華やかなパーティーの裏側で。
「フレアリカ・ウッドベリィ公爵令嬢!私、ローゼ王国第2王子ヴィリアムは、貴様との婚約をーー破棄する!」
その日、学園主催の卒業パーティーで銀髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ美青年がそう告げた。
「よし、暗殺しよう、そうしよう」
俺は影に潜み音もなく狙撃型魔動銃を構えた。
「いやー、待て待て、ちょっと待て!」
パーティー会場のどよめきのさなか、パーティー出席者の誰も気が付かないパーティー会場内のマル秘スペースにて、狙撃型魔動銃を構える俺に待ったをかける声がある。
「いや、何故止める。あぁいうキメゼリフを吐いていかにもなポーズをキメた瞬間に狙撃することで、めちゃくちゃ恥ずかしい視線を受けながらこと切れる。最高じゃないか」
「いやいや、訳分からん!まずは考え直せ」
「えぇ、何故」
「何故ってなぁ、相手、第2王子!この王国の第2王子!」
「お前だって第1王子じゃないか、ロー」
俺がローと呼んだ青年は、異世界ファンタジーなこの世界に於いて、黒髪黒目と言う珍しい外見を持っている。
第1王子でありながら、本来の王家の色を持たない上に不吉と恐れられる黒髪黒目を持って生まれたこの男は、長らく王家の色を色濃く受け継いだ第2王子と比べられ、そして王太子の地位すら危ぶまれて来た。
「お前も、アレが死んだ方が、王太子に難なくなれるだろ」
「いや、あのバカが死ななくても俺は難なく王太子になれるから!もう父上も母上も、あと側妃さまも諦めたわ!!」
ローは第1王子で正妃の子。対してヴィリアムは側妃さまの子である。長年側妃さまは王室の血を色濃く受け継ぐヴィリアムを推していたのだが、あまりのバカさ加減に諦めたらしい。
貴族や王族が通う学園にて、3年連続落第の危機を招いたヴィリアムが国のトップに立ってはならない。側妃さまは、とても賢い選択をしてくれた。
だからせめて小さな領地をもらって田舎でゆっくり暮らしてくれればなぁと仰っていたくらいだ。
「だが、しかしーー」
「どうしたんだ?アルト」
アルトと言うのは俺の名前だ。俺も黒髪でローとお揃いの髪だ。お互いに幼い頃は黒髪と言うこともあって虐められたが、俺はそいつらは残らず叩きのめしてきた。
そして色々と暗躍しているうちに隠れてチートをしていたローと出会い、仲良くなった。
「フレアリカは俺のお気に入りだ。フレアリカがアイツの妻にならなくてよくなったのはよいことだ」
フレアリカは公爵令嬢だ。だからこそ、同い年の王子の婚約者に相応しいと選ばれた。フレアリカはスイートブラウンの髪にサファイアブルーの瞳を持つ美少女だ。
ヴィリアムは度々髪の色が地味だと言うたびにどう言う末路がいいか楽しくローと話してきたが、まぁ、コイツの妻になり田舎に行くよりはましだろう。
だが、田舎に行ったら行ったで俺もついていく気だ。
奴がもうダメだとなった時点で暗殺する。それが俺の計画。そしてもしフレアリカが未亡人となった暁にはーー
「子爵令息の俺でも、妻にもらえるかもしれない」
「お前な」
ローが呆れたような表情をする。いいじゃないか、フレアリカはかわいいのだ。幸せになってほしい。あのバカ王子じゃフレアリカは幸せにできないだろう。だからこそ、俺がフレアリカを幸せにして見せる。
その、第一歩にーー
「で~も~、ムカ~つくからぁ~、殺し~てお~こう~っ♪そ~うしっよっ♪こ~ろそっこ~ろそっ♪」
(作詞・作曲:俺)
「いや、唄うな!そして何その微妙に音程外した不気味な歌はっ!歌詞も歌詞で恐ぇわっ!!」
「俺はな、戦場に於いて一番イカレてるやつは、唄いながら殺している奴だと思ってる」
「つまりお前なっ!と言うか、待て待て!まだ続きがあるようだぞ」
「はぁ、別に興味はないが、聞いてやろう」
「あぁー、絶対あれな、どっかの男爵令嬢連れて来て新たな婚約者にとか言う流れだよ!最近アイツ、男爵令嬢と懇意にしているとか聞いたし!あぁ~、もう王家の醜聞になるーっ!」
「ならば、やはりその前に殺した方がよくないか?」
「よくなーいっ!!ここはね、乙女ゲームの世界なの!一応筋書き通りに行ってるけどな、メイン攻略対象が見せ場で暗殺ってどーよ!?あと俺の結婚が中止になるよやめてくれ!」
あぁ、そう言えばローの婚約者もあの場にいるんだっけ。卒業したら結婚するとか言ってたな。
それに乙女ゲームか。昔からローは不思議なことを話してくれる。
俺もローも転生者だ。地球と言う星で過ごした記憶がある。だが俺は、ずっと闇の世界で生きてきた。その乙女ゲームなどと言う存在は知らん。
―――ローから乙女ゲームとやらの話を聞いた瞬間、なんだその茶番だと思った。しかも俺のフレアリカを悪役令嬢などとほざくゲームである。
俺なら、断罪とかそんなものを待つ前にーー
「断罪前にヒロインと攻略対象を全員暗殺すればいいじゃないか。あれを放っておけばどうせ国家の醜聞になるしフレアリカも傷つく」
「でもダメ―――ッッ!!一旦落ち着け、ほら、まだ続き、あるから!」
ローがどうしてもと言うので、仕方なく目を会場に戻してみればーー
「そして私は、マリアベル・ホーリーナイト公爵令嬢と婚約する!!」
え?ローが言ってたどこぞの男爵令嬢どこ行った。そしてまさかの新しいお相手公爵令嬢かよ。
「うわああぁぁぁぁ――――っっ!!あれ俺の婚約者じゃねぇかっ!おんどれえぇぇぇっっ!打ち取れやあああぁぁぁぁ!」
やっとローも思い腰を上げたか。
「よし、来た!」
すちゃっ。
「いや、何してんですか、アンタら。やめてくださいよいきなり暗殺とか。我々暗部にもね、スケジュールとか護衛計画とか色々とあるんですから。暗殺とか勝手にされたらうちらの警護の責任になるでしょうがっ!」
しかし、寸でのところで止められてしまった。くっ、影の長めっ!!
しかし影の長は間違いなく本物の超絶級の暗殺者だ。前世とびっきりの敏腕暗殺者だった俺が言うんだ。間違いない。