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ラストワン~刻印がもたらす神話~  作者: Pー
第二章 第二部【二大同盟戦線】
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21. 霧の街での戦闘

「ただの娘を殺すことになろうとはな。後味は悪そうだ」


「もしや、軍がなくこの人数での勝負ですか? 私の本領は軍と軍同士の戦争なのですがね」


 千花とミリソラシアの目の前には筋骨隆々の大男と、右手に鳥の羽を使って作っただろう扇子(?)を仰いでいる男性がいる。


 しかし、顔の形やその他様々な様相は霧に呑まれていてよく分からない。


「誰ですか…………この人たち」


「もし、もしだよ。この霧が想像を元に人を作ってるなら、私この人たち知ってる」


「……! 一体この方たちは誰なのですか!?」


「呂布奉先さんと諸葛孔明さん…………だと思う。多分、きっと、そのはず」


 あまり確証がないのか、千花の言葉尻は萎んでいくが、十中八九正解だ。


「えっと………………どちら様で?」


「ミアミアはまだ勉強してなかったね。軽くだけど説明すると、呂布奉先さんは三国志っていう昔の時代で最強って呼ばれてた人、諸葛孔明さんは同じ三国志っていう時代で天才って呼ばれるほどの軍師さんだよ」


「………………そんな凄い人と戦うんですか」


 ミリソラシアは戦慄する。


 三国志がどういう戦いだったのかは分からないが、人類の護り手(ラスト・ワン)を知っている千花ですら恐れるのだ。


 その力は未知数どころではない。


「ミアミア、ちょっと耳貸して」


「は、はい」


「私たちは勝たなくていいんだよ。あの二人がいる場所は霊脈にとても近いから、神楽坂さんたちを呼べる。神楽坂さんたちなら、あの二人にも勝てるはず」


「ふぁ、ふぁい! あの……主様、それはわかったのですが………………耳がくすぐったくて…………その」


「…………えいや」


「ふぁぁぁあぁぁぁぁ! いい! 耳たぶ引っ張るのいい!」


 出ました変態ミアミア。


 しかし、そんな緩やかな雰囲気も呂布奉先(霧)と諸葛孔明(霧)の前では霧散してしまう。


「ミアミア、あの二人を引き付けてくれる? ごめんね…………私の【刻印魔法(こくいんまほう)】じゃあ囮になれない…………」


「いえ、大丈夫です! ここは私にお任せ下さい! 【水の刻印魔法(こくいんまほう)】は一対多の戦闘に特化していますので!」


 千花とミリソラシアが作戦会議をしているころ、呂布奉先(霧)と諸葛孔明(霧)も方針を決めていた。


「私が後ろで指示を出します。あなたはそれに従ってください」


「貴様は俺を使いこなせるのか?」


「あなたが私の指示に従ってさえもらえれば、ですが」


「まどろっこしい。必ず使いこなせ。今の俺は赤兎馬(相棒)がいない。それを考慮した作戦を立てろ」


「承知しております」


 簡素な意思疎通。


 だが共に中国史に名を残す英雄、短くとも戦の常識など頭に叩き込まれている。


「……………いくよ!」


「はい! 【水の嘆きを(ハイ・アーズ)】!」


 水の戦鎚が創り出され、呂布奉先(霧)と諸葛孔明(霧)に振り下ろされる。


「東方向、前進、攻撃元、破壊」


「なるほどな。やってやる」


 二人は水の戦鎚を危うげもなく回避し、呂布奉先(霧)が千花とミリソラシアへと向かっていく。


「俺の方天画戟(ほうてんがげき)は効くぜ」


 呂布奉先(霧)の手には終也が己の体から生み出していた方天戟(ほうてんげき)が握られていた。


 しかし、呂布奉先(霧)の持っている方天画戟は終也の何倍もの大きさを誇り、持ち上げることすら至難を極める物量である。


「捕った!」


 呂布奉先(霧)の方天画戟の穂先は確実にミリソラシアと千花を貫いた。


 ──はずだった


 今の今までミリソラシアと千花だと思っていたものは純白の光を放ち、虚空へと消えていった。


「そこではありませんよ! 【水の喜捨を(ハイ・リード)】!」


「グハッ!」


 ミリソラシアは呂布奉先(霧)の背後から現れ、水でできた細剣(レイピア)を呂布奉先(霧)に突き刺していた。


「【愛は溶けてゆく(リー・フィリア)】。認識阻害の私の愛だよ!」


 どこからか、千花の声が響く。


愛は溶けてゆく(リー・フィリア)】は作り上げられた虚像を破壊しなければ、溶けることはない。


 千花とミリソラシアはあの数分の作戦会議で呂布奉先(霧)の認識を遮る方法を考え抜いた。


 しかし、呂布奉先(霧)はミリソラシアの細剣(レイピア)では止まらない。


「この程度の刃で、この俺を止められるわけがないだろう!」


「……! ダメだ! ここで感情的になるのは危険だ!」


 諸葛孔明(霧)の制止は一歩のところで届かなかった。


 呂布奉先(霧)は上半身のみを捻り、方天画戟を右に振るっていた。


 しかし、その結果は予想だにしなかった。


 呂布奉先(霧)の方天画戟はミリソラシアの首の一歩手前で止まっていた。


「【水の守護を(ハイ・リガバリー)】です。護りは時雨様には敵わないので使ってませんでしたが、私も防御ぐらいできるんですよ」


水の守護を(ハイ・リガバリー)】は薄い水の膜を己を囲むように張り巡らし、外敵から術者を護る結界。


 たかだか水の膜で方天画戟を防ぐ硬度は、千花の【愛の刻印魔法(こくいんまほう)】による支援を受けている。


 さらに水の柔軟性を活かして、方天画戟が抜けないように細工すらされている。


「この距離なら防げませんね! 【水の憤怒をハイ・ジェード・サムラフィア】!」


 何重にも積み重なった水の歯車が呂布奉先(霧)の至近距離で廻り始める。


「ぬぅ!」


 しかし、呂布奉先(霧)は手に持っていた方天画戟を迷いなく離し、水の歯車から距離をとる。


「(彼女たちは何をしたのだ? 呂布奉先(霧)には彼女の攻撃は決定打にならない。だからこそ、私は相手の降伏という形で終わらせたかった。それにもう一人の娘がとこに行ったのかも気になるところですが)」


 諸葛孔明(霧)は頭の中で考え続ける。


 しかし、彼は忘れていた。


 千花とミリソラシアは中国史にはなかった一つの力を持っていた。


「【愛の刻印魔法(こくいんまほう)】の媒体となる【愛の刻印(こくいん)】よ、魔力の根源を輝かせたまえ!」


「……! 何故そこに!? まさか、あなたたちの狙いは、わたしたちの撃破ではない!?」


 そう、千花とミリソラシアは呂布奉先(霧)に勝つ必要などなかった。


 千花たちの目標は霊脈に魔力を流し込み、人類の護り手(ラスト・ワン)か〈NEVERヴァード世界線〉の戦士誰かを〈リングトラヌス世界線〉へと呼ぶこと。


「ごめんね! 私たちは自分たちが強いなんて思ってないの。本当に強い人は私たちなんかよりも凄いもの!」


 霊脈から凄まじいほどの魔力がほとばしる。


 風が吹き荒れ、雷が走り、光が溢れた。


「ふむん。久方振りの前線、張り切らねばなるまいな!」


 光が収まったあと、霊脈の中心には世界すら破壊することの出来る怪物、神楽坂那由多(かぐらざかなゆた)が立っていた。









 _______________________







 千花とミリソラシアが戦闘を開始した頃、千百合と時雨も二人の英雄と睨み合っていた。


「少し、不味いみたいね」


「少し〜〜? ね〜〜、この状況少しだと思ってる〜〜?」


「結構、不味いわ」


「結構ね〜〜、確かに〜〜」


 千百合と時雨の目の前には、明治維新の際にその秀才さを輝かせ、吉田松陰の元で学に磨きをかけた天才。


 さらに、ロシア帝国を滅ぼす間接的な原因を作った怪僧。


「我が主の仰せのままに」


「とりあえず、やっちゃってください」


 呂布奉先(霧)と諸葛孔明(霧)の二人と違い、この二人は下手な作戦会議などしない。


 千百合と時雨に思考の隙を与えず、早々に決着をつける気だ。


「フンッ!」


 まさかの怪僧が真っ直ぐに千百合と時雨に殴りかかっていった。


 しかもただ殴るだけでなく武術の動きで、だ。


 しかし、千百合と時雨にとって作戦を立てる暇がないのはいつものことであった。


 故に、二人の対応は迅速であった。


「【護りたい人を護る力(ラ・ニュアント・ゼン)】!」


「【次元を超える消失(ヤガァドルド)】〜〜!」


 時雨が守護結界を貼り、千百合が一瞬動きの止まった怪僧に消失の鎌を振るう。


「千百合、この人はグレゴリーラスプーチンさん。怪僧と呼ばれてる祈祷師よ。後ろで見ているのは多分、久坂玄瑞(くさかげんすい)さん。明治維新で活躍した天才よ」


「それだけ言われてもわかんないんだけど〜〜」


「二人ともレベルが違うっていうことよ!」


 パキッ! と千百合が包まれている結界に亀裂が走る。


「とりあえず、撤退(さが)ってください」


 しかし、優位に立てるはずだと言うのに久坂玄瑞(霧)はグレゴリーラスプーチン(霧)を下がらせる。


「何故?」


「とりあえず何でもかんでも突っ込んでも意味ないです。なので、とりあえず様子見しながら潰します」


 その大半が霧に呑まれていたとしても、久坂玄瑞(霧)がニヤリと笑っているのが分かる。


「とりあえず何度も何度もアタックアンドバックで行きます」


「分かった」


 簡素な返答。


 しかし、グレゴリーラスプーチン(霧)は確実に作戦をなぞっていく。


 時雨は結界の硬度を保つためにその場を動けず、千百合はグレゴリーラスプーチン(霧)の動きに、ついていけずにその場で動けないでいた。


「……! 割れる」


 バキバキッと、時雨の結界が砕け散った。


「今!」


「は〜〜い! 任せちゃって〜〜!」


 時雨の号令で満を持して千百合がグレゴリーラスプーチン(霧)へと突撃する。


 千百合は動けなかったわけではなかった。


 わざと動かなかったのだ。


 グレゴリーラスプーチン(霧)の動きを覚えて、対応するために。


「【消えゆくあなたに(ハァグロリド)】〜〜!」


 黒き獣の(あぎと)がグレゴリーラスプーチン(霧)の背後から襲いかかる。


「私は祈祷師。主に寄り添う者だ。あまり私をみくびるなよ」


 グレゴリーラスプーチン(霧)は【消えゆくあなたに(ハァグロリド)】を既に分かっていたかのように避けた。


「えぇ、あなたの力を甘く見た訳ではありません。ですので、確実に勝たせてもらいます。【排除すべき者への審判(ラ・ゼブロドス・ゼロ)】!」


 グレゴリーラスプーチン(霧)と久坂玄瑞(霧)を時間ごと結界に閉じ込め、少しの間時間のズレを生じさせる。


「今よ! 千百合!」


「は〜〜い! 【天翔る伝説(ジェスディヴァ)】〜〜!」


 黒い翼を二対、その身に宿し消失の天使となった千百合が霊脈の中心であろう場所に飛んでゆく。


「……! とりあえず祈祷師さん、止めてください」


「分かっている!」


 しかし、物事は一筋縄ではいかない。


 時間のズレが戻り、現実世界の時間軸へと戻ったグレゴリーラスプーチン(霧)がおよそ人間の出せる最高スピードで千百合へと向かっていく。


 久坂玄瑞(霧)も懐から二丁の拳銃擬きを取り出し、千百合をうち落とそうと構える。


「させるわけないでしょう! 【友を護る切り札(ラ・グァバ・ゼン)】!」


 時雨のもてる最高硬度の結界を千百合に貼る。


 それも何重にも重ねて。


「さ〜〜! 誰が出てくるか分からないけど〜〜、後はよろしくね〜〜!」


 千百合の身に宿る【消失の刻印魔法(こくいんまほう)】の媒体となる【消失の刻印(こくいん)】を基礎(もと)とし、魔力を流し込む。


 風が吹き荒れ、雷が走り、光が溢れた。


「ははァ! 俺ァ様、完全復活だぜェ!」


 霊脈の中心から呼び出されたのは悪鬼羅刹(あっきらせつ)修羅(しゅら)の男、獅子極炎(ししごくえん)であった。







 _______________________









「元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい」


 狂ったように元主を褒めるシャーシス。

 もちろんその言葉に感情はこもっておらず、ただただ無機質で機械的な声が響く。


「ですよねぇ。私かっこいいですよねぇ」


 それでも元主はシャーシスの言葉に満足しているようだ。


 狂気の男、多王元主。


 彼は一体何があって、ここまでシャーシスに固執するのか。


「ここらに霊脈はないので少し歩かねばならないようですねぇ。さぁ、行きますかシャーシスさん」


「元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主かっこいい。元主」


「あ、それもう飽きたので結構ですねぇ」


「はい」


 シャーシスの返答は簡素なもの。


 元主が自我を侵犯したのだから、まともな返答はできないのが当たり前なのだが。


 ちなみに、千花や千百合たちを襲った霧の英雄は既に元主によって倒されたあとであった。


 千花たちが勝てないと断じた英雄たちですら、元主はシャーシスの手を借りずにワンサイドゲームで方をつけた。


 しかし、今の元主の頭の中は倒した英雄のことではなく、後ろから無言で着いてくるシャーシスについてであった。


「やはり、文乃(ふみの)さんにはなりませんねぇ」


 元主は寂しそうにつぶやく。


 ──文乃(ふみの)


 この名は元主を筆頭に『影の存在』、剣聖の三人が知っている。


 彼女は一体何者なのか、なぜ元主が文乃という女性にシャーシスに幻影すら重ねてまで縋り続けるのか。


嗚呼(ああ)文乃さん(愛しい人)…………」


 元主は永遠と思い悩む。


 なぜあのような惨劇が起きてしまったのか。


 なぜあの時、動けなかったのか。


 なぜあの瞬間元主は狂ってしまったのか。


「………………またあなたですか」


「悪い、かい、? ボクは、キミが、心配、だった、んだ、よ、」


 元主の元に現れたのは黒いモヤがかかった彼、彼女、どちらにも当てはまらない『影の存在』であった。


「余計なお世話と何度言えば分かるのですかねぇ」


「キミの、都合、なんて、知らない、さ、。ボク、が、心配、だった、から、来た、だけだ、」


『影の存在』にとっては、元主の都合なんてどうでもいいわけだ。


「それは『影の存在(あなた)』の自己満足ですよねぇ」


「そんな、こと、は、ない、さ、」


「あるのですねぇ。あなたはただ浸っているだけなのですねぇ。慈悲という名の悦に」


「キミ、は、何を、言って、いるん、だい」


「迷惑なんですよ、あなた」


 とぼけ続ける『影の存在』に元主は空間が歪むレベルの殺気を浴びせる。


「ボクが、迷惑、なんて、ことは、ない、さ、」


「………………私の前から消えろ」


『影の存在』が立っていた地面が波打ち、『影の存在』を呑み込む。


「キミ、こそ、生きて、いて、迷惑、って、思って、るの、かな、?」


『影の存在』が一言話す度に地面が腐っていく。


「……?」


「人を、侵す、こと、しか、できない、キミ、は、この世界、の、異物、だと、思わない、かい、?」


 腐る地面。


「………………」


「この世界、に、キミ、みたいな、化け物、は、いらない、」


『影の存在』が元主の心を抉る言葉を放つごとに、腐敗の波は範囲を広げる。


「………………」


「まして、や、()()、みたい、に、希望、しか、振り、まけない、歪曲、した、存在、なんて、もっと、いらない、ね、」


 腐敗の波は元主の足元までやってくる。


遺言(はなし)はそれだけか? じゃあ侵す(死ね)


「ハハ、ハハハ、ハ、! やっぱり、キミ、は、狂ってる、よ、! …………だから、いらない、」


 地面を隆起させる元主の侵犯、地面そのものを腐らせていく『影』。


 二つの脅威は同時にぶつかる。


「あなたでは私には勝てませんねぇ」


 しかし、戦況は圧倒的に元主が有利であった。

『影』の腐敗は元主の【侵犯(しんぱん)刻印魔法(こくいんまほう)】の効果を受け、どんどんと侵犯されていく。


「(え? なにこれ、どういう状況? っていうか、私何してんの? 確か、〈NEVERヴァード世界線〉の王を殺すために………………! あいつ! 私の腕引きちぎって挙句、キ、キ、………………キスまでした気持ち悪いやつ! 相手は()? 分かんない。でも確かに知ってる。私は確実にあの黒いモヤのやつは知ってる。だけど()()()()())」


 元主が『影の存在』の相手を全力でしているからか、シャーシスの侵犯効力が薄くなりシャーシスは自我を取り戻した。


「キミ、は、さ、、シャーシス・ディアス、を、自分、の、欲求、を、満たす、ため、に、使ってる、よね、?」


「…………うるさいですねぇ」


「一人、の、人間、を、キミ、は、愛玩動物、として、扱って、る、ん、だよ、ね、?」


「……………………うるさいですねぇ」


「そんな、人間、が、生きて、いて、いい、わけ、? キミ、みたい、な、人でなし、が、生きて、いて、いいと、思って、るの、? 一人、の、人間、の、人権、とか、色々、無視、して、私物化、してる、キミ、が、?」


「………………………………」


「だんまり、かい、? でも、それも、一つ、の、答え、かも、ね、。現実、を、見ない、。気持ち悪い、ほど、真っ当、な、反応、だ、ね、」


『影の存在』は元主の存在を否定する言葉を、幾度も幾度もぶつける。


「(なんて醜悪なの…………相手の言われて嫌なことを何度も言い続けるなんて…………)」


 シャーシスが心配するほどに、元主は酷い言われようであった。


「ええ、その通りですよ。私はシャーシスさんに文乃(ふみの)さんを重ねて毎日楽しんでますよ。私は最低最悪な人間だということも自覚していますねぇ。それはれっきとした一つの事実なのですねぇ。ですが、私が彼女を侵犯しなければ彼女が()()()()()()()のも事実なのですねぇ」


「(……!? 私が消える? なんで私が!? っていうか文乃って誰!?)」


 シャーシスの心の中は荒れる。


 しかし荒れているのはシャーシスだけではなく、元主の言葉に『影の存在』すら、驚いている。


「なぜ、それを、?」


「私は多王元主なのですよ? 私にかかればこの程度、思考することなど余裕なのですねぇ」


「………………やっぱり、キミ、は、生きてちゃ、ならない、。後ろ、の、シャーシス・ディアス、も、同じ、だ、」


『影の存在』から放たれる腐敗は威力が増し、元主の侵犯を腐敗させてゆく。


「あなたこそ、生きていてはならないのですねぇ! あなたはシャーシスさんの真実を知りながら、彼女を利用し続けた! あまつさえ、あなたはシャーシスさんを殺そうとする! あなたが私を疎むのはそれでいいのですねぇ。しかしぃ! 私の前でシャーシスさんのことを悪く言うことだけは許さないのですねぇ!」


 元主の怒りの根源はシャーシスを貶されたこと。


『影の存在』の敗因はシャーシスを貶めたこと。


「(何なの、あいつ? 私とあいつは敵だったのに、なんで私を護るの?)」


 シャーシスには甚だ疑問であった。


 元主にとってシャーシスは憎むべき敵であったはずなのに。


 シャーシスの知らぬ間に護られる存在になっていた。


「何度、でも、言う、よ、キミ、は、生きて、ちゃ、いけない、!」


 それが『影の存在』の最後のセリフとなった。


 元主に侵犯され続け、黒いモヤを纏った奴は跡形もなく消えていった。

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