101.電話のフリして
現在冬休みの真っ最中。
「ただいま」
希世子が外での用事を終えて家に帰ってくると、
「ワンワン!」
清丸が尻尾をフリフリ玄関へ駆けてきた。
「ただいま、清丸」
希世子が抱きしめる。
「ク〜ンク〜ン」
清丸は、大喜びだ。
「清丸は温かいわね」
今まで外にいたので、なおのこと身に染みる。
「清丸〜」
そのまま清丸の茶色い毛並みに顔を埋め、
「ん?」
希世子が顔をしかめた。
「クンクン」
匂いを嗅ぐ。
「清丸、ちょっと匂うわね」
臭かった。
「ワフ!?」
清丸がビクッとした。
「お風呂に入りましょうか」
と希世子が言うと、
「……」
清丸は、悟りを開いた僧のように無表情になった。
清丸は、お風呂が苦手だった。
「清丸、行くわよ」
「ワフ〜……」
清丸がフローリングに寝そべった。
嫌だ行かない動かないの意思表示だ。
「もう。清丸は本当にお風呂が嫌いね」
希世子が困る。
「そうだわ、こういう時はペットの先輩佐藤君に相談しましょう」
ということで、一旦清丸と一緒に自室へ戻ることにした。
「佐藤君とお話しできるわ、ウフフ」
そっちが目的と言えなくもない。
……
部屋に入ると鞄を置いて、希世子は、さっそく倫行に電話した。
呼び出し音が数回鳴り、
『もしもし』
倫行がでた。
「(はふ〜、いい声〜)もしもし、三上です。久しぶりね、佐藤君」
『ああ。と言っても二、三日ぶりだけどな、ハハハ』
と他愛のない話を少しした後、
「実は、清丸がお風呂を嫌がって素直に入ってくれないの」
と切り出した。
「ワフ!?」
お風呂と聞いただけで清丸がビクッとした。
『あ〜、お風呂か』
わかるわかると言わんばかりの声音。
「何か嫌がらない良い方法知らないかしら?」
『ウチのマシュマロも昔は苦手だったんだよ』
「まぁ、そうなの。(そういえば帰ってきたままの格好だったわね。着替えなきゃシワになるわ)」
希世子は、話しながら、スピーカーホンにしてスマホをスタンドに立てた。
『でも、夏の暑い時に、お風呂じゃなくて庭の水場で洗ったんだよ。水遊び感覚で』
「うん」
希世子がマフラーを外し、コート、セーターと脱いでいく。
清丸は、不思議そうな顔で声が大きくなったスマホへ近づく。
『そしたら、いつもみたいに嫌がらなかったんだ』
「まぁ。どうしてかしら?」
スカートも脱ぐため、ホックを外してチャックを下ろした。
スマホに近づいた清丸が前足で画面に触れた。
触れた箇所にビデオ通話のアイコンがあった。
希世子がスカートを落とした。
『多分だけど……ん? ビデオに? どうかし………………』
倫行の声が途切れた。
「佐藤君?」
突然聞こえなくなった倫行の声に、希世子がスマホを見た。
「……え? ビデオになってる?」
画面には倫行が映っていた。
顔を画面から背けている。
『え〜っとだな、三上。きっと清丸がビデオ通話のアイコンをタップしちゃったんだと思う』
「そうなの?」
『で、俺は、よくわからないままビデオにしただけだから』
としっかり理由を説明してから、
『ギリギリ見てないから安心してくれ』
教えた。
「見てないって何を?」
『その〜……着替えてるところ』
下着は見てない、と。
「!?」
希世子が己の姿を見た。
上はブラウス下はストッキングだった。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
それはそれはよく響いた。
……
平静を取り戻してから電話を切り、
「さ、清丸、お風呂に行きましょう」
笑ってない目で部屋を出た。
「ワ、ワフ〜……」
清丸は、文句も言わずにドナドナついていった。
いつもより長めに洗われた。




