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ラストワン~刻印がもたらす神話~  作者: Pー
第三章 第一部【総合アカデミー】
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8. 総合アカデミー2

 千花たちの元に集まってきたディオク=シャドリニウスたち三人が、エリトの注意を受け自席へと戻って行った。


「第五戦。多王元主、碧村(へきむら)翡翠(ひすい)。両者前へ」


 エリトの言葉は先までと変わらない。


 しかし、元主の対戦相手は千花たちと同じく日本人としての名前。


 ディオク=シャドリニウスや嵐=ボクと言った〈聖ドラグシャフ世界線〉の者ではない。


「どうやら動いたようですねぇ」


 元主だけは理由を理解したかのような口振りで、決闘場まで進んでいく。


 そして、碧村翡翠と対峙した時、小声で話しかける。


「やはり貴方でしたか、(みどり)さん」


 そう、元主の相手は人類の護り手(ラスト・ワン)『遊撃隊隊長』千石(せんごく)(りょう)の弟子として『後継者』五人のうちの一人、碧その人であった。


 今は髪を金髪に変えて、凛々しい好青年の顔に変えてはいるが、これが碧の本当の顔とは到底思えない。


 十中八九、整形によるものであろう。


「大方アンフェアさんからの命令ですかねぇ? そこまで私たちは信用なりませんか」


「いえ、『皇王』様は貴方方を案じておられるのです。人類の護り手(ラスト・ワン)の役職に着いたと言っても、まだまだ“子ども”。心配するのは当然です」


「ふむぅ。忠誠心は本物のようですねぇ」


「……! 鎌をかけましたね?」


「『後継者』の方々で唯一貴女だけが分かりませんでしたので」


 確かに碧は顔合わせの際、己の世情を何一つとして語らなかった。


 そこに何かしらの理由があるのは事実。


 その疑念を晴らすために元主はわざとアンフェアを貶め、忠誠心を測った。


 まさか碧もこんなところで鎌をかけられるとは思わなかったことだろう。


「貴方はどこまで……!」


「剣聖さんがいなくなってしまって、しっかりしなければならないのですねぇ。一番の年長者はソフィアさんですが、私も栖本さんたちの先輩なのですねぇ」


 アンフェアも元主の強さは認めていた。


 元主の己の会話に引き摺り込むその手法。


 忍者として鍛錬してきたであろう、碧ですら元主のペースにまんまと嵌められている。


「………………あまり“大人”を舐めないように。幾らでもやりようはあるのですよ?」


 負け惜しみからか、碧が不穏な言葉を吐きながらシャーシスを横目で見る。


「貴女ぁ、侵犯(しんぱん)しますよ?」


 ゾクゾクッ! と碧の背筋を絶対零度の悪寒が駆け巡る。


 元主の言葉に含まれる脅しの色、恐怖の声色。


 これこそが多王元主の恐ろしさ。


 アンフェアが感じた脅威を碧はその身をもって体感した。


「や、やれるものならばやってみなさい。ですが、それは今ではない。このようなところでみすみす実力をバラしたりはしません」


 その言葉通り、碧は元主との戦闘はせずにエリトへの試験辞退を申し出る。


 エリトも千花たちの実力を見ているので、今更実力を試す必要性も皆無と判断し、その申し出は受諾された。


 なんの憂いのなく、碧は控え室の自席へと進む。


 その先にはがっしりとした男が座っており、遠目で確認することによると、栄馬(えいま)であることが分かる。


葉山(はやま)栄馬(えいま)さん。あの槍術士(そうじゅつし)の方までも…………」


 栄馬を確認したあと、元主は千花たちの待つ控え室へと戻って行った。


「おかえりなさい! 多王先輩!」


 不戦勝だとしても、千花は労いの言葉を忘れない。


 こういうところだけは、『魔王』という名には似合わないとつくづく思う元主。


 先程の碧との会話はまだ話さない。


 ここは人の耳があり過ぎると判断した。


「第六戦。シャーシス・ディアス、イルア=クレイドール。両者前へ」


 エリトは元主が不戦勝になったことを懸念材料としたが、粛々と試験を進めていく。


 シャーシスの相手は女性というよりも青年と思われるだろう凛々しい容姿に、真っ赤な長髪、そして純白の修道服をナーラのようにミニスカートのようにリメイクしている。


 がよく見ると、ミニスカートではなく、ミニチャイナ風のアレンジであった。


「行ってくるわ」


「えぇ。頑張って来てください。応援していますねぇ」


「………………それだけ?」


「愛しています。大好きですねぇ」


「ありがと! じゃあ、行ってくるわね」


 元主とシャーシスの進捗具合を目の前で見させられた千花たちは、砂糖を吐くマーライオンになりかける。


 だが、ミリソラシアの気持ちを知る者は、今の会話を素直に受け取ることが出来ない。


「ミアミア、辛かったら何時でも言ってね」


「はい、主様………………早速で悪いのですが、少しお傍に寄っても……」


 遠慮がちに、それでもしっかりと願いを口にするミリソラシア。


「うん。分かった」


 しかし、千花はミリソラシアの傍によるどころか、ミリソラシアを思いっきり抱きしめる。


「はぅわぁぁ!?」


 急激に己を包む人肌に、千花の体温。


 あまりの出来事に叫び声が漏れてしまう。


 それほどに煩くしたというのに、時雨たちは注意せず、優しげな瞳で見つめている。


「第六戦、開始!」


 千花とミリソラシアの百合百合しい空間に浸っているうちに、シャーシスとイルアの戦闘は始まってしまう。


「エリト試験官! オレも棄権する!」


 イルアは女性にしてはハキハキとした声で、エリトへと棄権を宣言する。


「はぁ? ちょっと、あんたふざけてんの?」


 千花や時雨の戦闘を見て、昂ってしまたシャーシスの心は無惨にも折られてしまう。


「ふざけてるわけじゃねぇ! お前はきっとオレよりも強いんだろ? なら、こんな大勢の前で醜態なんざ晒せるかよバーカ!」


 確かに、千花たちの戦闘を見ていると勝てる見込みがないことぐらい分かることだ。


 しかし、イルアの滞在値(エネルギー)量は魔力二千、武力四千、合計六千の今まで見てきた受験生の中で最も高い数値である。


 それと、先程の戦闘にて、碧が棄権を受諾されたことにより、棄権が許されることが受験生たちに拡がった。


「〜〜〜〜!? バカですってぇ!? あんた誰に向かって言ってんのよ!」


「お前だよバカ!」


「またバカって言った! ぶっ殺してやるぅ!」


 まるで小学生のような会話を繰り広げながら、物騒な言葉を口走る二人。


「ぶっ殺すだぁ? やれるもんならやってみ……」


「【()喰腕(くわん)】!」


【強奪の刻印魔法(こくいんまほう)】を付与したシャーシスの腕が魑魅魍魎(ちみもうりょう)のような怪物に変容する。


「ぶっ!? 気持ちわりぃ! なんだその腕!?」


 あまりの容姿に固まっているイルアに【喰腕(くわん)】が襲いかかる。


「やべっ! 降竜秘奥(こうりゅうひおう)武竜(ぶりゅう)”! 【破壊は創造の象徴(グルア・ジヴェド)】!」


“武竜”の降竜秘奥を使用したイルアはシャーシスの【苦の喰腕】に己の拳をぶつける。


「ぬなぁァァァ!」


「……! なかなかやるわね!」


“武竜”の拳と異形の腕が拮抗し合う。


 だが、その決着が着くことは無かった。


「両者共に失格。その魔法は殺傷性が高い」


 二人とも興奮のあまり、試験の大前提である非殺傷性の魔法と言うことを失念していた。


「クソっ。いいとこだったのによぉ!」


 水を刺されたイルアはそのまま不貞腐れたまま、自席へと戻って行った。


「ただいまー」


 毒気を抜かれたシャーシスは元主の腹へとダイブする。


「お疲れ様でしたねぇ。今回は残念でしたが、再戦はいずれあります。その時を待ちましょう」


「む〜〜〜〜〜〜!」


 元主が諭すが、シャーシスは元主の腹に埋まりながらバタバタと不満を表現する。


 これだけ見ると理想のカップルなのだが、シャーシスの背負う(カルマ)が見る者の目を曇らせる。


「第七戦。ミリソラシア・ディアス、ドルモ=リニグア。両者前へ」


 エリトの対戦者発表に受験生からうぉぉ! と歓声が上がる。


 なぜなら、ドルモ=リニグアは魔法運用試験に関して、水を操り試験に臨んでいた。


 そして、ミリソラシアも【水の刻印魔法(こくいんまほう)】を使用していた。


 両者共に得意魔法は水属性。


 どちらの魔法操作能力が高いかを目に焼きつけることが出来る。


「第七戦、始め!」


 試験官であるエリトですらこの試合には期待を寄せている。


 あの魔法運用試験の水の試験にて二、三秒という記録を出したのはドルモとミリソラシアの二人しかいないからだ。


 これまでの試験ですら五秒台で止まっていた記録を一度に二人が更新したのだから。


降竜秘奥(こうりゅうひおう)水竜(すいりゅう)”! 【流動するは竜の意思(エリアトレルド)】!」


 魔法運用試験でも見せた“水竜”。


 しかし、その大きさはとてつもなく大きく、一頭だけでなく三頭もの『水竜』が現れる。


「【水の怒りを(ハイ・ガイン)】!」


 しかし、ミリソラシアは焦らず水の斬撃により『水竜』の頭を吹き飛ばしていく。


「その程度ですか!」


 だが、“水竜”の元となるのは水なのだ。


 頭を吹き飛ばされたところで、水は湧き上がり元の『水竜』へと戻ってしまう。


「なるほど。そう簡単には終わらせませんか……【水の怒りを(ハイ・ガイン)】!」


 もう一度、水の斬撃にて『水竜』の頭を吹き飛ばす。


 これにはドルモも疑問を隠せない。


 無駄だと分かったことに何故もう一度繰り返す必要があるのか。


「【水の次元をハイ・ジェード・リルードリア】!」


 しかし、【水の刻印魔法(こくいんまほう)】第二段階の水の応用。


 先程放った水の斬撃の位置、つまり“水竜”とドルモの間に、ミリソラシアが瞬間転移する。


「なっ!?」


 これにはドルモも動揺を隠すことができず、思考が止まってしまう。


「【水の喜捨を(ハイ・リード)】!」


 空中から一気にドルモへと肉薄し、水で出来た細剣(レイピア)をドルモの顔へと突き立てる。


「私の勝ちです」


「くっ…………!」


 ドルモは苦しげに顔を歪ませるが、この状況下では認めざるを得ない。


「勝者、ミリソラシア・ディアス!」


 わぁぁぁぁああああ! と受験生たちから歓声が上がる。


「ただいま戻りました!」


「おかえりなさい、ミアミア!」


 ミリソラシアは大した消耗をせずに千花たちの元に戻ってくる。


「(この戦いは水の操作以前に、頭の回転率が勝敗をわけたわね)」


 時雨はミリソラシアとドルモの戦闘を分析し、同じ分野での勝負の付き方を研究する。


 この和気あいあいとした雰囲気を、シャーシスが傍から眺める寂しげな視線に、気付いたのはパートナーの元主だけであった。


「第八戦。イザベラ、ハドルド=マキニウス。両者前へ」


 そして、千花たちの中で唯一試験を受けていないキャンベラが遂に決闘場に足を踏み入れる。


「キャンベラ、やっちゃって!」


「任せておけ! 『魔王』の令だからな!」


「……! 茶化さないで!」


「ハハッ! …………行ってくる」


 キャンベラには仲間思いの千花がなぜ『魔王』と言う()()()()()の名が冠されているのか、全く理解出来なかった。


「第八戦、開始!」


 ハドルド=マキニウスはキャンベラと同じく、聖騎士のような装備、キャンベラと同じく金髪の短髪、キャンベラと同じような青年のような容姿。


 滞在値(エネルギー)量は魔力二千四百、武力千五百、合計三千九百の微妙な数値。


「ジャスティレイブ流【ユナイト・レイズ】!」


 そして、キャンベラと瓜二つの聖剣。


 その聖剣から放たれる横凪の斬撃は、雷を纏いキャンベラに襲いかかる。


「……ジャスティレイブ流だと!?」


 ──ジャスティレイブ流善竜剣術


 〈聖ドラグシャフ世界線〉に代々伝わり、善竜騎士団が唯一使用することが許されている剣術だ。


 キャンベラの戦闘方法もジャスティレイブ流剣術を使用し、その上で降竜秘奥(こうりゅうひおう)を己にかけ、最終手段として【覚醒の刻印魔法(こくいんまほう)】を使用する、と言った三段階構成の初歩にジャスティレイブ流剣術を使っている。


 つまり、キャンベラの相手のハドルド=マキニウスも善竜騎士団の団員だと言うことになる。


 閑話休題(それは一度置いといて)


 驚きながらも雷の斬撃を躱し、キャンベラも攻勢に出る。


「ジャスティレイブ流善竜剣術【ユナイト・レイズ】!」


 その斬撃の型はハドルドと同じ方だが、威力が桁違いだ。


 降竜秘奥(こうりゅうひおう)光竜(こうりゅう)”は使っていないが、【覚醒の刻印魔法(こくいんまほう)】を付与しているため、威力は倍増している。


「ぐっ……! 部分降竜(ぶぶんこうりゅう)では勝てないか…………!」


 キャンベラの斬撃を回避したハドルドは、キャンベラの強さに舌を巻く。


降竜秘奥(こうりゅうひおう)雷竜(らいりゅう)”!」


 その言葉の後、ハドルドから雷がほとばしる。


 部分降竜ではなく完全な降竜秘奥により、“雷竜”の加護が最大限に発揮された。


「キャンベラと同じ!?」


「なるほどね〜〜」


 控え室の自席では千花と千百合が、ハドルドの降竜秘奥に驚きを隠せない。


「降竜秘奥…………君も善竜騎士団か」


「ジャスティレイブ流【ドュール・レイズ】!」


 キャンベラの声はハドルドの斬撃によって掻き消された。


 凄まじい電撃が決闘場を走り回り、溢れ出る光は世界を白く照らす。


 その一撃に受験生たちはハドルドの勝利を確信した。


「ふぅ──強かったぞ、ハドルド=マキニウス」


 しかし、受験生たちの予想は大きく外れることとなった。


 決闘場にたっていたのはハドルドではなくキャンベラ。


「流石ね、キャンベラは」


 時雨はキャンベラが何をしたかは見えていないが、直感で彼女が勝つことは分かっていた。


「えっ? 何があったの?」


「単純ですねぇ、栖本さん。キャンベラさんは真正面から雷撃を打ち砕いたのですねぇ。【覚醒の刻印魔法(こくいんまほう)】を付与したあの聖剣で」


 元主の見立て通り、キャンベラは聖剣を【覚醒の刻印魔法(こくいんまほう)】で数倍に保たせ、たった一振でハドルドの一撃を破ったのだ。


「凄すぎない?」


「凄すぎますよねぇ。剣聖さんが自信を失うのも分かる気がしますねぇ」


 千花と元主の二人はキャンベラの強さに戦慄しながらも、笑顔で戻ってくる彼女を迎えるのであった。






 ❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐






 その後も実技試験は問題なく続き、第二百二十一期生の試験は幕を閉じた。


 結果は後日発表されるという事で、その日は終了した。


 千花たちはナーラが(自費で)支払ってくれた宿へと戻り、疲れを癒すことに専念した。









 ❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐






 場所は変わり総合アカデミー教職員室。


 教職員室の奥にある円卓には数人の教師が座っていた。


 皆難しい顔をして、一人の教師の話しを聞いていた。


「これが第百二十一期生の試験結果でございます」


 その教師とは千花たちの試験官であるエリト=リドルシウスが試験結果を他の教師に説明している。


「此度の新入生も中々見込みがあるものじゃのう」


 円卓の一人、魔法科学科(まほうかがくか)第一人者のバロムア=二ドルリウスが肩まで届く自慢の白髭を撫でながら言葉を発する。


「その、なんだっけ? あの、その、自爆させるの。ヤバくね? 頭の使い方気持ち悪い」


 たどたどしい話し方をするのは、この円卓の中で最も若いだろう青年だ。


 名をリニヴァ=リン。


 魔法深淵科(まほうしんえんか)の第一人者である。


 真っ白な髪を短く切りそろえてはいるが、あまりパッとしない印象が強い。


「先入観に囚われてはいけないが、どうにもその少女からは血の匂いがする。その歳で一体何を経験したのか…………」


 そう話すのは、キャンベラやハドルドとよく似た女騎士だ。


 魔法剣術科(まほうけんじゅつか)の第一人者であるワールド=アルレリウス。


 違う点は、金髪ではなく銀髪であり、目元が鋭すぎるぐらいだ。


 発言をしたのは三人程度だが、この他にも特徴がある教師陣が揃っている。


「お手元の資料に書かれているのが、今回の席次で御座います」


 席次とは、試験などの成績を点数が高い順に上から順位をつけたもの。


 そこには


 首席──栖本千花


 次席──華彩時雨


 同次席──ミリソラシア・ディアス


 同次席──ディオク=シャドリニウス


 同次席──嵐=ボク


 同次席──ハヴィリア=フォン=ギニエルスタ


「何かの間違いかの? 次席が五人もおるなど前代未聞じゃぞ?」


「それに不合格者もいないとはどういうことだ? 甘く採点したのではないか?」


「どうでもいいけどさ、あの、なんだっけ? あの、それだ、『剣鬼王(けんきおう)』の二の舞にならないようにね」


 教師陣が口々に試験結果について、話し出す。


「静まれ」


 一言。


 たった一言発するだけで、バロムアとリニヴァ、ワールドの三人が口を閉じざるを得なくなる。


「合格基準を満たしたのであれば、皆一様に入学を認める。意義のある者は?」


 そう話す者の名はヴァルアドル=フォン=ギニエルスタ。


 総合アカデミーの校長にして、〈聖ドラグシャフ世界線〉の王である『希望』のラモスキュー=クレリアの親戚だ。


 彼は王の親戚であると言うコネを使って校長になった訳では無い。


 その実力だけで総合アカデミーの校長にまで昇りつめたいわば化け物。


「もし、『剣鬼王』を超える者がいるのならばそれも良し。総合アカデミーの士気が上がる」


 ヴァルアドルが一言一言発するだけで、円卓内の空気が重くなる。


「校長先生、それはさ、あの、えっと、その、あなたが『()()()()()()()から悔しさ紛れに新入生を『剣鬼王』ぶつけようとか思ってるんじゃないよね?」


 リニヴァの言葉は核心をついていた。


 ヴァルアドルは一度『剣鬼王』と決闘をし、完敗を喫した。


 実力のある校長が、ただの一生徒にだ。


「違うな。この私が私情で動くわけがあるまい」


 リニヴァの言葉にはまったく動じず、眼光すら変えずに返答する。


「………………では皆様、今期の生徒は受験生全員入学という事でよろしいでしょうか?」


 エリトの締めくくりの言葉に反論する者は居らず、第百二十一期生の入学は確定された。

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