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ラストワン~刻印がもたらす神話~  作者: Pー
第一章【我らの守護者たち】
10/262

5. 停滞が進む時2

 


 ----------------------------------------------------------------------

 ……………………私は……どうすればいいの……?

 何をすればいいんだろう………………?

 時雨に……会わなくちゃっ………


 でも…………


 私気付いちゃったんだ…………

 自分の中にある黒い感情…………………………

 どんな顔をして時雨に合えばいいんだろう……


 ────なら私が代わってあげる────


 えっ…………! 誰!?

 やめて!! 私の身体を使って何をするつもり!?


 ──会うのが嫌なら消してしまえばいいじゃない──


 …………なにを…言ってるの…………?


 ──言葉の通りよ。私があなたに代わって全て消してあげるの。あなたがこれ以上悩まないようにね──


 ダメ!! 時雨に手を出さないで!! 時雨だけじゃない、神楽坂(かぐらざか)さんにも、アンフェアさんにも、誰にも酷いことしないで!!!!


 ──ふふっ。いい意志の力。その力を全部私にくれたら、こんなまわりくどい方法しなくていいのにな〜──


 ッ! それはどういう…………


 ──はい。もうお話はお終い! 私は行ってくるから千花(せんか)ちゃんはゆっくりしてていいからね〜──


 ちょっと! …………まち……な…………さい……!


 ----------------------------------------------------------------------




「……! 千花が起きたのですか!?」


「いや、少し待って…………巨人生成(ゴーレムスフィア)が壊された………………」


「……? 誰にだ?」


「…………千花とかいう少女に………………」


「…………嘘……………………!?」


 時雨は有り得るわけがないとそう思った。

 いや、思いたかった。


 それは人類の護り手(ラスト・ワン)の面々も同じだったのか


「ギール。貴様、場を和ませる冗談(ジョーク)だとか抜かすと潰すぞ?」


「オイオイ、そりゃァギール。お前(テメェ)ふざけてんのか? アァ?」


「こいつらの言う通りだぜ? どうしたんだ? ギール。ついに魔導書の読みすぎでぶっ壊れたか?」


 アンフェアを筆頭に(えん)彼方(かなた)がギールにことの審議を問う。


「…………事実さ。逆に君たちに聞きたいけどさ、ここはワタシが創り出した楽園(エデン)だよ。楽園(エデン)内で起きたことは全てワタシの元へと報告が来る。ましてや、緊急事態なら尚更ね。それに千花とかいう少女を連れていったのはワタシの巨人(ゴーレム)だよ? 破壊された時の記憶はワタシに帰ってくる。その時の記憶にはあの娘がワタシの巨人(ゴーレム)を壊した映像で途切れている。この意味がわかるよね?」


「………………どうやら事実のようだの……」


真実(マジ)かよォ……。んなことォが有り得るってのかよォ…………」


「千花!!!!!!!」


「あッ!! オイ!! (ガキ)!!」


 時雨が、いてもたってもいられないといった様子で外に駆けていった。


「時雨とやら。場所は第七階層だ。急ぐんだね」


 ギールが時雨に千花の居場所を教える。


「ギール。教えてよかったのか?」


 ジェラールがギールに質問をする。


「ワタシとしても面倒事は早めに片付けたかったからね………………はぁ、次から次へとふざけないでほしいよね! まったく!!」


「どうしたのだ? ギール?」


「………………奴らが世界ごと攻めてきた……」


 一拍。轟音が鳴り響いた。


「チッ! 〈イントロウクル世界線〉の連中かッ?」


「ギール、空中庭園(エンジェルガーデン)(オレ)の声を流せ」


「いいよ。…………繋げた」


「総員!! 聞くがいい!! これより〈イントロウクル世界線〉の対処及び、うるさい小娘への行動を命じる!!」


 人類の護り手(ラスト・ワン)の全員がアンフェアの発言を聞き取ろうと目を向けた。


 皆我が強くとも、〈アザークラウン世界線〉の守護者である自分たちの役目を理解しているからこそ、できる行動だった。


灰峰(はいみね)千石(せんごく)はうるさい小娘のいる第七階層に行き、秀才ぶっている小娘の援護をしろ! 獅子極(ししごく)九龍(くりゅう)をそちらに向かわせるまでは時間を稼げ! その後、五人でもって無力化!! 〈イントロウクル世界線〉本土へは、神楽坂、ワール、グレゴリーの三人で迎撃! 武虎(たけとら)死狩(しかり)の二名は〈イントロウクル世界線〉の偵察及び、要人の暗殺!! ジェラール、ギールは〈イントロウクル世界線〉そのものを堕とせ!! 以上をもって此度の戦争の勝利条件とする!!!! 何があったとしても生きて戻れ! …………作戦開始!!!!!!!!」


「承知!!!!」


「ハハッッッッ!! 滾るねェ!!」


「さて…………行くか………………」


 アンフェアの号令により、皆が己の任務を遂行しようと動き出した。

 〈アザークラウン世界線〉の実力が今分かる。






 _______________________








「灰峰さんと千石さん? と合流しなければならないのね」


 時雨も頭の中は混乱しつつも、アンフェアの号令を聞き自分のすべきことがわかったのだ。


「あなたが華彩(かさい)さんですか?」


「ッ!?」


 時雨は急に真横から聞こえた声に驚きを隠せなかった。


「おっと……。申し遅れました。小生(わたし)が千石です」


 千石と名乗った青年は、とても凛々しく可憐であった。


 しかし、彼の両目は閉じたままだ。


 その理由には彼なりの事情があるのだろうが、彼の纏う雰囲気からしてみると、とても異質に見える。


「……ッ! ごめんなさい! 一度紹介してくださったのに忘れていました!!」


「えぇ。まぁそうでしょう。いくら小生(わたし)たちでもあれだけの時間では、人を覚えることなどできませんよ。ねぇ、灰峰さん?」


 その隣には大ノ太刀(おおのだち)をもった凶がいた。


「無駄話はいい。あれだろう? 栖本千花とやらは」


「あっ! 千花!!」


 時雨が突然起きたという千花に声をかける。

 しかし帰ってきたのは言葉ではなく、黒い霧であった。


「──【消えなさい(ロスティリティ)】──」


「豪魔流灰ノ太刀【円斬の侵蝕(えんざんのしんしょく)】!」


 千花から放たれた黒い霧を凶が竜巻状の灰による斬撃を放ち相殺した。


 凶は豪魔流ごうまりゅうと呼ばれる剣術流派の当主である。

 そして、豪魔流剣術のトップと言われる技が【灰ノ太刀はいのたち】。

 大野太刀より、灰を生み出しその灰で攻撃に移る。


 この技術は第七代目の時に創り出されたと言われている。


 閑話休題


 その隙に、魎が時雨を抱き上げ千花たちの傍から離した。


 この間、時雨が行動を起こすことなど、できようはずがなかった。


「今のは…………なんだ?」


「千花…………どういうこと? この人たちは敵じゃない!! それに今の……どうやって【刻印魔法(こくいんまほう)】を使ったの? 答えてよ! 千花!!!!」


「【刻印魔法(こくいんまほう)】? …………何やら小生(わたし)が分からない話になってきたようですね」


「──時雨ちゃん……だよね? うん。彼女の記憶と同じ──」


「千花? あなた何を言っているの?」


「──ふふっ! やだ〜〜時雨ちゃんたら可愛い〜〜 もうあなたが知ってる千花ちゃんじゃないってことはわかってるくせに〜〜──」


「……………………!」


 千花が出すような声では無いおぞましい〈なにか〉に時雨は戸惑いを隠しきれない。


「…………あなたは何? 千花はどうしたの!?」


「──健気ねぇ〜〜。ほんっとに可愛いわ〜〜! 今すぐ食べちゃいそう! 【消えゆくあなたに(ハァグロリド)】──」


 話している途中だというのに、千花らしき〈なにか〉は黒い獣の(あぎと)をもって時雨を喰らい尽くそうと刻印魔法(こくいんまほう)を放った。


「豪魔流灰ノ太刀【俊の侵蝕(しゅんのしんしょく)】」


 千花らしき〈なにか〉が放った獣の(あぎと)を凶がまたも己の技で相殺する。


「――ん〜〜。君邪魔だね〜〜。なんで邪魔するのかな〜〜? 私は全てを消さなきゃダメなのにな〜〜【さらば消えゆく魂(ヌァグリャフォン)】――」


 〈なにか〉また刻印魔法(こくいんまほう)の詠唱をした。

 時雨が見たのは〈なにか〉と対峙していた凶と、時雨を守るために前にいた魎の眼前に黒い穴が現れたのを見た。


「豪魔流灰ノ太刀【共体の侵蝕きょうたいのしんしょく】」


「【溶解激毒(ようかいげきどく)】」


 だが、凶は黒い穴の干渉を受けず、魎に至っては【刻印魔法(こくいんまほう)】であるはずの、穴が溶けていった。


「――剣士の君は〜〜斬ったってことで納得はできるのよ〜〜。でもね……素手の君がなんで私のさらば消えゆく魂(ヌァグリャフォン)を溶かせたのかな〜〜? その手に毒でも塗ってるのかな〜〜?――」


「随分と鋭いようで…………」


 魎は元忍者。

 忍者は皆、特殊体質や己の才能を使い行動を起こす。

 ならば魎の力はなんなのか。


 それは毒に対する圧倒的優位。

 魎は毒素を受け付けない体質をもっていた。


 だからこそ、彼は蠱毒こどくと言われる儀式出できた毒を何十倍にも濃くした毒素に己の両手を浸し続けた。


 故に魎の両手は地上最強の毒手どくしゅとなった。


「――まぁいっか〜〜。君たちはわかってるでしょう? 私の攻撃にかすりでもしたら、危ないってこと〜〜――」


「…………あまり(オレ)の勘を舐めないでもらおう。」


「あなたとは修羅場を踏んだ回数が違うのですよ?」


「――んん〜〜。やっぱり邪魔だし、腹立つな〜〜君たち〜〜――」


「ならよォ、もうちっとばかし腹立つことしてやろうかァ?」


 声が聞こえた時には〈なにか〉の前に二本の曲刀(きょくとう)が飛来してきた。


無限狂宴流むげんきょうえんりゅう転連翔(てんれんしょう)】!!」


「――ふッ!――」


 飛来してくる曲刀を〈なにか〉は躱すが脇腹と右肩にかすってしまったようだ。


「援軍だ援軍! お前にとっては増援か?」


 炎と撃老の援軍が間に合った。


「………………あなたが誰かは知らない。だけど千花じゃないことは分かった!」


「――ふ〜〜ん。じゃあどするの〜〜?――」


 時雨はこの時目の前の〈なにか〉を千花に取り憑いてる味方という認識を、滅ぼすべき敵と認めた。


「……私にはあなたと戦う力はない。あったとしても千花だと思って、手を抜いてしまうかもしれない…………」


「――そうだね〜〜。君はそういう人間だよ。時雨ちゃんっ!!――」


 〈なにか〉が自分のことを見透かさしているようで、時雨は心底気味が悪かった。

 だが、事実なので時雨は否定ができない。


「………………だから、私はみんなを護ることしか出来ないッ!!!!!! 【守護の加護を平等にラ・セント・グロワ・ゼン】!!」


 時雨の刻印魔法(こくいんまほう)が発動した瞬間、凶たちを覆い隠す半透明な結界がはられた。


「………………これは!」


「なんだァ、こりゃ?」


「結界ですか…………?」


「いいな! これ!!」


「――あんまり〜〜、調子に乗らないことだね〜〜!【消えゆくあなたに(ハァグロリド)】!!……なッ!――」


 黒い顎が凶たちに襲いかかる。

 しかし、彼らに触れる前に霧散した。


「私の守護はあなたと正反対の力を持っているようですね」


「これならば、防御を気にしないで済む! 九龍! 時雨の護衛を頼む!」


「おう! 任された!!」


 凶が撃老を時雨に向かわせたのは明確な理由がある。

 時雨の加護は自分にはかかっていなかったのだ。


「獅子極、千石。(オレ)と共に奴を叩くぞ」


「ッシャ!! ぶっ潰してやるよ!!」


「先程は苦汁を飲まされましたからね……。行きますよ!」


「む〜〜! 私は奴じゃないし!! ん〜〜、私のことは裏千花って読んで欲しいかな〜〜?」


 〈なにか〉が自らを裏千花と名乗る。


「八ッ! 名前なんてどーでもいいんだよォ!! 無限狂宴流【屍乱舞(しかばねらんぶ)】!!」


「【汚染激毒(おせんげきどく)】」


「豪魔流灰ノ太刀【突撃の侵蝕(とつのしんしょく)】!」


「――んふふ〜〜! まとめて消してあげる〜〜!! 【消えゆく世界で私は(ロスト・クラウチュア)】――」


 炎が自分ごと回転し予測不能な曲刀の嵐で斬りかかり、魎が毒にまみれた己の手を武術にて昇華し、凶が灰の突きで裏千花に斬りかかった。


 それに対し裏千花は黒い泥のようなもので全てを飲み込もうとした。


 しかし、彼らの攻撃が相手に届くことはなかった。

 なぜなら、本来破られるはずのない空中庭園(エンジェルガーデン)の壁が先の攻防により崩れてしまったのだ。


「うっそだろォ!!」


「これは……まずいですね」


「堕ちるな………………」


「――私は諦めないからね〜〜! 時雨ちゃんっ!! 待っててね〜〜――」


 崩れたところから炎、凶、魎、裏千花が落ちていった。

 さらに運悪く現在『イントロウクル』が攻め入っている状況であるから、外には『イントロウクル』の本土があるのだ。


 彼らは〈イントロウクル世界線〉に落ちてしまった。


「おいっ!! こりゃヤバいぞ!! 時雨!! 【刻印魔法(こくいんまほう)】はまだ持続してるか?」


「いえ…………。遠すぎてかかりません…………」


「…………クソッ!」


 時雨は信じている。親友(千花)が無事でいることを。




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