4. 停滞が進む時
「【最後の光】!!!!!!」
白き光が玉座を覆った。それと同時に金色の光がさした。
「【護りたい人を護る力】!!!!」
白と金の光の交差が収まるところを千花は見る前に意識を落とした。
-----------------------------------------------------------------
……………………現実ではない世界にいることは分かる。
だけどなんでこの世界にいるのかが私には分からない。
私はエングに、時雨に傷ついて欲しくなかった。
ううん。違う。私は酔いしれていたのだ。
エングの為を思って我が身を投げ出す自分に、時雨を守る為に我が身を危険に晒す自分に。
今から、どうすればいいのかわからないよ。
もう永遠にこの微睡む世界にいたい。
こんな黒い感情時雨に見せたくないよ…………。
ねぇ……………………私は……どう…………したら………………いいの……………………?
--------------------------------------------------------------------
「千花!! 千花!! 起きなさい!!!!」
先程から聞こえる友を呼ぶ悲痛な叫び。
時雨本人は自分が何をしたのか理解していない。
自分が世界線にどのような影響を及ぼしたのか、そんなもの二の次だったのだろう。
ただ親友を護りたかった。それだけの事だったのだろう。
しかし人類の護り手である彼らはそうはいかない。
「……………………」
その場にいた人類の護り手の面々は時雨が放った力の方に意識がいき、一同が固まっていた。
この空気を変えたのは聞いたことのない声だった。
「慌てるナ。そのガールは生きていル。ただ意識が帰ってきていないだけダ」
「…………? あなたは………………?」
「ワレはグレゴリー=アストライオス。人類の護り手暗殺隊の者ダ」
「アストライオス…………。お前がいるってことァ、後の二人も帰ってきてるのかァ?」
と、炎がドスの効いた声で問いを投げる。
「帰ってきてはいル。だが、二人とも浅くはない傷を負っタ。だから今は休んでいル。ギールに連絡は入れたはずだガ?」
「承っているよ。ワタシの楽園第七階層にて治療しているよ。」
グレゴリーの発言により今の今まで戦争をしていたと言う事実が時雨の中に帰ってきた。
「すまないナ。娘。キミの不安も分かるが、今は情報共有を優先させたイ」
「…………はい。………………今は千花が生きているとわかっただけでも、良かったです……」
「なれば、ギールよ。千花を八階層に連れていってやってはくれんか?」
「構わないよ。【巨人生成第七十八節 使い手の意識】」
ギールが本を開き詠唱すると、大扉が開き巨人が千花を運んで行った。
「時雨…………だったかな? 彼女はワタシの魔導書が創り出した巨人が治療室に連れて行っているだけだから心配はしなくていいよ」
「魔導書……?」
「そう!! 魔導書!! 神楽坂が拳を使うようにワタシは魔導書を使うのさっ!! 魔導書は素晴らしい! この世に生きる者も生きぬ者も、全てが書かれているからね!! さぁ、君も魔導書の道へ来ないかい?」
「いえ。行きません」
「ごふぅぅぅぅ!」
あまりにも時雨がバッサリ言い捨てるので、純粋なハートをもつギールが思いのほかダメージを受けたようだ。
「流石は、帝王……自分のハート犠牲にして、シリアス飛ばしやがった…………。俺にはこんな芸当とてもじゃないが出来ないな……」
「ちょっとそこ!! うるさいよぉ!!」
彼方が心底怯えたかのような言葉を発し、ギールが思わずツッコンだ。
「ふふっ」
「「………………ッッッ」」
バッッという擬音が着くほど彼方とギールが時雨に振り返った。
「ごめんなさい。あまりにも滑稽だったから……」
「オイオイ、滑稽ってお前……………………ぶふはははははははッッッッッッ滑稽!! 滑稽!! ハハハハハハハハハハっっっっっっ滑稽……滑稽〜〜〜〜〜〜!! 腹痛てェ、腹痛てェ………………。ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
「「笑いすぎだ(よ)っっっっ!!!!」」
――――みんな大好き混沌さんが帰ってきた記念すべき瞬間である。
_______________________
混沌さんがご帰宅した頃、ようやくアンフェアが口を開いた。
「秀才ぶっている小娘よ。貴様のあの力どのような種類の力か分かっているか?」
「………………いえ……。分かりません」
「アンフェアよ………………。急ぐ思いはよく分かる。だがの……時雨とて混乱しているのだ…………。故に少し休ませてはくれんかの?」
那由多が先程、時雨に対して一言も声をかけられなかった罪悪感からか、少したどたどしい発言力だったが賛同する者もいた。
「アァ、その通りだぜェ。こいつも色々とあんだよォ。オレだって親友が倒れたらそれどころじゃねェしよォ」
「そうだな。それに今聞いても大した情報が出てこないんじゃないか?」
「華彩殿も気持ちの整理がついてはいないだろうしな」
那由多に続き、炎、撃老、ジェラールが口を開く。
「いえ。お気遣いはとても嬉しいですが、今は遠慮させていただきます。私の情報が千花のためになるなら、いくらでも聞いてください」
「時雨よ…………。よいのか?」
「真剣で大丈夫かァ?」
「平気ならいいんだが………………」
「華彩殿……………………。強いな……」
那由多達の気遣いは無用と、ばかりに拒否をしアンフェアに協力する意を示した。
「まず、秀才ぶっている小娘。あの力…………何をどうした?」
「私自身も何をしたのかまでは、覚えていません……。ただ右腕が痛み、その後にあの金色の光がでました」
「ふ〜ん。なるほどね……。伝説のものとばかり思ってたけど実在したんだね」
「もし、この力が存在するのなら全世界線が血眼になって探すぜ?」
ギールと彼方は時雨の使用した、謎の力についてある程度の予測は立てられたようだ。
しかし那由多や時雨本人はそうはいかない。
「ギール、彼方よ。時雨の力の真意とは一体何ぞ?」
「…………秀才ぶっている小娘………………。貴様の力の名を……【刻印魔法】という」
――――刻印魔法――――
「まぁそう言われて、わかるわけもないよな」
「端的に言って見れば刻印がついた人間が使える力だね」
「刻印魔法は魔導の深淵に近づいた者が使うことを許されるとされている」
ギール、彼方、アンフェアの説明により刻印魔法がなんであるかは分かったものの、まだ疑問は尽きない。
「…………しかし、なぜ私がその刻印魔法を使えるのでしょうか?」
「秀才ぶっている小娘。貴様あの時何を思った? 何を感じ、何を望んだ? 刻印が術者の望みを叶えようと力を発したのならば、そこに答えが隠れていよう」
「…………私が何を思った……………………?」
----------------------------------------------------------------------
私は千花に生きていて欲しかった…………。
千花が私の隣にいて、一緒に笑いあって、ただそれだけでよかった……。
怖かった…………。
もう二度と千花と言葉を交わせない。
そう思っただけで胸がはち切れそうだった。
絶対に死なせたくない。千花は私の親友だから………………………!!
----------------------------------------------------------------------
「理解したか? 親友を護りたい。そう思った故に、刻印が力を与えた。護る力を」
「護る力……………………………」
時雨が己の感情に気が付き刻印が与えてくれた納得がいった。
「のう、アンフェアよ。その刻印魔法とはそれほど重要なのか?」
「あぁ、神楽坂は武闘派だからこっちの常識に疎いのか…………ギール、説明してやれ」
「まず、第一に魔導の深淵を覗くためには差はあるけど、約六十年は魔術修行をしなければならない。さらに魔導の深淵の魔術を使うのならば、あと八十年は費やさなければならない。合計約百四十年の時を経て、ようやく一人前に使える……それが魔導の深淵さ。だというのに、君はたった二十足らずで魔導の深淵を除き、あまつさえ刻印魔法というひとつの魔法を使って見せた。これが魔術、魔法世界にどれほどの影響をもたらすか…………考えることすらワタシは嫌だね……」
「……………………私はどうやって刻印魔法を使ったのかは分かりません……ですが、この力が千花を助けることに使えるのならば、私はこの力を使いましょう!!」
「時雨よ………………。」
時雨の覚悟が人類の護り手に伝わった。
「いい覚悟だね。そんな君に朗報だよ。千花…………だったかな? 彼女が起きたみたいだね」
「……! 千花が起きたのですか!?」
「いや、少し待って…………巨人生成が壊された………………」
「? 誰にだ?」
「…………千花とかいう少女に………………」
「…………嘘……………………!?」
時雨だけではなく、人類の護り手の面々にも動揺が広がった。