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11.留守の間に2

 また別の日のこと。

 マーガレット様の家を訪ねると、何かの作業をしていたらしい彼女が、慌てて厨房から顔を見せた。


「あら、早かったわねえ、サラ! ちょっと待っててちょうだい、今、手が離せなくて……」

「何かお手伝いしましょうか?」

「結構よ! そこで待っていてちょうだい!!」


 言いつけ通り玄関ポーチで待っていると、厨房で「ボン!」と爆発音がした。同時にもくもくと黒煙が立ちこめる。


「マ、マーガレット様!? 大丈夫ですか!?」

「エルシー、この馬鹿娘! 火薬の分量を間違えたわねっ!?」

「ごめんなさいっ、奥様……!」


 私の声が聞こえなかったのか、奥から、なにやらとんでもない単語が聞こえてきた。

 か、火薬……?

 屋根の上でカラスが「カァー」と鳴いた。


 何も聞かなかったふりをしてそのまま待っていると、疲れた顔をしたマーガレット様が出迎えに来てくれた。

 今日もばっちりお化粧をしているけれど、頬には黒いススの跡がついている。


「待たせてしまったわね。さあどうぞ、中に入って」

「は、はい……」


 前に、お鍋でコトコト煮るのが好きだと言っていたけれど、さっきも何かをコトコト煮ていたのだろうか。怖くて触れられないけど……。


 居間のソファに座り、慈善バザーへの出品を手伝ってもらったお礼を言うと、マーガレット様はにんまりと笑った。


「あなたの小物たち、だいぶ人気が出てきたみたいね? まあ当然でしょうけれど」

「そ、そうでしょうか? ごく普通の小物だと思うのですが……」

「おほほ。教会の婦人会の会長が、次もよろしくお願いしますとわたくしに頼みに来たわ。あの高慢ちきなばあさんに恩を売れて……いえ、地域の役に立てて何よりね?」


 今、色々と問題発言をしていたような……いや、空耳だろう。


 それからマーガレット様に相談をした。

 ロージーのために新しく外出用のドレスを作ろうと思っているのだけれど、どんなデザインがいいか迷っていたからだ。


 ロージーは私の作ったドレスをことのほか喜んで、毎日着てくれる。

 魔除けの効果があると本気で信じているようで、「サラお姉さまのドレスを着ていると、病気がどんどん良くなるのです」と言うので、私も嬉しくなって、せっせと新しいドレスを作り続けているのだ。


 外出用のドレスも作るつもりだと話したら、「そんなにいただいたら悪いですわ」と遠慮していたけれど、去年から寝込んでいたロージーは、今の彼女の背丈に合うきちんとしたドレスを持っていない。


 私が今までにあげたのは、ベッドでもそのまま楽に寝られるようなゆったりとしたドレスばかりだったから、今度はちょっとしたお出かけにも着て行けるような、きれいめのドレスにしたかった。


 そう、ロージーはもう、少しの外出なら可能なほどに回復してきているのだ。


 だから伯爵家の令嬢にふさわしいドレスを仕立てたいのだけれど、プロのお針子でもない私が変なものを作って、ロージーが笑われてしまうような事態だけは避けたい。


 そのため、今日はシアフィールドの重鎮であるマーガレット様に、アドバイスをいただきに来たのだった。




「……そうね、ロージーのドレスには……月と星の刺繍が良いのではないかしら」

「月と星……? それは斬新ですね。でも、かわいらしいロージーにはよく似合いそうです」


 ふむふむとメモを取る私に、マーガレット様がさらなるアドバイスをくれる。


「水晶のネックレスもつけたらどうかしら? あの子の肌は透明感があるから、似合うと思うのだけど」

「素敵ですね! では月と星の刺繍と水晶が引き立つように、ドレスは紺色のものがいいかしら」

「そうね、それが良いでしょう」


 おごそかに頷くマーガレット様を見ていると、自信とやる気が湧いてきた。

 ドレスのイメージも、むくむくと湧き上がってくる。


「ありがとうございます、マーガレット様! それではさっそく取り掛かりますので、今日はこれで失礼いたします」

「あら、もう? まあいいわ。それではごきげんよう」

「ごきげんよう」


 意気揚々とマーガレット様の家を出る。

 途中、厨房からプーンと火薬の臭いが漂ってきたけれど、気づかなかったことにした。




 ✧✧✧




 それから私はロージーのドレス作りに没頭した。

 外出用のドレスを縫うのは初めてだったから、絹の生地も縫い糸も慎重にカタログで選んで王都から取り寄せ、子どもサイズの水晶のネックレスも同時に注文した。

 そのあいだに型紙を作り、刺繍の図案もスケッチした。


 もちろんロージーのためでもあったけれど、もう一つ。


 アレクシス様が帰ってきたときに、ロージーが外に出るまでに回復した姿を見せられたら―――。

 二人とも、どんなに喜ぶことだろう。


 それが楽しみで仕方がなかった。

 ロージーにもそう話すと、はしゃいで「ではお兄さまには内緒にして、びっくりさせましょう!」ということになったので、ますます楽しみになる。


 ようやく注文していたものが届くと、私は昼夜も忘れて、ドレスを縫いはじめた。

 柔らかな紺色の絹地を裁断し、縫い合わせ、パフスリーブで裾の広がった上品なドレスをまず仕立てる。

 それから金糸と銀糸で、裾全体に、月と星とを散りばめていく。


 刺繍をしながら、思わずクスッと笑みが漏れた。


 このドレスはまるで満天の星のようだわ。

 これを着て水晶のネックレスをつけたら、ロージーはきっと、ほうきに乗って夜会へ出かける、かわいい魔女のように見えるわね。




 数日かけて、ようやく渾身のドレスが出来上がって。

 それと同時に、アレクシス様がおよそ一か月ぶりに、戦場から帰ってきた。

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