その3.
後ろを振り返ると、二十代くらいの、ぶかぶかのコットンシャツを着た、もさもさの赤い髪に、ネコのミミを持つ女が大笑いをしていた、ネコのミミ、である。
ミリアは、この女は魔術使いの才能があるのではないか、と考える。
一般の人々にはない肉体的特徴を持つもの(この女の場合はネコミミ)いわゆる【変異体】の中には、生まれたときから、魔術使いの才能を持つものが多い「おじょーちゃんこの国にゃーそーんなじょうとーな所なんてないよー」──もちろん【変異体】だからといって、必ず魔術の才能がある、わけではない。
「しごとはねー、そこのとびらからなかをきょろきょろ見ているやつの、くびねーこをひっつかまーて、話しをすりゃー5人に1人は、しごとのいらいだーて」ネコミミ女が大声でそういうと、数人の冒険者が肩をふるわせていた。
私は笑われているのかとミリアは一瞬思ったが扉の横には、ちゃんとした掲示板があり、そこに仕事の内容と、希望金額が書かれてある紙が貼られているのを見て、ああ、笑われているのはネコミミ女のほうか、と理解した。
「そうなのですか、ご享受ありがとうございます」とミリアが頭を下げて言うと「ニャン?」
と本当の猫のような声をだし、周りの冒険者はたまらず大笑いを上げる。
その笑いのネタであるネコミミ女は「ニャハハハ」と人ごとのように笑っていて、ミリアもくちもとを手で隠してクスクスと笑う。
ひとしきりの笑いがさると、ネコミミ女はミリアに更に話しかけてくる「おじょーちゃんなんさい?」「十六です」とミリアが答えると「あら若い」と少し驚き、こう話を続ける「ねーあたいとしょーぶしない?」「勝負?」とミリアは聞き返すが、そんなことはお構いなしにネコミミ女は話しをつづける「あたいが勝ったらひと晩あたいに付き合う、もしあたいが負ければやど代はあたいがはらう、どーだい?」
なるほどとミリアは思う、ネコミミ女が何を言いたいのかは、すぐに分かった「いいわ、その試合受けます」とミリアが言うと「やったー!」とすでに勝ったかのようにネコミミ女は跳ねる、ミリアはその時に聞こえた音で、ネコミミ女には魔術の才能がない、とふんだ。
回りの冒険者達がざわめく、一人の冒険者がレートの話しを持ち出すと、それに乗ろうと人だかりができる。
そこに、マスターが言う「おい、まて、宿の中で戦うんじゃない!」
仕方なく宿にいた冒険者達は外へ出る、すると「金は払えー!」とマスターが叫ぶ。
ちょっと待ってて。