行に謝り、倫行が曖昧に返事をしている。
それを見ながら希世子は、
『早く告らないとどっかの女に取られるぞ』
勇美の言葉を思い出していた。




