113.落書きのフリして
「寒いわね〜」
朝。
冷たい風が吹く中、希世子が通学路を歩いていると、車道をバスが追い抜いていった。
窓には、誰が書いたのか結露を利用した相合傘の落書きがあった。
「ふむ。結露に相合傘か……」
希世子がいいことを思いついた。
……
教室に到着すると、希世子は、倫行の席の横の窓を見た。
「できてるわね」
結露ができていた。
希世子は、倫行がまだ来ていないこと、誰もこちらを見ていないことを確認してから、窓に相合傘を書き始めた。
傘の下に書く名前は、『三上』と『佐藤』だ。
「(これを見れば佐藤君は、『お、俺たちは周りからそんなふうに見えるのか? 俺と三上が……』と意識せずにはいられないはず)」
そんなことを考えていた。
「(さぁ、意識なさい! 胸の鼓動を高鳴らせなさい!)」
希世子は、窓に相合傘と名前を書いた。
「(……佐藤君の『藤』の字画が多くて、ぐちゃっとなるわね)」
うまく書けない。
「(次書くときは、ひらがなで書きましょう)」
希世子は、タオルで窓を拭いて消した。
……
三時間目終わりの休み時間。
「げ!? 教科書忘れた! 借りてこないと!」
倫行が席を立った。
「(今のうちに)」
希世子は、倫行が教室を出たのを見てから、窓に相合傘と名前を書いた。
「(……字が綺麗すぎて私ってわかるわね)」
窓をタオルで拭いて消した。
……
五時間目終了。
「トイレトイレ」
倫行が教室を出ていった。
「(しめしめ)」
希世子が窓に相合傘と名前を書いた。
結露した水滴の粒が大きすぎて書いてすぐに字が崩れた。
「(うまくいかないものね)」
窓をタオルで拭いて消した。
……
倫行の横の窓だけピカピカになった。




