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110.走るフリして

 本日は、持久走大会。

 男子は、十キロ。

 女子は、八キロ。

 コースは、学校を出発してから近くにある大きな池を囲む遊歩道を、男子は五周、女子は四周して学校へ戻ってくるというシンプルなもの。


 学年ごとに時間をずらして走り、男女は同時スタートだ。

 まもなく二年生がスタートの時間をむかえるのだが、


「はぁ〜」


 希世子は、大きなため息をついていた。


「走りたくない……」


 持久走が苦手だった。


「やったるぜ!」


 隣では勇美が気合い十分だった。

 勇美は、得意だった。

 というかスポーツ万能だった。


「元気ね……」


 そんな勇美が恨めしい希世子。


「何か速く走る方法ないかしら?」


 勇美に意見を求めた。


「手と足をガーって動かすと速く走れる」


「はぁ〜」


 もう一丁ため息をついた。


「あとは、速いやつについて行くとか」


「それよ!」


 希世子がピンときた。



 ……



「よーい」


 パンッ


 二年生の男女がスタート。


「おりゃーーー!」


 勇美が飛び出した。

 男子も置き去りにして圧倒的先頭で駆けていく。


「無茶苦茶ね」


 希世子が呆れた。

 しかし、去年もあの走りで一位になっていた。


「さてと、私も作戦を実行に移しましょうか」


「あたしについてこないのか?」


 勇美が戻ってきた。


「何で戻ってくるのよ」


「速いあたしについて来んのかなと思ったら来てなかったから」


 それで戻ってきたのだ。

 本当に呆れるしかない。


「あんな走りについていけないわよ」


「じゃあ、作戦なしで普通に走んの?」


「ついていく作戦よ。勇美じゃなくて佐藤君に」


 希世子が前を見た。

 少し離れたところに倫行が走っていた。


 希世子は、『速いやつについていく』ではなく『好きな人についていく』ことで速く走ろうとしていた。

 ついでに、倫行を見ていると持久走の辛さを忘れられるので一石二鳥だった。

 それを勇美に説明した。


「恋でも追いかけて、持久走でも追いかけてなぁ……」


 勇美がしみじみ言った。


「そんなわけだから先に行っていいわよ」


「先頭言っても暇だから、ちょっと見てる」



 ……



 五分後。


「ハァ、ハァ」


 希世子は、早くも疲れてきていた。

 男子のペースで走っているのだから、そうなるのも当然だろう。


「(こんな時は)ハァ、ハァ、佐藤君、ハァ、ハァ、ハァ、佐藤君、ハァハァハァハァ、佐藤君、ハァハァハァハァハァ、ウフ、ウフフフフ」


 希世子は、荒い呼吸で前を走る倫行を見つめて笑った。


「ヤベェ……」


 勇美が危険人物を見る目を希世子へ向けていた。

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