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114.置き忘れたフリして

 休日。

 希世子がドラッグストアでリップクリームを買っていると、


「あ、三上先輩だ」


 同じ高校の男子一年生二人が近くを通りかかった。


「美人だよなぁ」


「うん、さすがミスコン優勝者だ」


「三上先輩の使いかけリップクリーム欲しいなぁ」


「もらってどうすんだよ」


「……フフフ」


「変態。気持ちはわかるが」


 二人が通り過ぎていった。



 ◆◆◆



「ということがあったの」


 翌日の休み時間。

 希世子は、勇美に昨日のことを話した。


「それはわかった。で、なんでこんなことしてんだ?」


 今二人は、教室入り口の扉の陰から、自分の席に座っている倫行の様子を窺っていた。


「佐藤君が私に少しでも惹かれているのなら、あのリップクリームに手が伸びると思うの」


 希世子の机の上には、使いかけのリップクリームが置かれていた。


「それを観察するためにこっそり見てたと」


「そういうことよ」


「佐藤が使いかけのリップクリームをとったら嬉しいのか?」


「嬉しいわ」


「そうか」


 何も言わないことにした。


「でもさ、そもそも佐藤のやつリップクリームに気づいてなくね?」


 倫行は今、教科書を開いて予習をしていた。


「う〜ん……かもしれないわね。タイミングを間違えたかしら」


 希世子がミスを認め、やり直そうかと考えていると、希世子の机に男子がぶつかった。

 リップクリームが机から落ちてコロコロ床を転がり倫行の席の横で止まった。


「ん? リップ?」


 倫行が拾う。


「フィッシュよ!」


「釣りじゃないんだから」


 と話していると、


「河井のかな?」


 倫行が勇美のものと勘違いして勇美の机の上に置いた。


「思った通り、そもそもリップに気づいてなかったな」


「そのようね……」


 勇美に言われ、希世子が肩を落とした。


「んじゃ、戻るか」


 勇美が教室へ入ろうとした。その時、


「あら、副委員長だわ」


 希世子が気づいた。

 副委員長の女子、青木巴が勇美の机のそばへやってきた。かと思うと、リップクリームを素早く取ってキャップを開けて唇に塗って素知らぬ顔で戻して自分の席に帰った。


「……」


「……」


 勇美と希世子が言葉を失った。


「……副委員長って、勇美のこと」


「みなまで言うな」


 勇美が遮った。


「あの女、真面目そうな顔して恐ろしいやつだな……」


「私のリップが……」


 二人して嘆いた。

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