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三話 準備

 異世界の常識に浸食された首都圏は、RPGに出てくる『モンスター』が跳梁する世界になってしまった。

 そんなクソッタレの世界を生き残る方法は、八百万の神が作り上げたアプリ――神使を有効活用する。それがベストな選択だと俺は思った。


「とはいえ、これからどうすればいいんだ? 家に引きこもる? それも自衛隊が解決するまでひっそりと」

『それはお勧めできません。何故なら自衛隊がこの騒動を二、三日で解決できると思いますか?』


 無理だな。

 自衛隊の実力を疑うわけではないが、数日で解決するのはどう考えても不可能である。一月、二月……あるいは年単位が必要かもしれない。


『解決するまでの時間より、補給の方が問題だと私は思います。結界によって外部との交信はもちろんですが、物資の運搬が絶望的です』


 そうだった……。

 首都圏が完全に孤立した以上。首都圏内の物資でやりくりするしかないのだ。

 自衛隊が異界浸食(異世界の常識が浸食された現象)によって出現したモンスターを退治するのに、銃弾や爆薬が必要である。


 また人間は飯を食わなければ二週間で死んでしまう。水を飲まなければ三日も持たない。

 そんな物資が首都圏外から入手不可であるのなら、異界浸食を解決するのは長期化は避けられないのである。それ以前に解決可能かどうかは別とするけど……。


『そこで提案があります。マスターの生存率を高めるために敢えて外に出ては如何でしょうか?』

「俺に死ね、と言うのかお前は」


 外にはモンスターがいるんだぞ!

 緑の餓鬼――ゴブリンはRPGにとって雑魚モンスターと有名だが、そのテンプレ通りだという保証はないんだけどッ!


『準備は万全にするつもりです。マスターに死なれては困りますので』

「具体的には?」

『まずは職業を決めては如何ですか?』

「ステータスの事か?」

『そうです。神使と契約した人間は職業を得る事が出来ます』


 いつ契約したんだ――と言いたいんだけど、特にどうでもいいので契約云々はスルーすることにした。


「職業を得る事に対するメリットはあるのか? デメリットは?」

『メリットはあります。職業スキルを覚えます。また職業レベルを上げると更なる恩恵が手に入ります。デメリットは職業を変更する事が出来ません』


 ふむ……それで、俺はどんな職業になれるんだ?

 RPGと言えば『勇者』が断トツで一番人気だし、魔法のエキスパートである『賢者』も同様である。

 あと変わり種の職業なら剣を扱わせたら右に並ぶ者なしの『ソードマスター』とかないかな? それか闇の中を颯爽と駆け抜ける『忍者』も捨てがたい……。

 いや、もしかしたら俺だけの特別な職業――チートがあって、異界浸食を解決する主人公ヒーローになれるかも!


『寝言は寝てから言ってください』

「うるせぇな! 夢ぐらい見させろ!」


 口に出してないからセーフだろ! 

 俺の思念を読めるからって、いちいち突っ込むんじゃねぇよ! 


『ちなみにマスターの荒唐無稽な夢想は、残念ながら叶いそうもありません』


 荒唐無稽な夢想で悪かったな!


「どんな職業なら大丈夫なんだ?」

『マスターがなれる職業は三つだけです』


「三つだけかよ……それでどんな職業なんだ?」とスマホに声を掛けると職業について詳しい内容が表示された。


『自宅警備員』

 全員が習得可能の職業です。

 自宅内部にいる限り基本ステータスが10倍になり、状態異常は無効になります。

 職業スキル

 急速回復、自家発電、家守やもり(自宅警備員限定)


 ねーよ……!

 そんなネタみたいな職業を選ぶ奴は絶対いねーよ!!

 あとスキルの内容がしょぼすぎるので、パスだ。


『学生』

 魔法攻撃を主体とした職業です。

 学生服を装備すると全てのステータスが10ポイント加算される。

 職業スキル

 獲得経験値増加、魔法攻撃(火)、学生の心(学生限定)


 う~ん……。悪くない……と思うんだけどなぁ……。特に魔法を覚えるし、獲得経験値増加もかなりうれしい。

 けどインパクトに欠けるから、保留にしておこう。


『シーフ』

 戦闘系のスキルより便利なスキルを覚える職業です。

 キラキラ光るモンスター(シーフ以外は見えない)からの『盗み』は確実に成功する。

 職業スキル

 盗む、鍵開け、品定め(シーフ限定)


 こ、これは……!

 勇者や賢者と言ったメジャー級の職業ではないが、ダンジョン攻略にとって欠かせない職業だ――って、ダンジョンあるのかな?

 もしあるのなら『シーフ』はアリだと思う。

 それと『盗む』でアイテムを手に入れる機会が増えれば、生き残りやすくなるだろう。もっともアイテムが役に立つのかは知らないけど。


「シーフだ! シーフにする!」

『了解しました…………確認してください』


『メイン』

 名前 黒崎颯人

 Lv 1

 性別 男

 年齢 17

 職業 シーフ Lv1←NEW

 装備 武器 無し

    防具 寝間着(物理防御力 1)

    特殊 無し

 状態異常 無し

 GP 100


 おお、職業の欄がシーフになってるぞ! あとは『特技』と『特殊』についてなんだけど――


『特技』

 盗み Lv1←NEW、鍵開け Lv1←NEW


『特殊』

 火事場の馬鹿力 Lv1、品定め(シーフ限定)←NEW


 特技、特殊ゲットだぜ――と心の中でガッツポーズしたら『クエストをクリアしました。報酬を受け取りますか?』とメッセージが表示された。


「ああ、そうしてくれ……ってか報酬ってなんだっけ――うぉ!?」


 報酬の内容について質問した瞬間。俺のスマホがフワフワと宙を舞い踊った。


「ポルターガイストみたいだな――痛ッ!」


 宙に舞っていたスマホが俺の頭にぶつかった。そのスマホの画面には『失敬な!』と表示されている。


「報酬の内容って俺の頭を殴る事か?」

『違います。機能解放による自立行動です。これによってマスターへのサポートの質が向上するでしょう』


 スマホが勝手に飛び回る……迷惑でしかないと思うけど……。


『私はマスターをサポートする神使です。なのでマスターの傍を離れる事は絶対にありえません』


 呪われた装備品みたいだな、お前は! 俺の頭に某国民的RPGに出てくるあの効果音が聞こえたぞ! セーブデータが消えた時に聞こえるあの効果音ッ!!


『幻聴です。それより先に進めませんか?』

「……他に何かあったっけ?」

『ガチャがあります。それも一日一回は無料で回せるので、忘れないうちに回すことをお勧めします』


 これホントに八百万の神が作ったの……? 

 ソシャゲのガチャシステムを組み込むなんて神様が作った割には俗すぎるんだけど。


『回しますか? 止めますか?』

「一応聞くけど、課金もあったりするの?」

『ありません。八百万の神は賄賂に屈しませんので』


 課金は賄賂か、面白い表現だ……。

 異界浸食でモンスターが現れた世界を、金の力で解決させまい。そんな八百万の神の思惑が透けて見えるな。あるいは公平と公正を重んじた結果かもしれないが。


「そんじゃ一回だけ――いや、確かガチャポイントが100あったな。一回100ポイントか?」

『そうです』

「なら二回やっとく」


 スマホに『かしこまりました』とメッセージが表示されると、デパートでよく見かけるガチャガチャが映し出される。


『おめでとうございます。八塩折之酒が当たりました』


 八塩折之酒ってアルコールだよな……? もしそうなら未成年である俺にとっては不用品扱いなんだけど……。

 でも八百万の神が運営するガチャからの景品なら、なにか特殊な効果があるかもしれない。

 そんな事を考えていたら、スマホの画面から光の粒子が吹き出てくる。


「おお、こうやって出てくるのか……ってデカッ!? それと重ッ!!」


 両手で八塩折之酒――二升五合の酒瓶を受け止める俺。そのすぐ近くに浮いているスマホから『クエストをクリアしました。報酬を受け取りますか?』とメッセージが出ていた。

 うげっ……なにか嫌な予感がするんだけど……! 報酬ってなんだっけ?


『機能解放(念話)です』


 要らねぇ……!

 マジで要らない!

 四六時中スマホのメッセージを脳内で聞き続けるのは勘弁してくれ!


『神使とマスターを繋ぐ絆を否定するのですか?』と感情のない声が俺の頭を揺さぶった。


「――って、俺は報酬を受け取ると言ってないぞ!」

『受け取った方がマスターの益になると判断しました』

「どんな益だよ……!」

『モンスターと交戦中など脇見が許されない状況。念話で会話ができると便利だと思いませんか?』


 …………便利だな。


『誰かに聞かれたくない内容を話す時。念話で会話すれば内容が漏れる事はありません。防諜に役立つと思いませんか?』


 ………………一理ある。


『念話に対するメリットが理解できましたか?』


 チッ……わーたよ。けどあんまり念話をやりすぎるなよ! 俺だって静かな一時を過ごしたいんだからな!


『善処いたします。それと話が変わるのですが、八塩折之酒について説明しますか?』


 断る理由はないので、神使に『頼む』と思念を伝える。


『八塩折之酒はアルコール濃度100%のマジックアイテムです。対象に飲ませると『酩酊』状態になります』


 ふむ……割と使えるアイテムかもしれん。

 路上に八塩折之酒を注いだコップを置き、そこにゴブリンがやってくる。

 そしてそのゴブリンがコップの中身を飲む――いけるかも。


『あと一回できますが、どうしますか?』

「やってくれ」


 再びデパートでよく見かけるガチャガチャが映し出された。


『おめでとうございます。お守りが当たりました』


 そう表示されると同時に、お守りが目の前に現れた。そのお守りは神社でよく見かける形をしている。

 装備品かな……? それもアクセサリーの類? とりあえず説明よろしく!


『お守りは消費アイテムです。使用すると30分の間だけモンスターを遠ざけます』


 便利すぎるだろ……! Lv1の俺にとって是が非でも手に入れたいアイテムランキング、堂々の1位であるッ!


「これ、どうやって使うんだ?」

『お守りに向けて思念を飛ばせば可能です。一度きりなので注意してください。またお守りの効果が切れると消滅します』


 そうか、なら大事に使わないとな。うっかり発動して貴重なアイテムを消費させるのは不味い。


「さてと……職業を決め、貴重なアイテムを手に入れた。なら外に出るかな?」

『警告! マスターの装備品は貧弱です』


 俺の装備品だと……あ、寝間着のままだった……。

 けどどんな装備品にすればいいんだ?

 武器は包丁とか、金槌で大丈夫だろ。

 防具は厚着でもすればいいのだろうか?


『色々試してみてはどうでしょうか? ステータスで装備品の優劣を確認できますが』

「それだ……!」


 神使の提案に強く同意した俺は、二階にある自室に向かったのである。

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