4. 状況整理
神楽坂が示しているところには、大きな扉がある。
「神楽坂だ」
そう言った瞬間、扉が重厚な音をたてながら開いた。神楽坂たちは平然としてるが、千花たちにとっては威厳ある扉の前に萎縮している。
扉が完全に開ききった後には広い場所があった。いわゆる、玉座の間というものだろう。
扉を抜けた先には、三人の人間が座っていた。
千花たちはこの人たちが王なんだなと、直感で分かった。
この場には王たちの他に、玉座の両隣に二人の者、左側の壁にも二人、そして右側の壁に神楽坂達がついた。千花たちが王たちの前に来たところで、彼らから声がかかった。
「貴様らが、歪の前で正気を保った小娘どもか」
と、中心の玉座に座るものが尋ねる。
「お言葉ですが王よ。私たちには歪というものが分からないのです」
時雨は畏怖に耐えながらも発する声には凛とした覇気がこもっていた。
流石は政治家の娘と言ったところだろう。
「いやなに、緊張しているのでは無いかと思ってな、余の冗談だ。なかなかに良い余興だろう」
千花と時雨が反応に困っていることを察したのか、右側の玉座に座る者が
「アンフェア、余興はどうでもいいからとにかく始めてくれ。そろそろ俺は眠いんだが…………」
千花達の心など針の先ほど察していなかったようだ。
すると立て続けに玉座の左側の者からも
「その通りだ。ワタシも大事な魔導書を読む時間を削っているのだ。早くしなければ帰るぞ」
二人の反応を聞き、中央の者は少しだけ寂しそうに肩を落とす。
「ふん!まぁよい。貴様らのことは聞いているぞ栖本千花、華彩時雨。まずは貴様らが今置かれている状況を説明してやろう」
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「まずは我々のことを紹介せねばならないな。質問は後でまとめて受け取ろう。我らは人類の護り手この世界線を腐廃させる歪を滅ぼし回っている。そして余こそが人類の護り手の全責任者『皇王』アンフェアである」
──〈アンフェア〉それがこの謎の集団のトップらしい。
そして玉座の右側に座る者が口を開く。
「順番通りなら俺だな。俺は霊魈彼方。『神王』だ」
「………………………………………………」
────沈黙が支配した────
「ウォォォイ!!!! なぜ続けて紹介しねェ!!」
獅子極の咆哮が轟いた……
────届け満場一致のこの想い────
だが、玉座の左側の者は無反応。
ピチりと何かが切れた音がした。
「てめェなんで言わね「ワタシの名はへライド=ギール。『帝王』だ。以上」被せてくんなよ!!!!!!!! なんでわざわざ俺が言葉を発した時に言うんだよォォォォ!!!!」
獅子極の咆哮が轟いた…………
アンフェアが口を開き、
「恥をかいたな…………まぁよい。我らが人類の護り手を束ねる王だ。あとは騎士が二名、遊撃隊士が二名、特攻隊士が三名、暗殺者が三名。順に自己紹介だ」
そして口を開いたのは玉座の両隣に構えていた二名だった。
「オレは、『前衛騎士』の役目をおっている、ワール=グリューエンだ。よろしく」
「同じく騎士の役目をおう者だ。ただ、私は『後衛騎士』だがね。ジェラール=ビュート。以後よろしく頼むよ」
千花と時雨のように性格が真逆のようだが、お互い騎士としては成り立っているようだ。
その次に発言したのは遊撃隊士と呼ばれた二人だ。
「元傭兵団〈光の道標〉の団長をしていた、九龍撃老だ。別にアーグバードと呼んでくれても構わない」
「元忍者の千石魎です。」
遊撃隊士達の紹介は簡潔に終わった。
再びアンフェアが発言をした。
「特攻隊士は既に紹介済みだろう。暗殺者の方だが今は別件でここにはいない。故に、紹介が済んだ、ということにしておく」
色々と次に回してはならないことがあるのだが、千花と時雨の記憶容量は既にキャパオーバーであるので、二人は何も言えなかった。
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「皆様に問いたいことがあります。まず第一に歪とは一体なんなのですか? 人類の護り手とは何をする組織なのですか? 世界線とおっしゃいましたが世界と世界線の違いはなんなのですか?」
「それと私たちをここに連れてきた理由って何?」
時雨が怒涛の勢いで質問を浴びせる。
それに便乗してちゃっかり千花も質問をしている。
その質問に答えるのはアンフェアだ。
「ならば、一つ一つ片付けていこう。まず歪とは何なのか? 答えは害悪だ。貴様らが出会ったあの歪なものこそが歪だ。歪の全てが害では無い。ただの歪は世界の均衡を保っている。だが、彼奴らは変異をする。変異した者は世界の腐廃を早め、滅亡を呼ぶ。」
「歪は日常的にいるのですか?」
時雨の的確な質問がとぶ。
「その答えは是だ。彼奴らはいつでも増殖する。今この場にいない暗殺者どもはその処理に向かっている。それと、我々だが我らは歪からこの世界を護ることだけが使命ではない。他の世界線からの戦争も退けなければならないのだ」
その言葉を聞き、千花と時雨は息を飲んだ。