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ラストワン~刻印がもたらす神話~  作者: Pー
第三章 第四部【胎動】
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72. 三歩進んで二歩退がって、五歩転移して、十歩跳躍する

 〈聖ドラグシャフ世界線〉王都において、現在、神話の中にのみ存在すると信じられていた主神龍──“真天聖龍”セント=ヴェル=リウムが顕現を果たしていた。


 伝承に伝え聞く通りの荘厳な肉体に、神々しく光る純白の鱗、その視界に入るだけで生存は諦めなければならないほどの恐怖。


 だが、そんな“真天聖龍”がたった二人の怪物に押されていた。


「(また“未来”が視えなくなってる…………! 刻印源皇の力が強くなってるってわけ?)」


「«いいや、刻印源皇の【過去の刻印魔法】は()()()()()()でありんす。小娘…………そなたの力が衰えているのでありんしょう»」


「(なーる。“真天聖龍”のせいかな?)」


 光の杭を華麗に避けながら魂に巣喰う『女神』フレイヤと戦略を考える千花。


 その上に、空間断裂や刻印復権を利用した大打撃を与えてもいる。


 だが、千花とフレイヤが危惧した通り、目の前の怪物は刻印源皇の影響を受けている可能性が確定的なのだ。


 かつても千花の“未来を視る眼”が使用不可能になったことがあった。


 その時こそ刻印源皇と初めて対峙し、ヤツが【過去の刻印魔法】を使用した時であった。


 今回も同じ事例だと考えるなら、“真天聖龍”に使用の意思がなくとも【過去の刻印魔法】の影響をその身に受けているだけで千花へは侵害ができる。


「«あまり深奥まで断裂を広げるなでありんすよ。メイドの小娘が手を打つはずでありんすえ»」


「(わかってるけど、それは千時先輩に言った方がよくない? 下手すれば本気で倒しちゃうよ)」


 頬の横を殲滅の光がかすっても眉一つ動かさずに行動し続けて、“真天聖龍”の気を自分へと引き付ける。


 今回の作戦で重要なのは、“真天聖龍”の中に眠る“中心核”を傷付けずに無力化することにある。


 それが可能なのは唯一“聖典の契り(ミトラ・ブルク)”のみなのだが、“聖典の契り(ミトラ・ブルク)”を保有するのが最後の末裔であるソフィアのみであるのだ。


 さからこそ、千花たちの目的はソフィアへの意識を逸らすことなのだが…………。


「おい、鬼人! 貴様作戦を理解しているのか!」


「ご主人様、それ以上はまずいかも…………!」


 同じく“真天聖龍”の気を紛らわす役目を任せたキャンベラとネメシアの二人が、反撃をものともせずに“真天聖龍”を斬りつける剣聖を止めにかかる。


 事実、剣聖は千花らが作戦会議をしている時も、幾度となく“真天聖龍”へと挑みかかり何度か瀕死寸前まで追いつめていた。


「【愛は何時でも朧げ(リー・ブルーモス)】」


「…………栖本か。何の用だ」


 遂に“真天聖龍”が声にならない叫びを上げさせて地面に撃墜させるに至った剣聖が、最後の一撃を入れようと動くその瞬間──


 千花の疑似的空間転移によって彼女の前まで強制的に引き寄せられた。


「千時先輩やりすぎだよ。ソフィアも準備が終わるみたいだし、もう斬る必要はないんだよ」


「そうか…………栖本、問題の根源は貴様にある。愚図騎士との和解は貴様から切り出すのだな」


「……? 千時先輩もそんなこと言うの? 私は悪いことしてるわけじゃないんだけどな」


 ここでも千花とのすれ違いが起こってしまう。


 彼女に自覚がない限り、この会話には意味というものが全くと言って皆無であるのだ。


 それを理解したのか、剣聖はそれ以上何も言わずに血だらけの“真天聖龍”へと目を向ける。


「状況は大方理解している。ソフィアがハギア家の生き残りとはな」


「まあね…………私としてはさっさと“真天聖龍”の魂を“中心核”から分離して欲しいんだけどな」


 剣聖によって深く斬られた“真天聖龍”の身体は眩い光を放ちながらみるみるうちに塞がっていく。


 “真天聖龍”自身の回復力なのだろうが、その圧倒的な回復スピードは、やはり“中心核”を介して〈聖ドラグシャフ世界線〉から無尽蔵の魔力を行使しているからだろう。


 “真天聖龍”の魂に付着した“中心核”を分離しない限り、例え今のように瀕死の重症を負わせたとしても回復され、滅ぼそうにも〈聖ドラグシャフ世界線〉を道連れにされる。


 故に、無力化のためにハギア家の持つ“聖典の契り(ミトラ・ブルク)”が必要なのだが…………。


「でもソフィアは“聖典の契り(ミトラ・ブルク)”なんて知らないっていうし…………そうだ! 私がソフィアの言葉を支援して強化したらそれって“聖典の契り(ミトラ・ブルク)”と同じじゃない?」


 恐らく、戦略的な側面で考えるなら、千花の言葉は間違いはないのだろう。


 しかし、()()は我を忘れた怪物を討伐する話ではない。


 これは、想いを継承した友が無慈悲な運命に強制された友を救う物語なのだ。


「止せ、栖本。これ以上、オレたちの干渉は必要ない」


「……? なんで? 私の作戦の方が効率いいじゃん」


「…………今の貴様ならそう言うと予想していたさ」


 何が間違っているのか、本気でそう問いかける千花に対して、キャンベラのように諦めた表情を浮かべる剣聖。


 そして、彼は躊躇いなく千花へと斬りかかる。


「……………………私がこうするってわかってたから、わざと攻撃しまくって転移させた…………のかな?」


「フンッ! “思考”が視えなければ不安か? 貴様の【愛の刻印魔法】を阻害できる者は華彩だけだと思うなよ」


【剣の刻印魔法】を使用して魂そのものを強化すれば、幾ら千花の【愛の刻印魔法】が強くともある程度、“思考”を保護できる。


 だが、それは剣聖が千花と実力的に同等だから出来る芸当であり、彼女にしてみればまさか、剣聖がここまで強くなっているとは思っていなかった。


 だからこそ、千花にはわからなかった。


 千花と同等の力を持つ剣聖ならば、尚のこと“真天聖龍”への合理的な対処法である案を却下するわけがない。


「なんで、私の行動を…………ッ!」


()めた、かだと? ()()()()貴様ならいざ知らず、()()貴様は実に読みやすい。何せ、合理的に考えれば必然的に貴様の思考がわかるのだからな」


「……ッ! 私の言葉を………………ああ、これって。凄いいやだね、言葉を取られるって」


 これは想像に過ぎないが、きっと千花には、剣聖の姿が“恐怖の象徴”に見えたであろう。


 何をしても剣聖の前では無意味となってしまう。


 そんな、絶対的強さをもった彼を目の前にして、『魔王』になって初めて千花の本能が警鐘(けいしょう)を鳴らした。


 だから、『魔王』のとる行動は決まっている。


「そうだな。逃亡も一つの手だろう。だが、()()は貴様が最も嫌うものであったはずだ」


「……ッ! 千時先輩、もういいよ。そろそろ黙って欲しいんだ」


「いいや、断る。かつての貴様は“感情”のままに行動するが故に予測など不可能であった。実に手の焼ける後輩であった」


 静かに、着実に千花を追い詰めていく剣聖の脳裏には──笑顔で無理難題へと身を投じる彼女の姿があった。


 相手がだれであろうと、例え、それが神話上の怪物であっても、向かっていったはずだ。


「だが、今の貴様はどうだ。『魔王』だか何だか知らぬがな…………()()()()の力を手に入れるためだけに修羅になりよってからに」


「千時先輩………………今初めて先輩を殺したいっておもったよ」


「フンッ! やめておけ。『魔王』である貴様程度ではオレの足元にも及ばない」


 笑顔で殺気を振り乱す千花に対して、依然として不敵に笑い返す剣聖。


 互いに笑顔を浮かべているにも関わらず、二人は決して穏やかな、という言葉では言い表せない程の空気を出している。


「私だって好きで『魔王』になったわけじゃないよ。でも、私はみんなを」


「護りたかった、か……………………調子に乗るなよ、ガキ風情がッ!」


「……ッ!?」


「“感情”なき貴様程度に護れる者などたかが知れている! “感情”ありし貴様だからこそ、誰にでもその手が届いたのだ! オレたちは『魔王』千花など望んでなどいない。“愛”に生きた栖本千花を愛している。何度も言おう、貴様程度では()()()()()()


 恐らく、今までもこれからも、あの剣聖がここまで“感情”を吐露したのはこの瞬間だけだろう。


 彼は視ていられなったのだ。


 空虚な笑顔でわかるはずもない“感情”を分かったふりをして行動する千花の姿を。


 彼は受け入れられなかったのだ。


 それでも一歩一歩進む彼女の歩みを。


 きっと、これは剣聖の弱さなのだろう。


 鬼の如き冷徹さをもつ剣聖は、鬼と形容される厳しさをもつ剣聖は、“痛み”に苦しむ仲間の姿を見たくないのだ。


「………………………………ねえ、千時先輩。地獄ってみたこと、ある?」


「フンッ! 黄泉なら数度見たことはある」


 剣聖の魂からの言葉は、哀れな『魔王』には届かなかった。


 いや、違う。


 届いたからこそ、彼女もまた、()()をみせたのだ。








 ❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐






「クソッ! 千花と鬼人が殺し合いを始めたぞ! この忙しい時に!」


「仕方ない。言葉で止められないなら、力ずくでわからせるしかない」


「だからと言って、今やる必要はないだろう! 私たちだってギリギリなんだぞ!」


 “真天聖龍”の気を引く役目を任せられたのは、引き続きの彼女たち二人なのだが…………。


 簡易的な作戦会議前ですら千花と剣聖の圧倒的な戦力にて、そこらの塵程度にしか認識されていなかった二人だが、それでも光の杭を躱すだけで精一杯であった。


 それが、現在、千花と剣聖の二人が意地の張り合いを開始したために、“真天聖龍”の意識が全て彼女たちに集中(フォーカス)されたのだ。


 現在進行形でかすり傷にとどめられている時点で、相当な奇跡と言ってのけれる程には、二人は窮地にいる。


「…………否定できない。残念、ミリソラシアとナーラが来るまで持てばいい。だから……!」


「だから、本気で抑えてろって言いたいのか!? その後は確実に動けなくなることを承知で言っているのか!?」


「安心して…………骨は拾う」


「どこで安心しろと申す!?」


 吸い寄せられるような美しい金髪を振り乱しながら互いに声を張り上げる二人であったが、ミリソラシアとナーラの援軍が間に合えば話は変わってくる。


 恐らく、ナーラによって撃破された“反真龍救済連合”のリーダーであるセニョールの救出が、彼らの目的なのだろうが、“真天聖龍”への対処をしたいキャンベラたちにとっては邪魔でしかない。


「議論している時間はない。残念も分かっているはず」


「~~~~ッ! 分かった! やるよ! やればいいんだろう!」


 半ば自棄になりながらも、他に“真天聖龍”の気を逸らす手段など皆無なために、了承するしか道はない。


 ピタッとその場で止まり、自身の体内で魔力を循環させ、その上で周囲の魔力をも喰らい始めるキャンベラ。


 純白の渦が彼女の周囲に生じはじめてようやく、“真天聖龍”がキャンベラへと危険性を見出し、光の杭を全て収束させる。


「疑似神器(じんぎ)構築──【軍勢の護り手(ヘルヴォール)】!」


 だが、光の杭がキャンベラの美しい肢体を貫くことはなかった。


 殲滅の光とキャンベラの間へと魔力を編んで構築した翼をはためかせ、光り輝く大楯を展開した殺戮兵器(ワルキューレ)が割り込んだからだ。


 光の杭を、同じく光の楯で防ぐその様相は正しく、神話の中でしか再現できないであろう神秘的な光景である。


「感謝するぞ、ネメシア。そして…………後は任せる」


 彼女は自身に背を向けて光の濁流を防ぐ親友に対して、初めてその名を呼び、憧れの鬼を真似た不敵な笑みでその力を解放する。


「降竜秘奥───“神天(しんてん)光龍(こうりゅう)”!」


 千花たちが〈聖ドラグシャフ世界線〉に降り立ち、幾度となく超大型の魔法が行使されたが、キャンベラのそれは千百合の大量殺戮魔法に匹敵する魔力量であった。


 キャンベラは自身の“光竜”を鬼畜鍛練によって数段階も上へと昇華していた。


 さらに“神天光龍”にはキャンベラの身体に刻まれている【覚醒の刻印魔法】をも付与されているために、もはや、本人の肉体許容範囲を軽く超えている。


 故に、使用時間がどうであれ、降竜秘奥もしくは【覚醒の刻印魔法】どちらかの使用を中断した瞬間にキャンベラは指一本動かすことができなくなる。


「この世界の守り手である貴方に、これ以上殺戮をさせるわけにはいかない。貴方を救う手立てはある。だから…………それまで、耐えてほしい」


 それは自身の殺す気で向かってくるものへの言葉としては場違いに思える。


 だが、それでこそ彼女が送るには相応しい言葉のように感じられた。


「わが愛剣──ユスティーツァよ、神獣を害する私を許し給え」


 抜き放ったキャンベラの愛剣であるユスティーツァにも【覚醒の刻印魔法】第二段階“無機物への付与”が成されている。


 光り輝くユスティーツァの刀剣としてのランクは、剣聖の鬼哭を超えている。


「私の名はキャンベラ。この期に及んで名乗る必要はないがな」


 そう言って、一気に魔力を収束させたキャンベラは、純白の羽衣を魔力で錬成し“真天聖龍”へと肉薄する。


 今までにない魔力量を秘めたキャンベラに対する“真天聖龍”は、何かを感じたのか、先のような狂乱の絶叫ではなく、まるで覚悟を受け取った騎士の如き咆哮で、彼女を迎え撃つ。






 ❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐






 純白の“圧”を感じた彼女は、何か想定外の事態が起こっていることに本能的に気づくことになる。


 見境なく襲撃してくる一団、その全てを崩壊させたミリソラシアは透き通るような水色の髪を手ぐしで整え、共に戦った友へと向き直る。


「これで最後のようです。ナーラ様、今すぐ主様のもとへ!」


「そうしたいところですが……()()は味方と捉えてよろしいでしょうか?」


 同じく車椅子を器用に操作してミリソラシアへと駆け寄るナーラほ()()()へと声をかける。


 彼は本来ならば強敵として立ちはだかっていたであろう存在。


 だが、彼女たちが“反真龍救済連合”と戦闘を開始した途端に手を貸した。


「味方ってのも少し違う。オレにも目的があってここにいる。まっ、なんだ。アレだ……任務ってやつだ」


 その男は黒いシャツに、黒の長ズボン、蒼色のトレンチコートを羽織った者。


 その手には通常の二倍もあるカトラスを握っていた。


「任務ですか…………コアド魔王国に攻め入ることも任務の一つでしょうか?」


「ハハッ! アレは独断だ。千時剣聖とは白黒つけたかったしな!」


「そうですか…………千時様と仲が良い貴方とは遺恨はない方がよいですが」


 真剣に答える気のない彼の返答に、他の“反真龍救済連合”と同じように処理しようと、【水の刻印魔法】を展開するミリソラシア。


 そんな彼女に対して、一貫して軽薄な態度であった彼は、目を細めてカトラスを構えなおす。


 一触即発こそ、この場を体現するに相応しい一言であったが、それを許容しない者もいる。


「お二方、矛を収めてください。()()()()様、貴方は我々二人だけでは判断できません。ですので、明確にお答えいただけますか? 貴方は敵ですか? それとも、味方ですか?」


「…………そこまで睨まれちゃあ、答えねえわけにはいかねえな。一応、味方ってことにしといてくれ」


「煮え切らない答えですね? 何かやましいことでも?」


「なに、この嬢ちゃん。初対面よね? オレ、君の名前とかも知らないんだけども…………」


 ナーラの仲裁をもって殺気は抑えた二人であるが、依然として殺伐とした空気は残ったままである。


 “反真龍救済連合”を片っ端から斬り捨てた男──カロード=ゴールはミリソラシアに警戒されている故に、無茶な行動には出れない。


 だが、それはミリソラシアも同じだ。


 互いに軽率な行動が封じられた中、ナーラだけが毅然(きぜん)として佇んでいる。


「カロード様、単刀直入に聞きます。()()()()()()()()()?」


「……………………依頼人(クライアント)に関しては黙秘するぜ?」


「…………そうですか。ミリソラシア様、カロード様は信じられます。命の賭かっている状況で筋を通す人は信頼できます」


「ナーラ様が白というなら、信じましょう」


 これまでの人生経験でナーラは、信念を貫き通す者は信頼に足る、と確信をもって断言できる。


 その勘に従って、時雨の凛とした信念に惚れ込み、『魔王』派閥にまで加入してコアド魔王国の重鎮にまでなったのだ。


 そして何より、あのカロードがこの期に及んで噓をついてまで二人の寝首を搔く利点がないのだ。


「我々は『魔王』様たちの援護に行きます。“真天聖龍”の気を紛らわす者は多い方が良いので。カロード様は予定外の戦力なので、どこにいてもあまり変わりはありませんが…………」


「ならば、ソフィア様の護衛についてください」


「おおい! 雑だし、めんどくさがってない? ほんとに信頼してくれてる?」


「我々の命、そして〈聖ドラグシャフ世界線〉がこの先も持続可能であるかは、“真天聖龍”を唯一止める力をもつソフィア様にかかっています。彼女のための露払いに任命されるのです。信頼なしにはできません」


 本人の了承なしで進む役割分担に、思わず声を上げるカロード。


 しかし、突然出てきて「自分、味方であります!」と高らかに宣言した挙句に「作戦に加えてください! 信用してもらって大丈夫です!」など胡散臭いにも程がある。


 メンバーに、臨時とはいえ加えてもらっただけで十分である。


「では、よろしくお願いいたします、カロード様。かの『博愛』様につきましては、残念でした」


「…………そういうの、むずがゆいから辞めてね。さみしいのは苦手だ」


 去り際にナーラによって告げられた言葉を冗談交じりに受け取るカロードではあるが、その実、空虚な表情を見せる。


 彼にとってはスパイを命じた『博愛』のリュヴァ=イデドではあるが、それでも、彼には友でもあったのだ。


 薄々暗殺されるだろう、と勘づいていただけあって衝撃自体はさしてなかったが、胸には穴が開くほどにはショックを受けてはいた。


「まあ…………なんだ。アイツの次に指揮権を持ってるのは、選帝侯候補の()()()だけだ。こちらこそ、よろしくお願いしますよ、ナーラ様」


「私は候補であってまだ選帝侯ではありません。そういうの、むずがゆいので辞めてください」


 だが、事実として現段階で生き残っている選帝侯は、未だ姿の見えない『不屈』のみ。


 ナーラがこの先、『七大選帝侯』に選ばれる日はそう遠くない。


 その日を拝むには、目先に迫る“真天聖龍”による脅威をどうにかするしかない。

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