6. イントロウクル世界線の在り方
時雨たちが裏千花と戦闘を始めた同時刻。
那由多、ワール、アストライオスは〈イントロウクル世界線〉本土へと足を踏み入れていた。
「ふむん。なんという閑散した世界か…………」
「寂しいな…………。他の世界線を侵略した末路か……」
「いい反面教育だナ」
〈イントロウクル世界線〉本土は和風、洋風、〈アザークラウン世界線〉にはない建築様式が多数存在している。
しかし、そのどれもが崩れていたり、朽ち果てていたりと、文明が滅んだと言われたとしても疑う余地はないだろう。
「「「【火炎球】」」」
彼らが〈イントロウクル世界線〉本土を探索していたところ、炎が波をうって押し寄せてきた。
しかし、那由多たちはもちろん危うげもなく躱した。
「我らは〈イントロウクル世界線〉が〈ヴァディラン魔法部隊〉!! 投降せよ!! さすれば命まではとらん!! 私はジャメル!! 〈ヴァディラン魔法部隊〉の隊長である。増援には〈獣魔混合部隊〉の猛者どもも来る。わかったのなら、投降せよ!!」
ジャメルが那由多たちに投降を進めてきた。いや、命令と言うべきだろう。
「休戦と言うのならば、我々も応じよう」
「貴様、我々の許可なしになぜ言葉を発している? 誰が喋って良いと言った? 我々は交渉をしているのではない! これは王であるバラゼン様のお言葉だ、もとより貴様らに拒否権などない!!」
〈ヴァディラン魔法部隊〉の魔法士たちはそれこそが当然だと信じきっている。
その様は異様な自信に満ちている。
「腐りきってるな…………。おい、〈イントロウクル世界線〉には市民はいないのか? ここに来て人らしき人は見ていないのだが……。」
ワールが〈イントロウクル世界線〉に降り立ち抱き続けていた疑問を口にする。
しかし、この疑問に対する答えは最悪な形で帰ってくる。
「やはり貴様らか!!!! 我らの世界に民にふんした内通者を送っていたのは!!」
「はぁ? お前は何をほざいてるんだ?」
「惚けても意味が無いぞ!! 貴様らがこの世界に着き、初めに民を探したのがその証拠だ!!!!」
「お前らは何が言いたい? つまりあれか? 俺たちが〈イントロウクル世界線〉に間者を送り、その所在を確かめるために来た。って思ってるのか?」
「分かってるでは無いか…………。とくと見よ!! これがバラゼン様に逆らったものの末路である!!」
ジャメルが手を振り、後方の部隊に司令を出す。
「…………お前ら……。自分たちが何をしているのかわかってるのか…………!?」
「これは酷いナ……………………」
「…………最早、取り返しがつかんぞ……」
ジャメルが司令を送り、連れてこさせたのは磔にされ、明らかに拷問された後が残っている女性や子供だったのだ。
彼女らは執拗に責められたのか目からは生気が失せ、物理的な死よりも先に精神的な死を迎えたようだった。
「………………これは誰がした?」
「……? 貴様は何を問うているのだ?」
「だから!! 誰の命令でこんなことをしたかを聞いている!!!!」
ワールの怒りの限界は既に超えているようで、かろうじて正気を保てているのはこの悲劇を起こした諸悪の根源を滅ぼそうとしているからに他ならない。
「バラゼン様に決まっている」
「…………お前らは何も思わなかったのか?」
「王の言うことは絶対だ。その真偽を問うことすらありえない」
「……………………腐りきってやがる」
ワールは怒りを超え哀れだとすら思うようになった。
「事の真偽を確かめなかったお前らも悪いが、なりより確証もない状態で自分たちの民を殺したバラゼンって奴は悪いなんてレベルじゃない…………。お前らは殺す。もちろん、お前らの王も殺す!!!! 色々な世界を見てきたが、ここまで酷いのは初めてだ……」
「ワールよ。待て」
「なんだ? 神楽坂? 止めてくれるなよ?」
「俺もやろう」
「そう来なくてはな!!」
「くだらん。脆弱な人間が、魔法士に勝てると思うなよ」
「【空間断絶】」
パリンッッッっと音がした。
ワールが使った異能によりひとつの空間が斬られた。
〈ヴァディラン魔法部隊〉魔法士の首から上の空間が。
ワールの世界では成人すると、己の異能適正を見られ、それにあった人生を歩むといった、言ってしまえば生まれてきた運により決まる世界であった。
ワールの適性は“空間”。
小物を別空間にしまうというレアといえばレアだが、攻撃性がなく大した使い道がない異能だった。
しかし、ワールは強さを求めた。
己に唯一許された異能"空間”を極め、己の世界で最強と謳われるものになった。
他には“勇者”などの適性者がいるにもかかわらずだ。
そして、ワールは人類の護り手となり自分がまだまだ未熟だということを思い知らされるのだが、それはまた別の話…………。
閑話休題。
「【壊圧・震渦】!!」
ワールに続き那由多が技を放った。
那由多が足を地面に叩きつけ、衝撃波を放つ。
ただ衝撃波を放っただけ。
しかし、彼の肉体は改良がなされた銃弾の雨を無傷で耐えることが出来るほど、鍛え上げられている。
故に、常人ならただの衝撃波ですむところを那由多の場合、地面をえぐり、辺りを粉砕する死の風となりえる。
ワールと那由多の攻撃により〈ヴァディラン魔法部隊〉の精鋭たちは、ジャメルを残して全滅。
「…………驚かせよって! やはり貴様らではこの私を相手取るには力不足だったようだな!!」
「もとより、貴様を殺すつもりなどない。ワールよ。こやつは貴様が殺るのだろう?」
「感謝する。神楽坂」
「慈悲はいらんぞ! 貴様らの慈悲など反吐が出るわ!」
「【空間乱獲】」
ワールが異能を使うと、ジャメル周辺の空間が固定され、空間が収縮されて行った。
つまり、このまま放置されればジャメルは空感の渦中に強制的に巻き込まれる。
「よせぇ! 私を誰だと思っている!? 貴様ら低俗な人間より価値があるのだぞ!! 私にこのようなことをしッッ……………………」
「最後まで胸糞悪い奴だったな…………。まぁ、どクズのことなんてどうでもいい。グレゴリーの奴はどこいった?」
「アストライオスなれば、こやつらに続いてきた〈獣魔混合部隊〉とやらを消しに行ったぞ」
「………………それは大丈夫なのか? グレゴリーは暗殺者だろう?」
「暗殺者なればこそだろう。我らの戦闘音は〈獣魔混合部隊〉とやらにも聞こえていただろう。故に、音にのみ警戒している獣風情がどうしたとて、アストライオスには敵うまい」
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ワールと那由多が戦闘を始める少し前にアストライオスは行動を開始した。
アストライオスは付近で最も高い建物へと身を潜めた。
その二分ほど後に獣、否魔獣を連れた一団が通った。人間と魔獣全てを合わせても五十匹行くかどうかの人数である。
「ふム…………。〈獣魔混合部隊〉とは言ったものだナ。しかシ、これは人が魔獣を使うと言うよりは、人が魔獣に利用されていると言った方がよいナ……。それにしてモ、やけに少ないな…………空中庭園に攻め入った部隊が〈獣魔混合部隊〉だとしたら、数が少ないのにも納得出来ル」
アストライオスが見た通り、明らかに〈刑雄騎士団〉や〈ヴァディラン魔法部隊〉よりも数が少ない。
魔獣が希少だとしても、無理がある。
「まぁいイ。ワレは依頼を全うするとするカ」
そういい、アストライオスが構えたのは明らかに高性能なスナイパーライフルだった。
「………………こコ」
パァァァァァン!! 放たれたのは一発のライフル弾しかし、弾の大きさが一般のものと段違いだ。
一般の銃弾の大きさを十と例えるなら、アストライオスの使う銃弾は百を超えるだろう。
もちろん、そんな大きさの銃弾が市場に出回っている訳もなく、アストライオスが信用出来る製造者にオーダーメイドで作らせている。
「……………………八匹……よイ。次……」
パァァァァァン!! と二発目が放たれた。
次に撃たれたのは九匹。合計で十七匹を仕留めた。
撃った銃弾の数と撃たれた魔獣の数がつり合っていない。
これこそが、グレゴリー=アストライオスが人類の護り手たらしめる理由である。
彼は自らの頭脳と勘だけで合計十数回の跳弾
をやってのけたのだ。
「………………次は、本気で行こウ……」
パァァァァァン!! パァァァァァン!!と二発連続で銃弾を放てば、三十三匹の魔獣が撃ち抜かれた。
「I know who I am」
アストライオスは一言呟き、任務を終えた。
彼のその呟きには任務遂行の意味以外にもなにか理由がありそうだ。
だが、たった四発の銃弾で五十匹の魔獣を全滅させると言う偉業をなしておきながら、アストライオスが思うことは特にないと言外に証明している。
「…………あいつらもそろそろ終わる頃合いカ……」
「その通りだ。今来たぞ、グレゴリーよ」
「【空間転移】」
ヴォン!! と、揺らぐ音がした。
「空間を超えてくるのハ、反則だと思うがナ……」
「フハハハ! そういうでない!」
「神楽坂、グレゴリー、確かギール達が外から堕とすのだったな?」
「ふむん。そのはずだが?」
ワールが質問を飛ばしてきた。
「ならば、我々も手伝ってやろう。正直暇だ」
「手持ち無沙汰なのは否定できん」
「手伝うのはいいガ、その場合ワレはどうしようもないゾ。このデカ物に、銃弾がきくとは思えなイ。そういうのは任せル」
それもそのはず、アストライオスの力は対人戦で使えるのであって、生き物以外に使うものではないのだ。
ましてや、世界線堕としなど論外である。
「では、いくかの?」
「あぁ、やるか」
「「ふッッ」」
彼らが短く呼吸を合わせ、大技を発動する。
世界すら破壊する最強の一撃を。
「【|壊圧・震渦“激動”《かいあつ・しんか“げきどう”》】」
「【空間一集】 【空間波動】」
那由多が〈ヴァディラン魔法部隊〉を壊滅された一撃を放つ。
しかし、その実態は変わっており周囲にもたらす破壊の波を、一点に集中させ世界の核へと至る。
周囲に甚大な被害を与えた衝撃波を集中させ放つ、その威力は推して測るべし。
さらにワールは空間を読み世界の核を捉え、そこに爆発的な空間の渦を転移させた。
いってみれば【空間乱獲】が内側に渦巻くのに対して【空間波動】は外側に渦を発生させる。
つまり、世界の核は永遠と空間の衝撃を受け続けることとなる。
メシッッッッッッッッ!!!!
〈イントロウクル世界線〉からなってはならない音が聞こえた。
…………気がした……。
…………気がしたのだ。
……決して気にしてはダメなのだ。
「そろそろ、壊れるのではないカ?」
「ふむん。撤収といくかの」
「早く集まれ。軸がズレると転移できない。【空間転移】」
ヴォン!! と、なにかが揺れる音がして世界を壊滅まで追い込んだ二人(異次元スナイパー一人追加)が消える。
あたかもそこには誰もいなかったかのように。
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空間庭園外縁テラス。
那由多たちが〈ヴァディラン魔法部隊〉と戦う少し前の時。
〈イントロウクル世界線〉を堕とす役目をおったギールとジェラールが行動を起こそうとしていた。
「開幕の一撃は任せても良いか? ギール殿」
「いいよ。存分に任せたまえ!」
ギールが心底嬉しそうに自前の魔導書を選ぶ。
「楽園の動力源である【真理の書】は使えないからね…………。う〜〜ん。よし! これにするよ! 【崩壊を呼ぶ世の概念 第六十五節 「殲滅の陽炎」】」
『イントロウクル世界線』が大きな陰に包まれた。
その直後、破壊の嵐が〈イントロウクル世界線〉に吹き荒れた。
それもそのはずギールが選んだのは、超広範囲殲滅型魔導書であった。
さらにその中でも格段に威力の高い魔法を発動した。
「これは…………。まさにこの世の地獄だな……」
「魔獣が来てるね。ジェラール、〈イントロウクル世界線〉をどうにかしてくれる? ワタシは魔獣を攻撃するからさ」
「任せるがいい! 【荒天流星】」
「【崩壊を呼ぶこの世の概念 第十二節 「闇夜の住人」】」
ジェラールが隕石より二回りも大きい星を、無数に召喚して『イントロウクル世界線』にぶっぱなした。
それに加え、ギールが使用した魔導書の能力により陰でできた、武装した兵隊が出てきたのだ。
武装の種類はバラバラで皆、自我がないように見える。
【闇夜の住人】には、実体がないためその体は自由に形状を変えられ、翼を生やし魔獣を駆逐するなど容易なのだ。
「内側から、〈イントロウクル世界線〉の核が壊されかけてるね。神楽坂達が頑張ってるのかな?」
「そうらしいな。………………そろそろ堕ちるか……」
「ん? あんなに遠くにいたっけ?」
「してやられたな。幻影をだし、一時的に距離を置いたか…………」
「まぁいいよ。もうあの世界は堕ちるし」
ヴォン!! と、空気が揺れる音がした。
「〈イントロウクル世界線〉はどうなったのだ?」
「逃がしたね。けど堕ちるよあれは」
ワールたちが〈イントロウクル世界線〉の核を砕いたことで、撤退せざる追えなかった。
「でも、あれはまだ世界線の一部だ。まだ攻めてくるよ」
「なれば尚更、奴らの王を討たねばな」
「……? …………何をそんなに焦ってるの? ワタシが見る限り、大した力を持ってるわけじゃない」
「なにかあったか? 神楽坂殿?」
那由多達は〈イントロウクル世界線〉でおこっていた間者の件をギールたちへと話した。
「それは………………後味が悪いね……」
「確かに、奴らの王は討たねばならないな。だが、他の世界にはまだ民が残っているかもしれない」
「そうだね。まだ希望はあるんじゃない?」
世界線同士の衝突で敗れた方の人間や資源は勝った方が自由にして良いという暗黙のルールがある。
つまり、〈イントロウクル世界線〉の残りの世界には生き残っている民がいるかもしれないのだ。
そこに、時雨を連れた撃老が帰ってきた。
「おい! 〈イントロウクル世界線〉の世界はどこいった?」
「撃老よ、どうしたのだ息を切らして」
「どうなった!?」
「はぁ…………君はいつでも慌ただしいね」
「俺が慌ただしいかの議論は後でOHANASHIするとしてだ!! 炎たちが〈イントロウクル世界線〉に落ちちまった!!!!」
「……………………それは不味いね」
「撃老よ………言いにくいのだが………あの世界ならもう堕ちる」
「…………まじかよ…………」
「よもや、千花まで落ちたのではあるまいな?」
ビクンッと時雨が体を震わせる。
「…………シャレになってないじゃないカ」
アストライオスの言葉が沈黙に支配されたテラスに木霊した。
対〈イントロウクル世界線〉勝者〈アザークラウン世界線〉。
ただし、四名行方不明。
どうも、Pーです。
次はキャラクター紹介なのでどうでもいいよ〜!と言った方は飛ばしても支障はありません。
ただキャラクターデザインや設定を見たい方は楽しみにしていてくれたら嬉しいです。




