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ラストワン~刻印がもたらす神話~  作者: Pー
第一章【我らの守護者たち】
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15. 各々の場より

 (ゆがみ)に遭遇し、バラバラになってしまった時雨(しぐれ)たちだが「誰でも良いから固まって合流しろ」という炎の指示に従い、遂に世界線の狭間(とびら)を超えた。


「…………ろォ…………はや……お…………ろォ」


 何者かの声が目覚め切れていない頭に響く。


「…………むぅ〜〜」


 朦朧とする意識が段々と形を保っていく。


「早く起きろっつてんだよォ! ボンクラァ!!」


「……!? はいぃ〜〜!! ………………炎くん…………?」


「その炎くんってのやめろォ……」


 千百合(ちゆり)&炎



 出発地点    荒野



主様(あるじさま)〜〜、そこは弱いのでやめてださ〜い。うふふふふふふ」


「お…………おい……これ起こす必要ないよな…………はぁ…………やだな、この変態起こすの…………」


 一体どういう反応をすれば良いのか分かっていない撃老。


「主様ぁぁぁぁ! そこです!! あああああああああああぁぁぁ!!!」


「うわぁ!! なんか叫び出したよこの子!! 怖い! ただ単に怖い!! もういっそのこと起きるな!!」


 開き直ることしか叫ぶことの出来ない撃老。


「あれ? 九龍様?」


「なんで起きてくるんだよぉ!! 一生寝てろ!!」


「酷くないですかっ!?」


 ミリソラシア&撃老



 出発地点    市街の裏路地




「………………おはようございます」


「……おはよう」


「……………………(なぜ武虎は自然に話せるのだ?)」


 時雨&武虎、終夜



 出発地点    高山の(ふもと)



 なぜかこのペアになった時雨たちは王のいる宮殿を目指し、各々進むのであった。





 _______________________






 千百合&炎(サイド)


「それで〜〜。炎くん、私たちはこれからどうすればいいの〜〜?」


「………………あァ? んなの知ったこっちゃねェよ」


「とりあえず〜〜、王宮に行かなきゃダメなんだっけ〜〜?」


「………………まァ、あいつらはそこ目指すんだからァ王宮につきャ会えんじゃねェかァ?」


「……? どうしたの? 炎くんなんかいつもと違うよ〜〜? 炎くん〜〜? お〜い炎くん〜〜?」


「あァもういちいち炎くんなんて言うなやボケェ!! むず痒いんだよォ!!!!」


 先程から、炎の返答が少したどたどしい理由がまさかの「君付け」によるものだったのである。


「わぁ〜〜! 照れてるの〜〜? 炎くん可愛い〜〜!!」


 千百合がここぞと言うように煽ってくる。


 だが、炎とてこれで終わるほどヤワではない。


 人類の護り手(ラスト・ワン)はこの程度のことでは動揺しないのだ。


お前(おめェ)ふざっけんなよ! (ガキ)が俺ァと馴れ馴れしくすんじゃねェよ! 俺ァ極道だぞォ、俺ァみてェなァクズを「君付け」してたら栖本(仮)(おめェ)がやべェ目で見られんだよ! 俺ァ別にいいんだよォ、この道を選んだのは俺ァだからなァ。だがよォ栖本(仮)(おめェ)にはまだ先が長ェんだ。俺ァなんかを「君付け」する必要なんてねェんだよォ」


 違ったようだ。


 動揺しまくっていて炎史上初の長文になっている。


 しかし


「ん〜〜。だから〜〜?」


 千百合は炎の主張を一蹴。


 まるで意に介していなかった。


「そんなの〜〜、世間体でしょ〜〜? 炎くんに接するのは私〜〜。周りの人なんて〜〜、関係ないんだよ〜〜」


 千百合は関係ないとそう炎に断言した。


「私が炎くんって呼びたいから呼んでるの〜〜。周りがどう言おうと知らないんだから〜〜」


「………………!」


 炎は知らなかった。


 この感情を。


 これに似た感情は知っているが何故か今湧き上がってきた気持ち(想い)は知らなかった。


 炎は今、目の前の千百合が輝いて見えている。


 しかし、炎はどう言葉にしたらいいかわからなかった。


 それは千百合も同様である。


 なぜ、このような言葉を口にしたのか。


 なぜ、炎にだけ「君付け」をしたいのか。


 なぜ、目の前の炎がここまでに己の心をざわめかすのか。


 千百合は知らなかった。


「チッ。まァいいぜェ。呼び方なんざ。好きに呼べェ………………千百合ィ」


 先に折れたのは炎だった。


「わ〜〜い! (…………? あれ? なんで私こんなに嬉しいんだろ〜〜?)」


 ボソッと千百合の名を呼んだが、本人は気づいていないようだ。


 ここに本人たちですら分からない感情の上に、妙な関係が成り立った。



 ❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐



 数時間荒野を歩き、時たまに休憩を挟み遂に小さな集落にたどり着いた。


「おいィ、休めるとこまで着いたァ。とりあえず降りろォ」


 千百合が炎に背負われた状態で…………


 なぜ千百合が背負われてるのはお察し願いたい。


 千百合が駄々をこね炎に背負わせたなど、彼女の名誉のためにも言ってはならないのだ。


「…………着いた〜〜? お水欲しい〜〜…………。っていうかなんで炎くんはこの暑さの中無事なの〜〜?」


千百合(おめェ)とは鍛え方が違ェんだよォ」


「………………ごめ〜〜ん。なんて言った〜〜?」


「…………(ブチッ)」


 炎の額から何かが切れる音がした。


 その直後ドサッと千百合が落とされた。


「炎く〜〜ん!! ごめんって〜〜!! 先行かないで〜〜! 私死んじゃう〜〜!」


「………………獅子極様許してください。もう生意気言いません。ってこの場で誓えばァまたおぶってやらァ」


「炎くんったら、ツンデレね〜〜。私をおぶりたかったらそういえばいいのに〜〜」


「………………(ブチブチブチッ)」


 炎から血管が数本切れた音がした。


 この後の炎のとった行動は至ってシンプル。


 集落に向かって全速力で走って行った。


「………………………うそ〜〜〜〜〜〜!? 信じられな〜〜い!! 普通いたいけな少女おいてほんとに先に行く!? 鬼畜! 外道! 人外! 悪魔! 暴君! え〜〜と、炎くんのバカ〜〜〜〜!!」


 千百合の叫びだけが木霊した。


「ん? やっと来たかァ?」


「ぜぇぜぇ………………私初めて炎くんのその顔を見て心の底からぶっ殺したい衝動に駆られたよ」


少女(ガキ)が物騒な言葉使うんじゃねェ」


「誰のせいでここまでほふく前進で来たと思ってるの〜〜!? ものすごく疲れたし、ものすごく汚れたんだけど〜〜!!」


 なんと驚くことに、千百合は数キロの距離をほふく前進で進んで来たのだ。


 驚くほどの執着心とその胆力である。


「あァ? 知らねェよ、んなこと」


 だが打って変わって炎の返答はさっぱりしたもので、千百合に申し訳ないとは欠片も思っていないようだ。


 と、ギクシャクした雰囲気のなか黒い影が落ちた。


「…………? あれは……(ゆがみ)!? どうして!?」


「あァ? チッ残ってたのかよ。少し待ってろォ」


 驚いている千百合にそう言い、炎が(ゆがみ)に攻撃を仕掛ける。


 戦闘自体はすぐに終わった。


 炎の先天的超回復能力にかかれば傷など傷にもならない。


 しかし、千百合の心中は荒れていた。


「(もしかして〜〜私を置いていったのは、疲れてる私と(ゆがみ)が戦わないようにするため〜〜?) ふふ〜〜、炎くんったらほんとにツンデレなんだから〜〜」


「あァ? なんか言ったか?」


 千百合のつぶやきは聞こえていなかったようで、炎は疑問符を浮かべた。


「それで〜〜? (ゆがみ)は掃討したの〜〜?」


「…………? あァ、全て終わったぜェ。それとォ、集落のなかにまだ比較的無事な保存食と水があったァ。軽いもんだが食っとけェ」


 たったそれだけの言葉なのに、千百合は胸の奥が暖かくなるのがわかった。


 自分がどれだけ炎に思われているか理解してしまったのだ。


「………………! 炎くんのバカ〜〜!」


「あァ? なっんでお前(おめェ)がキレてんだよォ!」






 ミリソラシア&撃老(サイド)


「……………………ここは裏路地か?」


「そうですよ。王宮のある街アシュベアです。(わたし)がここを出た時は活気があったのですが………………今は」


「……全員、王に狩られたか……………………」


 ミリソラシアが顔を落とし、アシュベアの民の末路を想像し、言葉を濁す。


 しかし、撃老がミリソラシアの言葉を引き取り、最後まで言い切った。


「……! 狩られたって言わなでください!!」


「おいおい、そんな怒るなって。それに何も間違っちゃいないだろ? 俺は事実を言った。それだけだ」


「………………確かに……その通りですけど……」


 撃老の言葉にミリソラシアが憤慨するが、事実を突きつけられてはミリソラシアには反論する術がない。


「おっと、気を悪くしたのなら謝る。なにせ社会科教員だからな、事実を客観的に見てしまうくせがあるんだ」


 撃老は()傭兵団の団長である。


 傭兵団の団長を引退してからは、ある高校で社会科の教諭として働いてる。


「……いえ、九龍様が謝ることではありません。(わたし)が間違っているのは分かります」


 ミリソラシアと撃老の間に険悪な空気がのしかかる。


 そこに、誰かの声が聞こえてきた。


「やはり、ここに来たか。ミリソラシアよ」


 声の主はどこにでもいそうな、男の格好をしている。

 しかし、纏う雰囲気がただの男ではないと証明している。


「……!? なんで…………あなたがここにいるのですか………………!?」


 ミリソラシアが謎の人物を見て激しく動揺している。


「ふん、あんたが誰かは知らないが、俺らは忙しいんだ。また今度にしてもらえるか?」


 ミリソラシアの態度が明らかに普通のものではないとみた撃老が二人の間に入り、声を発する。


「白々しいな〈アザークラウン世界線〉の守護者よ。私が誰なのかぐらいわかっているだろうに」


「……まぁ、この街に人がいること自体がおかしいからな。単刀直入にいえば…………あんた、〈イントロウクル世界線〉の王だろ?」


 そう、突如二人の前に表れたのは〈イントロウクル世界線〉の王、もしくはミリソラシアの父親だったのだ。


「お父様………………どうして……」


「可愛い娘に会いに来ることの何がおかしいのかな?」


 〈イントロウクル世界線〉の王はミリソラシアと対面してもその毅然とした態度を崩さない。


「王一人で何しに来た? 見ての通り、丸腰の男とあんたの娘さんしかいないぜ? 待て、見ず知らずの男と自分の娘が一緒にいたら父親なら来るか」


 しかし、撃老が王に煽りをかける。


 撃老が王を煽る理由はミリソラシアにも理解出来た。


「(お父様の滞在値(エネルギー)量は魔力二千、武力二千五百………………。それに比べて九龍様の滞在値(エネルギー)量は魔力ゼロ、武力三百七十五万。圧倒的に九龍様の方が強い。それがわかっていながら九龍様は対話している……。お父様の切り札を切らせるつもりなのですね……………………)」


 撃老は王を警戒していた。


 まず、この場で声をかけてきた時点でなにか策があるのは、単純明快。


 ならばその策を破り、本格的な〈イントロウクル世界線〉攻略に身を入れようとする、のが撃老の作戦であった。


「クククク。なにそう身構えるでない。大方私がこの場に来た理由でも探ろうとしたのだろう。滑稽な……」


 王の言葉は続かなかった。


 なぜなら、撃老が王に向かい拳を突き出し攻撃に出たのだ。


「……危なかったな」


「……! こいつ! やべぇ……」


 だが、王は撃老の拳を間一髪でかわしていたのだ。


 撃老とて、手加減をした訳ではない。


 八極拳の技と中国武術の観察眼を用い、的確に意表をつき尚且つ完璧な一撃を見舞ったつもりであった。


 王と撃老は共に近距離で向き合う形で止まっていた。


 しかし、ここでミリソラシアが乱入する。


「【水の怒りを(ハイ・ガイン)】!!」


 【水の刻印魔法(こくいんまほう)】による水の斬撃が王を襲う。


 もちろん、撃老の神速の拳をかわした王に拳より遅い斬撃があたることはない。


 しかし、斬撃により撃老が王の前から抜け出しミリソラシアの横に帰ってくる。


「ミリソラシア、もう一度攻撃を頼む。タイミングはこちらであわせる」


「はい! ふぅ…………【水の嘆きを(ハイ・アーズ)】!!」


 水で造形された戦鎚が王に落とされる。


 王が危うげなく回避したその瞬間


「合体術【正拳掌底波(せいけんしょうていは)】!!」


 撃老の八極拳と中国武術の合わせ技が王に決まったのだ。


「………………!?」


 王は撃老の攻撃が来るとは思っていなかったようで、完全に想定外の場所から確死の一撃が飛んできたのだ。


「驚いたろ? ミリソラシアの斬撃をかわしたあの時、明らかに動きがおかしかった。……まるで事前に攻撃がくるってわかってたみたいにな? 原因はその眼だろ?」


「…………そこまで、理解していたか……若造…………我が【先見の魔眼(せんけんのまがん)】による未来予知をたった二回の攻防で見破るか……………………舐めてかかったのはこちらというわけか……」


 と、王が吐き捨て崩れ落ちる。


 王のダメージは見るからに酷く、内蔵などは確実に潰れている。


 その時、王の体は塵になり消えていった。


「【先見の魔眼(せんけんのまがん)】ね……。やはり、滞在値(エネルギー)量が計測できない一種の才能か…………」


「……………………お父様……」


 ミリソラシアは王が魔眼を持っていることを知らなかったようで、滞在値(エネルギー)量に関係のない才能(ちから)を持っていたことに衝撃を受けている。


「……まぁ、今悩んでも仕方がない。もしあいつが先見の魔眼(せんけんのまがん)以外にも魔眼を持ってるようなら、俺一人では分が悪すぎる。あいつらを待ってもいいと思うぜ?」


「はい、父の魔眼はとても異質でした。今は皆さんを待った方がいいですね」


 ミリソラシアを気遣ってか、撃老が話を振る。

 王の奇襲を撃退したミリソラシア達だったが、警戒を尽くし皆が来るのを待つようだ。






 時雨&武虎、終夜(サイド)


「「「(話すことがない……………………)」」」


 こっちは千百合ペアやミリソラシアペアと違い、会話のかの字すらない。

 かれこれ、数時間ほど無言で下山している。


 暗殺者二名には今どきの女子高生と話すことは難しいようだ。

 かたや、今どきの女子高生と思われている時雨も人見知りが激しいタイプなので、自分から話しかけることは出来ない。

 ここに完璧な無音空間が形成された。


「…………あの、王宮はどれくらいの距離なのですか?」


「………………わからん」


 時雨が気まずさのあまり会話を降ったが、暗殺者を生業としていたからか、自然的な会話に慣れていない武虎は一言絞り出すのがやっとである。


「………………時雨よ。(オレ)は道の先が危険ではないか見てくる」


「…………はい。わかりました。…………なぜそれを私に…………?」


「……!?」


 時雨の返答を聞いた瞬間終夜がバッという擬音が聞こえるほどの速さで二人から遠ざかって行った。


「(終夜め…………逃げたな…………)」


 武虎が出遅れた自分を呪う。


「(この沈黙どうすればいい…………?)」


 と、武虎が一人で苦悩していると時雨がもう一度話を降ってくる。


「皆さんは、王宮に行けば会えるのでしょうか?」


 時雨のファインプレーに武虎は心中でガッツポーズをとる。


「(時雨は空気が読めるな……とても助かる)そうだな……我々が共有している目的といえば王の抹殺だ。ならば、王宮に向かうのは妥当だと思われる」


「あ、ありがとうございます」


「「(…………………………)」」


 またもや、沈黙さんがお越しになられた。


「(ぬぅ……何故だ…………なぜぶっきらぼうにしか言えない………………)」


 武虎が自分のコミュニケーション能力の低さに肩を落とした。


「…………!」


 武虎が己の不甲斐なさに落胆しているその時、時雨が不安定な足場に足をとられ転びかけた。

 ただ転ぶだけならまだ良かっただろう。しかし、時雨達がいる場所は高山の麓でありそこら中に深い谷が健在していた。


 時雨はまさに谷へと落ちる可能性のある場所で転びかけてしまった。


「…………不味い!!」


 すんでのところで、武虎が手を伸ばし時雨を支え自分の方へ時雨を引き寄せる。

 時雨も時雨で急激な方向転換により、バランスを崩し武虎へと身体を預けた。


 ここでさらに時雨達に不運が降りかかる。


「武虎、この先に小さな村があった。だが、(ゆがみ)が占拠している。手を貸………………せ…………何をしている?」


 終夜が疑問に思うのも、時雨が武虎に覆いかぶさっている構図ができていたのだ。

 もちろん、時雨は落ちかけた恐怖で武虎に抱きついていた。


「…………!?!?!?!?」


 時雨は声にならない悲鳴を上げ、武虎から離れようとする。

 しかし、ここで新たな不運が時雨を襲う。

 武虎が時雨を離そうとしない。


 ここで補足をしておくと、武虎は女性との接点があまりにもなさすぎた。


 女子高生に抱きつかれるなんてことは生涯に一度としてなかっただろう。


 そう、お気づきの通り武虎はあまりの急展開過ぎて気を失っていた。


「武虎さん! ちょっと離してください!! 死狩さんからすごい目で見られてますので!! 武虎さん!? 武虎さん!!」


 時雨は武虎から離れようと必死にもがくが、腐っても人類の護り手(ラスト・ワン)

 気絶していてもその腕力は健在だ。


 ただの女子高生では外すことはできない。


「武虎さん! 起きてください!!」


「よせ……それ以上暴れると……」


 時雨がもがけばとがくほど、彼女の服はどんどんはだけてゆく。


 終夜が静止を呼びかけるほどまでに危険な所まで来ていた。


 もう本日数え切れないほどの災難が時雨に狙いを定めた。


「………………時雨か…………!? 申し訳ない!! 邪な感情があった訳ではない!」


 武虎が目を覚ましてしまったのだ…………


「起きたなら早く腕を解いてください!!」


「そうか……! 当方(わたし)のせいか……!」


「おい待て、ものすごく待て。そのまま腕を話すとだな………………」


 終夜の忠告は既に二人の耳には入っていないらしい。

 そのまま武虎は腕を解く。


「なんだ? この桃色の布は?」


「ッ――――――――!!」


 時雨の悲鳴が木霊した。

 時雨がもがいたせいで制服が肩から大いに脱げ、時雨の下着(上)が武虎の目の前にきてしまった。


「…………(オレ)は止めたからな…………」


「見ないでください!!!!」


 バチィィィィィィィンと音がすると思いきや、振りかぶった時雨の手は武虎に止められていた。


「驚いた。なぜ急に殴ろうとする?」


「ぅぅぅぅぅううう」


 状況を理解出来ていない武虎によって行き場のない羞恥に駆られた時雨は、その場でプルプルすることしか出来なくなった。


 ここで、ついに助けが入る。


「武虎、これはお前が全て悪い」


 終夜が武虎にことの重大さを説く。

 だが、それはこの状況全てを暴露することになり、手を掴まれた時雨は自分の身体を隠すことも耳を塞ぐこともできない、まさに地獄。


「…………!? すまなかった!! 許してくれとは言わない! だから好きなだけ嬲れ!!」


「……!? 何言ってるんですか!?」


 武虎が事の重大さに気づき、時雨の前で綺麗な土下座をきめる。


「発言だけ見ればもうただの変態だよなぁ…………」


 街で皆を待っているミリソラシアがバッと、高山の麓を見たのは気の所為かもしれない…………

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