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日常といつかのプロローグ

ほぼ初の連載作品となります。何卒お手柔らかに。

 ────はっきりとした理由なんて無かった。


 ただ、その静かに燃えるような眼が、確かに助けを求めていたから。


 その少女から目が離せなかったから、手を差し伸べたのだ。


 例えそれが異端であるとしても。


 ……儘ならぬことに、それでも手を伸ばすために。


 俺は、師匠は、そして彼の王は、魔術という人だけが為せる奇跡を求めたのだから。



 -----------------------------



「──お……うござ……ます」


「…………」


 鈴の音を鳴らすような、透き通った声が聴こえる。


「──おはよう……います、ご……さま」


「……んぁ……?」


 無感情そうな抑揚のない声だ。でも、彼女がその声と表情に対して実は感情豊かであることを俺は知っている。


「──おはようございます。ご主人様」


「……ああ、おはよう。イヴ」


 こだわったオーダーメイドのふかふかベットに寝ていた俺を今しがた起こしたのは、メイド服を着た銀髪赤眼の少女、イヴだった。


「ご主人様は相変わらず寝坊助でいらっしゃいますね。何様なのでしょうか」


「……いや、ご主人様だが?」


「そうですか、とりあえずその怠けた顔をどうにかして起きて下さい。朝食の準備が出来てます」


 俺のメイド様は相変わらずの無表情で淡々と俺の着替えを用意し、二度寝を決め込もうとする俺をまた叩き起し、カーテンを開けた。


「あっ、眩しい……俺吸血鬼だから朝日で燃えカスになっちゃうなぁー。閉じてほしい、あわよくばそのまま二度寝させてほしい」


「させませんし、そもそも吸血鬼なのは私です。ご主人様は純人族でしょう」


 そう、イヴは吸血鬼(ヴァンパイア)だ。この異世界『ロンドニア』に住まう種族達の上位種であり、血を媒介とした魔術を扱う長命種……とかなんとか説明してると長いので割愛するが、まあだいたい地球の創作物に出てくるヴァンパイアと同じだ。なんでそんな娘が一介の人間のメイドをしてるのかはこれまた話すと長いのでカット。


「わかった、起きるから」


 イヴが用意してくれたシャツに袖を通す。さりげなくその着替えを手伝ってくれるイヴ。最初こそ気恥ずかしくて断っていたが、今はもうそれが当たり前になっていた。


 着替えを終え、寝室を出て食堂へ。この屋敷は近くの他の邸宅と同じく、地球でいうところの中世の西洋チックな様式のものだ。えっとバ、バロック……?ルネサンス……?わからんがそういうやつ。元日本人としては瓦とか畳とかの日本家屋が好きなんだが、生憎この世界はよく異世界物の創作の舞台となる中世ヨーロッパ風の文化圏だった。それはそれでとてもいいんだけど。


 この屋敷にはイヴ以外の使用人やその他同居人は居ない。ので、必然用意されている朝食もイヴが作ったものということになる。


「また料理の腕が上がったな、イヴ」


「お褒めに預かり光栄です。ご主人様」


 本当に美味しい。今日のメニューはなんかパン的なやつとスープ的なやつとサラダ的なやつだ。……ごめん、いままで料理への興味が無かったから名前が分からなかった。今度聞いとこう。


 他の家のメイドがどうとかはよく知らないが、うちではメイドのイヴも同じテーブルで同じご飯を食べる。どんな状況下でも無表情であることに他の追随を許さないイヴだが、美味しいものを食べた時は少し口元が緩む。それを気づかれないように盗み見るのが俺の日課だ。気持ち悪いとか言わないでほしい。可愛いんだこれが……!


「紅茶をお淹れしました。ご主人様」


「いつもありがとう」


 これも日課のひとつ。ご飯も最高級に美味しいが、イヴの淹れる紅茶は特に逸品だ。これがないともう俺は生きていけない。無人島に何かひとつ持っていくならイヴの紅茶だ。いや待てそれならイヴ本体を持っていけばいいな。……何の話だ?これ。


「良い香りだな。ダージリンか」


「アールグレイです」


「…………」


 俺がドが付くほどの味音痴なのは、もう可愛いチャームポイントだと割り切ろう。


 紅茶を飲み干し、一息ついた頃。おもむろにイヴが俺の膝の上に跨ってきた。わお、大胆。


「……ご主人様、申し訳ありません。そろそろ……」


「ああ、アレな。大丈夫だよ」


 イヴが俺の体に身を寄せてくる。少し上気した頬と整った顔が近づき、先程の紅茶よりも甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 そして、火照った身体を更に密着させ、小さいその口を俺の首元へと近づける。


「……すみません。失礼します──」


 カプリ、とイヴが鋭い犬歯を俺の首筋へと突き立てた。同時に少し鈍い痛み。そのままイヴは俺の血を吸う。吸血鬼が吸血鬼と呼ばれる所以。吸血行為だ。


 あの日──俺とイヴが出会った日から毎日続く習慣。イヴ曰く毎日吸わなくてもいいらしいが、どちらとも何も言わず、毎日欠かさずこれをしている。少しくすぐったくて、痛くて、背徳的な行為だ。


 ちゅーちゅーと俺の血を吸うイヴ。彼女が表情に感情を発露させる数少ない瞬間のもうひとつがこの時だ。今は俺の首筋に顔を埋めているため分からないが、きっとその赤眼を蕩けさせているのだろう。


「──んっ……ふぅ……ありがとうございます、ご主人様」


「ああ、お腹は膨れたか?」


「はい。お陰様で」


 そのまま、イヴは俺の膝の上で体勢を少し変える。背中を俺に向け、体重をかけた。俺はその小さな背中から軽く手を回し、抱きとめる。これも日課。


 ──ひとりぼっちとひとりぼっちが出会った頃から続く、お互いを結びつける習慣。


 忌々しき呪縛から彼女を解き放つまでの、最大限の愛情表現だ。



 -----------------------------



 なぜ、俺が美少女吸血鬼メイドと二人暮ししているのか?というか異世界ってなんだ?そもそもお前は何者なんだ?など疑問は尽きないだろうがまあそれはおいおい話すとして。


 これから始まるのは、俺とメイドと紅茶と魔術と異世界とその他もろもろのお話。


 まあ聞いていってくれよ。きっと退屈も後悔もさせない。なんせ俺たちの周りには愉快なことばかり起こるんだ。


 とりあえずは、この後俺とイヴがイチャイチャしてたところに、この国の王子が全裸で屋敷に飛び込んできた話から始めることにしようか。




 ……………………いや待てなんだそれ!?

ぼちぼちそこそこかなり結構なんとなく更新していくつもりですので、面白そうやなーと思ったら是非2話以降も読んであげてください。作者が踊り狂って喜びます。

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