108.売り子のフリして
買い物中の勇美と希世子。
「次どこ行く?」
「そうねぇ」
と考えながら歩いていると商店街の前を通りかかった。
「ちょっと寄っていいかしら」
希世子が商店街を指さす。
「いいけど、何買うの?」
「ここにある八百屋で佐藤君が焼き芋売りのアルバイトしてるのよ」
「へ〜、行こう行こう。からかいに行こう」
「そういうことしないのよ」
……
「よう、佐藤」
「こんにちは、佐藤君」
二人が八百屋にやってきた。
「河井に三上。いらっしゃい」
倫行が笑顔で応じた。
「ごめんなさい、今日は焼き芋じゃないの。佐藤君の様子を見にきたの」
「そうか。それでも来てくれて嬉しいよ」
「(佐藤君が喜んでる! 私も来てよかったー!)」
希世子が佐藤分を補給した。
「んで、しっかりやってんのか?」
勇美が親戚のおっさんみたいに絡む。
「うむ、俺はしっかりやってるんだが……」
倫行が沈んだ表情で周りを見た。
人通りがまばらだった。
「お客さんが少ねぇんだよ」
横から八百屋の男性店主(50歳)が説明した。
「いつもありがとな、べっぴんの嬢ちゃん」
「いえ(べっぴんのほうは、はい)」
「今日はこのままお客さん来ねぇかもな」
店主が口をへの字にする。
「倫行、もうあがっていいぞ。友達と遊んでこい」
「え、でも焼き芋ほとんど売れてないのに」
倫行の前にある保温ケースの中には、焼き芋が三十本以上残っていた。
野菜売り場のほうもだいぶ残っている。
「しゃあねぇ。こんな日もあらぁな、ガハハハ」
店主は、気にした風もなく笑った。
と、そこへ、
「すみません、焼き芋一つください」
三十歳くらいのサラリーマンが声をかけてきた。
希世子に注文している。
「はい、少々お待ちください」
希世子がとっさに対応した。
「佐藤君、こちらの方が」
「はい、ありがとうございます!」
倫行が元気に応えた。さらに、
「焼き芋ください」
「私も」
とOL二人組が言ってきた。
今度は勇美にだ。
「はいよ」
勇美がとっさに対応する。
「佐藤、焼き芋二本だってよ」
「はい、ありがとうございます!」
倫行が良い返事。
ひとまず一本を紙袋に入れて、
「私が渡すわ」
「助かる」
希世子がサラリーマンに袋を渡した。
お金を受け取り、
「ありがとうございました」
希世子が笑顔でお礼を言う。
「ど、どうも」
サラリーマンは、顔を赤くして歩いて行った。
次に倫行が焼き芋を二本紙袋に入れる。
「あたしがやるよ」
「すまん」
勇美が袋を受け取って、
「ほい」
OL二人組に渡した。
お金を受け取り、
「毎度あり」
勇美が微笑むと、
「「きゃー!」」
OL二人組が黄色い悲鳴を上げた。
「握手してください!」
握手も求めた。
「え、うん」
握手した。
「「きゃーー!」」
きゃーきゃー言ってOL二人組は、帰って行った。
その後もお客がひっきりなしにやってきた。
男は希世子に、女は勇美に注文する。
「焼き芋くれ」
「私もちょうだい」
「玉ねぎと人参くださいな」
野菜も注文する。
商品は、飛ぶように売れた。
……
三十分後。
焼き芋は全部売れた。
野菜も全部売れた。
「じゃ、あたしら行くわ」
「じゃあね、佐藤君。店主さんも失礼します」
二人は、買い物へと戻って行った。
「……すげぇな、お前の友達」
「……ですね」
店主と倫行は、驚き未だ冷めぬ顔で見送った。
「美男美女の最強カップルじゃねぇか」
「河井も女です」
「マジで!?」
今気づいた。




