3. 新たな神秘
少し長くしました。
次からもこれぐらいの長さにしようと思います。
ここに、人類の護り手と刑雄騎士団の戦闘が始まった。
最初に動いたのは、刑雄騎士団の構成員たちだった。
「後ろの刻印持ちには当てるなよ!
「「「「御意!!!!」」」
敵兵の銃弾は八割方命中している。
「「…………ッ!! 神楽坂さんッ!!」」
「慌てるでない。我らが神楽坂があの程度の豆鉄砲に負けるわけがあるまい」
銃弾の幕が消え、アンフェアの言葉の意味が分かる時が来た。
「「「「「なッッッッ!!!!」」」」
今の声は一体誰のだろうか? 刑雄騎士団のものなのか、千花と時雨のものなのか判断がつかない。
「ふむん。銃弾に細工をしているのぅ。」
皆が驚くのも当然である。
先程銃弾の雨の中にいた、那由多が傷一つなく立っていたからだ。
銃弾が弾かれたのではなく、命中しているが貫通していないといった意味が分からない状態である。
「ほら見てみろ。神楽坂みたいな怪物が死ぬわけないしな」
「流石、那由多神楽坂。あの銃弾の中、無傷で生き残るとは…………戦慄級だぞ………………」
彼方とワールは那由多の勝利を信じて疑っていなかったようだ。
それに加え、那由多自身も自分が弾丸により倒れるとは思っていなかった。
それもそのはず命中した銃弾は全て那由多の筋肉により阻まれていたのだから。
どんな鍛錬をすればここまでの筋肉量になるのか検討もつかない。
「有り得ん…………有り得るはずがないだろう……〈刑雄騎士団〉の弾丸は歪の力を抽出し、付与したものだぞ。命中さえすれば地球の欠片ですら腐廃することが可能なのだぞ………………」
「やはりのぅ。この私が少し痛みを感じたのだ。何かしらの細工はしていると思ったがのぅ」
「……!! とにかく撃ち続けろ!! 数が当たりさえすればなんとかなる!!」
エングが那由多の頑丈さに怯え、やつぎばやに指示を出す。
その気持ちもわからなくはない。
なにせ確実に勝ったと思われた相手が無傷でそこに立っているのだ。
それも自分たちの秘策に気がついて。
「その必要はない。もう貴様らに未来はない!【瞬突・破閃光】!!」
ザシュっと肉が削がれた音が聞こえた。
エングが音の方向を見てみると、首を削がれ既に事切れている自分の部下と、両腕を血に染めている那由多の姿があった。
エングの右側にいた部下たちは一人残らず那由多の狂拳に倒れていた。
「ふむん。少し手応えが無さすぎる。この程度なら我らの敵ではないな」
「総員避けろォォォォォォ!!!!」
「【壊圧・光爆】!!」
メシッッッッッッ!!
床が抜けた。
そう形容するしかない一撃だ。
ざっと八階層程貫ぬかれた。
エングを残して敵兵は全滅。
避けられなかった敵兵は肉片すら残さず潰れた。
「貴様ぁ!! 誇りある刑雄騎士団の騎士を殺して生き残れると思っているのか!?」
「逆に聞くが、私を相手にして勝てるとでも思うているのか?」
那由多の質問の意味をエングは今この時を持って理解した。
「……………………フフフハハハハハハハ!!!」
「……? どうしたのだ? 気でも狂ったか?」
「…………なんで私たちに優越感を抱いているの?」
突然笑いだしたエングに那由多は疑問が生じ、千花は感情を感じ戸惑っている
「今この瞬間に本隊に援軍を頼んだのだよ!! 〈イントロウクル世界線〉の本隊をなぁ!! この意味が分かるか? 背徳者めがっ!!!! 〈刑雄騎士団〉の本隊だけではない! 〈ヴァディラン魔法部隊〉も〈獣魔混合部隊〉それに加え、〈王直属近衛部隊〉! この全てをたかだか十数名の守護者が相手どれるわけがないだろう!! フハハハハハハハ!!!! 後悔するが良い!! 〈イントロウクル世界線〉と事を構えるという意味を!!!!」
エングは取り乱していたのか、自分たちの秘匿情報をペラペラと喋っていることに気が付かない。
「だからあなたは私たちに優越感を抱いていたのね……」
エングの笑いだした理由を聞き、千花が読み取った感情に合点がいった。
だが、ここでエングが聞いたことの無い声とゴロゴロと何かが転がる音が聞こえた。
「アァクソッ!! お前さっきからうるせぇんだよォ。いちいち癪に障る声出しやがってよォ」
「お前が自信満々に自慢する奴らってこれのことだろ?」
外に戦闘に行っていた炎と撃老が帰ってきていたのだった。
「おぉ! 炎! 帰ってきたのか!!」
実は先程から外からの戦闘音が消えていたのだが…………
彼らは外での戦闘など忘れていたのだ。
「何? 貴様は何を言って…………? …………貴様らぁ!!!! 許さんぞぉぉぉ!!!!」
「「ひッ!!」」
エングが今まで聞いたことのない声で、否、もはや声ではなく怨嗟の悲鳴と言った方が良いかもしれない。
「貴様らに人としての心はないのかっ!!!! このようなことをして貴様らの良心は痛むことは無いのか!!!!」
エングが取り乱していたのは当然のことである。
誰しも、二時間前まで共に食事をしていた戦友が首だけになり転がってきたのならば正気を失うのは仕方がない。
「クァハハッ! おいおいお前がそれを言うのかよ!! クァハハハハハハハハハハハ!! こりゃァいい!」
「もし我々が負けていたら〈イントロウクル世界線〉がは我らに慈悲をかけたか? 〈イントロウクル世界線〉が侵略してきた世界の民に貴様らは明日を与えたか? エングと言ったな、今貴様は報いを受けている。そう思えば少しは楽になるのでないか?」
「おいおい、神楽坂ァ、武人にとってそれが一番ツレェんだぜ?」
「ふむん。そうなのか?」
「アァ。自分の行動に言い訳をする。これがどれだけ惨めなことかァ…………」
「許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん」
エングの言葉が呪詛になりかけたところで、動きを示す者がいた。
「エングさん…………私はあなた方が死んでいくのを見たくない…………だからお願い!! もう私たちに関わらないで!!!!」
「千花…………………………」
千花だ。
彼女は人の感情が読めるが故に、エングが今抱いている感情や敵兵が散っていった時に感じていた負の感情が理解出来たのだ。
そしてその感情を敵にも味方にも抱いて欲しくなかったのだ。
「…………ッ」
エングが動揺し、隙ができたところに千花が寄り添った。
千花は知っているのだ。
悲しみに満ちた時何をされれば安心するのか、自分が昔の母親や父親にされて不安が吹き飛んでいった行動を。
「…………貴様何をしている? 私は貴様らを殺そうとしたのだぞ?」
それ即ち、抱擁だ。
「もう私はあんな嫌な思い誰にもして欲しくないの!! 時雨にも、神楽坂さんにも、獅子極さんも、アンフェアさんも、あなたにだって…………して欲しくないの………………だからお願い。もうやめて!!!!」
それを見て那由多が千花とエングを離そうと動こうとした。
しかしその行動はアンフェアにより止められた。
アンフェアは首を振り、離す必要はないと言外に示した。
だが、炎が言っていたように自分に言い訳をするということは何よりも恥であり、侮辱である。
「ふざけるなッ! 私の部下を殺しておいて同情をするなぁぁぁぁぁ!!!!」
エングから光が漏れる。その正体はエングの首飾りにあった。
「オイ! ありゃァ自爆する気じゃねェのか!?」
「ワタシが見たところあれは相当な威力のある魔法具だね。どうするの? アンフェア?」
「アンフェア!!!! 離さんか!!」
炎、ギールの焦りに満ちた声が聞こえ、那由多がアンフェアの静止を振り切ろうとしている。それに対しアンフェアは
「よい。見ておけ。今から起こる神秘が我らにない新たな可能性になろう」
「おいおいアンフェア、お前さ…………ほんっと性格悪いよな………………」
アンフェアの意味が分からぬ答えに彼方が唯一理解を示した。
「私諸共死ぬがよい!! 黄泉で私に同情した罪を噛み締めるがいい!」
「千花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
時雨はこの時世界の全てが止まる気がした。
このままでは千花は確実に死ぬだろう。
今まで生きてきた中で千花だけが自分と友達でいてくれた。
自分が危ない時はまっさきに助けてくれた。
だというのに彼女が危ない時、自分は何一つできないのか…………自責、後悔、なりより恐怖。
────助けたい────
そう思った時だった。
時雨は自分の右腕が痛みを発するのが分かった。
「【最後の光】!!!!!!」
白き光が玉座を覆った。それと同時に金色の光がさした。
「【護りたい人を護る力】!!!!」
白と金の光の交差が収まるところを千花は見る前に意識を落とした。