106.百人一首のフリして
希世子が家で清丸と箱根駅伝を見ていると、倫行からラインがきた。
『明日自治会で新年会するんだが来ないか? 子供たちも三上に来て欲しいって』
とのことなので嬉々としてオーケーの返事をした。
◆◆◆
翌日。
希世子は、集会所にやってきた。
「希世子ちゃーん!」
「女神さまー!」
「あけましておめでとー!」
扉を開けるなりちびっ子が希世子に群がった。
「あけましておめでとう、みんな」
希世子が笑顔で応えた。
もはやこの地区の住人のようだ。
「いらっしゃい、三上」
倫行がスリッパを用意して迎える。
「お招きいただきありがとうございます、佐藤君」
お礼を言ってから靴を脱ぎ希世子が中へ入った。
部屋の中には独楽や羽子板や百人一首などがある。
「これは?」
「今日はみんなで昔ながらの正月遊びをやるんだ」
「あら、素敵ね」
周りを見れば、大人たちが子供相手に独楽回し勝負をしたり、外で羽根突きをしていた。
「希世子ちゃん、百人一首やろ!」
ちびっ子数人が誘う。
「三学期に学校で百人一首大会あるの!」
その練習をしたいのだ。
「いいわよ」
「やったー!」
ちびっ子たちが喜んだ。
「倫行くんも!」
「うむ」
ということで倫行と希世子は子供たちと百人一首をすることになった。
男の子チーム五人と女の子チーム五人に分かれての団体戦。
一組の百人一首を使って、下の句が書かれた百枚を畳に置き、それをみんなで取り合う特別ルールだ。
「希世子ちゃん、百人一首得意?」
女の子が聞いてくる。
「まぁまぁね」
フフフと希世子が上品に笑った。
読み手を引き受けてくれたおばあさんに倫行が絵札を渡して試合開始。
「それじゃあ始めるわね」
おばあさんが息を吸い込む。
「花の」
「はいぃぃぃ!」
バシーンッと畳をたたいて希世子が札を払い飛ばした。
「色は〜うつりにけりないたづらに〜わが身世にふるながめせしまに〜」
おばあさんが読み続ける中、希世子は、立ち上がって飛ばした札のところへと歩いていき、札を拾うと、
「どうかしら」
正解であることを見せるため表面をみんなへ向けた。
ちびっ子たちは、ポカーンとしていたが、読まれた札であることを確認すると、
「すごーーーーーい!」
目をまん丸にして驚いた。
「まだちょっとしか読んでなかったのに!」
「希世子ちゃん、かっこいー!」
「さすが女神さま!」
ちびっ子たちが褒めちぎる。
「(ざっとこんなものよ)」
希世子が胸を張って賞賛を浴びた。
希世子は、百人一首の句を全て記憶しており、場に置かれた札の場所もすでに頭に入れていた。
才女ならではの芸当だった。
「(どうかしら佐藤君、私の百人一首っぷりは? 二十一世紀の小野小町に『恋すてふ』なのではなくて?)」
希世子が倫行からの恋の眼差しを期待して元の場所に戻った。
倫行は、半笑いのような微妙な顔をしていた。
「(どういう反応?)」
読めない。
「三上」
倫行が手招きする。
希世子が顔を近づけた。
「相手は子供だから」
「あっ」
倫行の言わんとしていることに気づいた。
希世子は、倫行にいいところを見せようと気張りすぎて、子供相手にガチで取りにいってしまった。
「取らせてあげないと、よね」
希世子がしょんぼりと肩を落として反省した。
しかし、
「あー。倫行くん、私たちが子供だからってバカにしてるー」
子供たちに聞かれていた。
「あ、いや」
倫行がアタフタする。
「手加減しなくていいよー」
ちびっ子たちがきっぱりと言ってくる。
「そうだよ」
「練習になるし」
「希世子ちゃん、真剣にやってね」
「子供だからってバカにするなー」
との意見。
「むう。どうやら、俺のほうが間違ってたようだ」
今度は倫行が反省した。
「すまん、三上」
「謝ることじゃないわ。時と場合によるだけの話よ」
希世子は、気にしないでと首を横に振った。
「さぁ、みんな、再開しましょう」
「手加減なしでいいからね!」
「もちろんよ」
……
希世子が百枚取った。




