三人の義姉がウザ過ぎる。~五年前に俺の姉になった女たちは自由気ままに人生を送る~
「今日からお前のお姉さんになる三人だ」
それは今から五年前の出来事。
まだ俺が十一歳だった時、父親から突然の再婚宣言と共に人生は一変する。
戸惑う俺をよそにあれよあれよと話が進み、いつの間にか俺には三人の義理の姉ができて彼女たちと一緒に住むことにまで発展していた。
ただ良かった点は三人共、美人だったことだろう。小学校五年生の青二才には勿体ない刺激的な出来事だったわけだが、もちろん当時の俺は嬉しかった。
でも同時に、不安もあった。
「ほら、春哉。挨拶しろ」
父親から背中を突つかれて俺はしどろもどろになりながらも自己紹介する。
「志岐春哉です。よろしくお願いします」
◇ ◇ ◇
いつも通り、朝の五時頃に目が覚める。
漫画やアニメで見るような起床イベントなど発生しない。
母親は幼い頃に亡くし、父親は朝早く夜帰るのも遅い。基本的に家で一人だった俺はまず料理にハマってそのまま料理道を歩み続ける。
要は、四人分の朝食とお弁当を作るために朝早く起きているというわけだ。
今日は何を作ろうかと思いながら冷蔵庫を開けると、背中に何か柔らかい感触が伝わる。
「おはよ、はーくん」
「……っ!?」
言葉にならない声を上げ、俺は振り返ろうとするほっぺに指が当たる。
「どうどう、びっくりしたぁ?」
「……ふゆ姉、それやめろって言ったよな」
こういうドッキリ的なことが得意じゃない俺としては急に抱き着かれるのはやめてくれ、そう何度も言ってきたのだが一向に聞き入れる気配がない。
寝ぼけている長女の冬華を引き剥がし、冷蔵庫を閉めた。
冬華はぷくっと頬を膨らませ、猫撫で声で告げる。
「お姉ちゃんと弟ならこれくらいいのスキンシップ普通じゃん」
「鬱陶しいんだよ、毎日毎日。俺を苛つかせたいのか?」
「うん、だからやってる」
「…………」
流石に手は出せないので怒りを無理やり沈めながら、俺は料理の準備を始めようとする。三年前くらいにお弁当を作らないという仕返しをした時があったが、学校から帰宅後シンプルに殴られて痛かった。
「じゃあ私、二度寝してくるから」
「まじで何がしたいんだよ……」
「愛してるよー、はーくん」
冬華は大学生だ。高校に通っている俺たちとは生活リズムが違う。いつも朝五時頃に起きては俺にちょっかいかけてから二度寝、という非常に無駄な時間の使い方をしている。
静かになったキッチンで黙々と料理をすること数十分。
また誰か起きてきた。
多分、次女だろう。
洗面所で水の流れる音が響いて聞こえてくる。段々とこちらの方へ近づいてくる足音を聞いて俺は一つため息をこぼした。
「春哉、紅茶ちょーだい」
予め用意していた紅茶の入ったティーカップを持って俺は秋菜の座っているソファに近づく。
「俺、朝は忙しいっていつも言ってるよな。紅茶くらい自分で淹れてくれよ」
テーブルの上にティーカップを置き、俺は撤退する。
一分も経たないうちに秋菜は俺を呼ぶ。
「春哉、私の部屋からスマホ持ってきて」
「……自分で取ってこいよぉ」
「何か言った?」
「はぁ、取ってくればいいんだろ」
元々、俺は朝六時に起きていた。しかしだ、秋菜が俺を利用するようになった結果、朝五時に起きないと間に合わなくなっていた。
でも三人の中じゃ、これくらいマシな方だと思う。
「春哉、足揉んで」
スマホを持ってくるとすぐに次の要求をされる。
力加減を間違えるとかかと落としを喰らう危険性があるので注意しなければならない。
「春哉、あとどれくらいで朝食できる?」
「このマッサージがなければ、もう完成してた」
「私、生徒会の仕事で早く家出なきゃいけないからさっさと作ってね」
自分勝手で我儘、傍若無人な姉ではあるがこれでも生徒会長を務めている。
学校では美人で人のいいお姉さんを演じており、先生や同級生の評判も高く三姉妹の中でも一番モテていると言っても過言ではない。
「あき姉、誰かと付き合えば」
「ごめん。春哉とは姉弟だから」
「ちげえよ、なんで俺があき姉なんかと……あ、今のウソ」
殺気立った気配が一瞬、現れてすぐに消えていった。
呆れたような表情を浮かべる秋菜はぶつくさと言う。
「付き合うとか付き合わないとか、私にとってはどうでもいいことなの。春くん……春哉が心配するようなことじゃないから」
「別に心配して言ったわけじゃねえけど」
「じゃあ、なに?」
あれなんで俺はこんな話をしてんだ、という若干の後悔と気恥ずかしさを覚えながらも答える。
「……同じクラスの奴からあき姉紹介しろってうるさいんだよ。付き合っていた方が諦めてくれるって言うかさ」
「へー、春哉と同じクラスの男の子が」
「もしかして付き合おうとか考えてる?」
「その人が春くんくらい使えるなら、付き合ってあげてもいいかな」
絶対に友達に秋菜を紹介しないと心に誓った。
◇ ◇ ◇
秋菜が家を出てから暫くして、ようやく三女が起きる。
朝が弱いようで辛そうな表情をしてリビングにやって来た。たまに起きてこないことがあるのでその時は起こしに行くのだが、寝起きが悪すぎるので出来れば避けたいところ。
だから今日は少しだけ運がいい。
「夏希、早くしないと学校遅刻するぞ」
「春哉くん、私……今日学校休む」
「お前が休んでも俺は学校行くぞ」
冷たく言い放つと、そのすぐ後に何の手加減もないパンチが俺の肩を抉った。
「……っ! 普通にいてえよ、バカ」
「お姉ちゃんが休むんだから弟も一緒に休むんだよ!」
「いつから俺の姉になったよ」
一つ、俺はこいつを姉と認めてはいない。
二つ、俺と夏樹は同い年。同じ学年である。
「私の方が誕生日が早く来るんだからお姉ちゃんに決まってるじゃん」
「残念ながら、義理の姉弟にその理論は通用しない。さらにだ、俺はお前よりも頭いいし料理もできる、面倒見もいい。もう既に大人と言っても差し支えない」
「わかったよ、お兄ちゃん」
ぞわっと背筋に悪寒が走って眉をひそめた。
そして冷静になった。
「……すまん。開き直れるその態度、お前の方が大人でお姉さんだ」
「ふふん、夏希ちゃんスーパーデラックスかわいいお姉ちゃんって言ってね」
「嫌だ」
無言のパンチを受け止め、俺は問う。
「学校休むの?」
「弟が恋愛にうつつを抜かさないか、監視しに行く」
無言でパンチすると受け止められ、カウンターがキレイに俺の鳩尾に決まった。
「先に学校行ったらわかってるよね?」
とことこと洗面所へ向かう夏希の背中を眺めながら俺は小さく息を吐いた。
姉と呼びたくはない、でも妹もしっくりこない。
夏希とは姉弟になってからどういう立場で接するのがいいのか、五年経った今でもよくわかってない。
まあそんな関係性が丁度いいというやつだ。
それと、一つ言っておくが俺は断じて三人のことを異性として意識していない。姉弟という呪縛がなかったとしても好きにはなってない、なぜならウザいからだ。
でも今の生活を辞めたいとは思わない。
それはきっと俺という弟の存在が必要とされているから。
ずっと一人だった俺にとってこの場所は、居心地が良すぎる。でも一つ言わせて欲しい。
「暴力反対……」
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