115.滑ったフリして
朝。
「今朝は、一段と冷えるわね」
希世子が寒い中を登校していると、
「きゃ!?」
前を歩いていた女子が凍った水たまりで滑り、ドシンッと氷の上に尻餅をついた。
「いたたた」
「ハハハ、何やってんだよ」
そばにいる男子が笑う。
「笑ってないで手を貸してよ」
女子がプンスカ怒って手を伸ばす。
「わりぃわりぃ」
男子が手を掴んで引っ張った。
「うわっ」
しかし、男子も氷に足を滑らせ女子に覆いかぶさるようにして倒れた。
「……」
「……」
吐息のかかる距離で二人が見つめ合う。
頬が赤く染まっていく。
いい雰囲気の二人。
「それいただくわ!」
希世子が叫んだ。
「「!」」
二人は、あわてて離れた。
……
学校前。
「三上」
後ろから呼ばれて希世子が振り返った。
倫行が手を上げていた。
二人の間には凍った水たまりがある。
「(チャーンス!)」
希世子が心の中でニヤリと笑った。
「佐藤君、おはよう」
倫行の方へと歩き出す。
凍った水たまりに足を踏み入れ、
「きゃっ!」
滑ったフリをして尻餅をついた。
「三上!」
倫行が駆け寄る。
「ビックリしたわ」
希世子は、もちろん平気だ。
「良かった」
倫行が安堵の息を吐き、
「立てるか」
氷の上に立って手を伸ばした。
ギラリと希世子の瞳が光った。
「(カモン、佐藤君!)」
倫行の手を握り、体重をかけて引っ張った。
倫行が踏ん張る。
希世子は、あっさり立ち上がった。
「(佐藤君の体幹がすごーーーーーーーーーーい!)」
たくましさを知った。




