フレアリカと俺。
「フレアリカさま」
俺は、ひとりとぼとぼとパーティー会場を後にするフレアリカを捕まえた。
「あなたは、アルトさま!どうして?」
「もちろん、あなたを一人にはできないからです」
「でも、私はヴィリアム殿下に婚約破棄をっ」
「関係ありませんよ。俺にとって大切なのはフレアリカさまですから」
と、イイ感じに手を差し出す俺。
それに、国王陛下が決めた婚約を勝手に2つも破棄したんだもんなぁ~。ヴィリアムもただじゃぁ済まない。後のことはローに任せるとは言え、アイツらは破滅一直線だ。
何も問題ない。問題があればフレアリカのためなら俺はいくらでも邪魔者を消せるし。
「ありがとう、アルトさま」
にこりと微笑むフレアリカはーー神々しかった。
フレアリカに婚約破棄を告げたヴィリアムも即殺したいほど有りえないが、あのバカ王子の妃にフレアリカがならなくて本当に良かった。
俺はフレアリカを王城の門に案内すると、ローが手を回したのか王城の馬車が用意されていた。
「さぁ、フレアリカさま」
「はい、アルトさま」
フレアリカをエスコートしながら、馬車に乗り込ませる。
「俺はここまでですが、お気をつけてお帰り下さい」
もちろん、気付かれないように屋敷までついていくけど。
「はい、アルトさまも。お気をつけて」
「えぇ、もちろん」
フレアリカは俺がついているのだから、何も危険はない。危険があればーー
―――ひとり残らず刈り取るから。
こうして、夜道を進んでいく馬車に俺も続いた。
「あの、アルトさん。一応俺らもついてるんですけどね」
それは、王族の婚約者であったフレアリカを護衛していた影だった。ヴィリアムは婚約破棄したけど、正式な国王陛下からの命はまだだからなぁ。
彼らは国王陛下の命に忠実だ。例えヴィリアムが命じたとしても、彼らは国王陛下の命を優先する。
でも、でもねぇ。
「だから?」
俺がフレアリカについて行かない理由、ある?
「あの、アルトさん。瞳孔開いてますけども」
そうかな?自分で瞳孔開いてるとか、分からないからさぁ。
「まぁ、先走ったことしないでくださいね」
「するに決まってるじゃん。俺のフレアリカに何かあったらどうすんの」
「あぁ――んもぅっ!むしろアルトさんの方が危険~~っ!!」
そして、最後にずっこけたとしても、さすがはヒロイン。ロー曰く、彼女も乙女ゲームとやらを知っている転生者なのだろうということだった。
ヒロインはフレアリカを着実に破滅させるために、夜闇にならず者を雇っていた。奴らを使って、フレアリカに危害を加える予定だったのだろう。
ローが言うには、フレアリカは断罪された後徒歩で帰らされた挙句野党に襲われ、顔に一生癒えぬ傷を負いながら娼館に売られるのだそうだ。
俺のフレアリカを、よくもそんな目に。そしてその通りに筋書きを勧めようとするヒロインはーー
「ローに止められなければアイツも帰りの馬車で仕留めたのに」
「やめてくださいよ、後始末ってもんがあるんですから我々にも」
ちっ、影め。まっとうなことを言ってきやがる。
確かに、後始末をおろそかにはできぬ。証拠は徹底的に消し、あわよくば何者かに押し付けるくらいはやらねば。
「うわぁ、このひと絶対すっごくあくどいこと考えてるよ。あのね、影ってね、ただの暗殺集団じゃないの。普通に護衛もやるし、情報収集だってやるんだよ?分かってる?」
「さて、今夜の敵も俺の敵ではなかったか」
もちろん、フレアリカには一切気取られず一人残らず刈り取った。
「聞いてないよ、このひと。後で長にチクっておかなきゃ。―――ぶつぶつ」
***
(Side:ローウェン)
「マリア」
ローウェンはヴィリアムにプロポーズされて上機嫌なマリアの元を訪れた。
今はパーティーの休憩時間、マリアもヴィリアムと別れ化粧直しに行こうとしていた。
「えっ、ローウェンさま、な、何故っ!?」
「何故って、俺と婚約してたのにヴィリアムに乗り換えて婚約者になったんだろ?元婚約者としてお祝いの言葉くらいはくれてやんないとと思ってな」
「な、何でそれをっ!」
「見てたからな」
「そ、そんなっ、誤解ですぅっ!」
「どこがだ!とにかく、お前らは国王である父上が命じた政略結婚を2つも無断で破ったんだ。最後のパーティーくらい、たーんと楽しめよ」
「え、最後って、え?」
「そんなことも分からないなんて、俺、お前を妃にしなくてよかったわ。じゃぁな」
「ちょ、待ってください!ろ、ローウェンさまああぁぁぁっっ!」
「知るかっ!」
しかしローウェンは振り返らずにサッと影の空間に戻ってしまう。マリアベルの言葉は虚しく散った。