公爵令嬢フレアリカ。
「まぁ、待ちなさい。まずはヴィリアム殿下の言い分も聞きましょうや」
仕方がない。影の長が湯呑を差し出してくれたので、ローと2人で観戦を続けることにする。
「しかしまぁ、マリアベルのやつ、いつの間に。未来の弟と仲良くなりたいからと会話していたことは知っていたが、まさか恋仲になっていたとはな」
「ふぅん、まさかの人選だよなぁ。確か、あの男爵令嬢とくっつくんじゃなかったのか」
ローによると、そうだったはずだ。男爵令嬢は宰相補佐の息子、騎士団副団長の息子、隣国の留学生である第8王子を侍らせながら呆然としている。
だって、攻略したと思ってたらメイン攻略対象の王子が選んだの、別の公爵令嬢だったんだもんな。因みに、男爵令嬢が引き連れているメンツはゲームでは宰相の息子、騎士団長の息子だったのだが、どうせ破滅する息子を抱えていたら国の信頼にも関わると、ローが手を回したらしい。宰相は別の優秀な者に決まったし、騎士団長は副騎士団長よりも実力のあるものがなった。
もともと、宰相補佐と副騎士団長は家の力を使ってその地位に就こうとしていたのだが、見事にその企みはついえた。何故ならチート転生者らしいからな、ローは。
「え、何ですかそれ、有りえなくない?」
俺たちの会話を聞いていた長が、まっとうな意見を言ってくる。確かに男爵令嬢が王族攻略とか有りえないよなぁ。乙女ゲームって不思議だなぁ。
「まぁ、有りえる選択肢でローの婚約者に行ったみたいだけど」
「あぁ、そうだな。思えば、卒業パーティーは世話になった友人と出たいとか言って、俺のエスコート断ったんだよな。おかしいと思ってた。そりゃぁおかしいよな。婚約者のエスコート断るとか。そうか、弟と、できていたからか」
ローがげっそりしている。今までいい関係を築いていたからなぁ。相当ショックだったのだろう。
「あぁ、ずっと言えなかったんですけど、そう言う関係でしたよあの2人。側妃さまからね、新しいいい婚約者探すからそれまで待ってと言われて、ローウェンさまには内緒にしていたんですよ」
「は?」
「側妃さまもね、さすがにあの王子じゃダメだろとローウェンさまにはいい嫁が必要だとあのお方も必死だったんですよ」
「あぁ、そう。あの人はもう、まっとうな道を進んでいるからな」
ローは諦めたように会場に目を戻した。
***
「聞けぃ、フレアリカ!」
ヴィリアムは叫ぶ。
「は、はい」
フレアリカは震えて、かわいそうに。
やはり威嚇射撃の1、2発やっておこうか?―――長が睨んできたのでやめといたが。
「お前は、リリーに数々の嫌がらせを行った」
いや、そこは男爵令嬢なのか。因みにローがヒロインと呼ぶ男爵令嬢の名は、リリー・メリーゴーランド。名前聞いた途端に愉快過ぎて乱射したくなったぞオイ。
「そんなこと、行っておりません!」
そうだな、フレアリカはそんなことしない。
陰ながら、いつもフレアリカを見ていた俺だから、知っている。
フレアリカは、無実である。
「リリーにマナーがなっていないと注意したり」
それはマリアベルが公爵令嬢としてやっていたことだろ。
それに、貴族令嬢としてなってないところを注意していただけで、マリアベルもそこはまともな注意だったよな。婚約者の弟と不倫してたけど。
「リリーの教科書を破いて捨てたり」
いや、それはリリーの教科書がカラスに攫われて嘴で破られて捨てられただけだろう。
教科書ラメ塗れにしてたリリーが悪い。
「リリーを階段から突き落としたそうじゃないか!」
それはリリーがピンヒールなんて履いてきたから、自分でよろけて落ちただけだ。あれ以来、学園内でのピンヒールは禁止になった。
「そんな悪逆非道なことをするフレアリカよりも、マリアの方が美しく、そして私の妃に相応しい!あぁ、マリア。君はとても美しい金髪だ」
「やだっ、ヴィルったらっ」
まぁ、確かにマリアベルは金髪ゆるふわヘアーにはちみつ色の瞳の美少女だ。
だが、フレアリカはかわいい系なんだよ、かわいい系。フレアリカのかわいさが分からないとは、あのバカ王子、目も節穴だったか。
―――その目、要らないよな?節穴なら、そのまま節穴にしてやるのも情けであろう?
そっと魔動レーザー銃を構えたら、長に手を重ねられた。くっ、何故止める!
―あったりめぇだろうが―
何か、長からそんな念話が届いた。
長が止めるので仕方なしに銃をおろしたが、しかしあのバカ王子、マリアベルとは愛称で呼び合う仲ねぇ。
「だから私はマリアと婚約する!貴様はとっとと去るが良い!貴様のような悪辣女はこの卒業パーティーの場に相応しくない!」
そう、指をさされたフレアリカは、既に泣きだしそうである。
***
「よし、やるか」
ふん、クズ男ではあるが一思いに一発で葬ってやる。
フレアリカの目に悪い。
「いや、やめなさい、やめなさいよ。こんなところで」
しかしまた寸でのところで長が止めてくる。
「だがっ!俺のフレアリカが泣いている!!」
「いつからアンタのフレアリカになったんですか」
「あの日、王城のパーティーで声を掛けられた時から、俺の心はフレアリカのものだ」
忘れもしない、王城のパーティー。
子爵令息だもの、滅多に参加なんてできないが、そんな暗殺に絶好の場になどできれば行きたくない。だが、見ておくのも勉強だと思って、12歳の時に父親に無理矢理連れていかれたのだ。
そこで忘れもしない、話しかけることすらできない高位貴族の令嬢・フレアリカに話しかけられた。彼女がブローチを落としたのを偶然拾ったのだ。
俺は黒髪で、みんなに恐れられる存在だったけれど、フレアリカだけは笑顔で話しかけてくれた。そして俺はフレアリカに心を打ちぬかれた。
それ以来俺はフレアリカを陰ながらずっと見守って来た。
「あぁ、そうっすか」
うん、長も納得したようだ。
「それに、フレアリカ嬢がパーティー会場の外に駆けて行きましたよ。誰も追って行きませんし、アンタ行ったらどうですか」
「はっ!フレアリカ!お前を一人にはしない!!」
俺は、影スペースを飛び出し、フレアリカの後を追った。