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第7話 昼休み(お弁当)

 昼休みまでの間、私はずっと考えていた。

 もしかしたら、私も公式ヨイネがもらえるんじゃないか――と。

 だって、カメラは私が装着してるんだもん。旨味が何も無いなんて、そんなのおかしいじゃん。

 いやダメだ。唯一の生存者の私がクレクレゾンビになってどうする。こんなんじゃクラスを救えない。

 でも……でも……ほら、今はお昼休みだし。

 ちょっとは休まないと、五時間目からクラスを救えないじゃん。

 

 逡巡の末に思いついたのが、弁当の食レポ。

 おかずを美味しそうに食べればいいのだ。食べたくなるような解説を付けて。これは決してクレクレゾンビじゃない。だってゾンビは弁当なんて食べないもの。

(いつもはママの手抜き弁当を恨んでいたけど、こんな時に役に立つとはね)

 今日もおかずは冷凍食品のオンパレードに違いない。

 だから私は、昼休みになるのを楽しみに待っていた。


 昼休みになると、未希と向かい合わせになるよう机をくっつけて弁当を広げる。

 視聴者は七人に減ってしまっているけど気にしない。その方が気楽にレポートできるというもの。

「おおっ、今日のグリーンピースはニレイチね。これが美味いんだわ!」

 そう言いながら私は、グリーンピースを箸でつまんでカメラの前にかざす。そして美味しそうに口の中に放り込んだ。

「うん、美味い! やっぱりグリーンピースはニレイチだわ」

(来い! ピコピコ!)

 しかし、公式ヨイネは付かない。

(大丈夫。まだ十粒以上あるから)

 私は微妙に言葉やリアクションを変えながら、必死にグリーンピースの宣伝を繰り返した。

 が、ピコピコと音が鳴る気配は一向にない。

 その様子を見ていた未希が一言つぶやく。

「必死ね」

 しょうがないじゃない。私だってヨイネが欲しいんだから。

「素材がいけないんじゃない? だってグリーンピースってどのメーカーも似たようなもんでしょ。メーカーごとの違いをアピールしないとダメなんだと思うよ」

 わかってます。

 わかってるけど初めてなんだからしょうがないんだよ。

 すると未希は、我がお弁当のメインであるミニハンバーグに目を向ける。

「ほら、これでやってみたら?」

(ええっ、いきなりハンバーグの食レポですか?)

 新米冒険者なのにボスキャラに挑めという無茶なアドバイスに体が固まる。

 私は緊張のあまり、ゴクリとつばを飲み込んだ。


 ついに意を決した私は、箸でハンバーグを挟み力を込めて二つに割る。

「これはアノジモト食品ね。箸の柔らかい感触といい、食べやすいように配慮されている」

 そしてハンバーグの断面を観察した。

「箸で切るとちゃんと玉ねぎが見える。これは美味しそう!」

 ハンバーグを箸で摘み、カメラの前にかざして口に入れる。

「おおっ、冷めても美味い。さすがはアノジモト、ハンバーグナンバーワン!」

(どうだ! 来い、ピコピコ!)

 しかし、メガネは何も反応しなかった。

(なんで? なんでダメなの? こんなに頑張ってるのに!)

 へこんだ私は、涙目で未希のことを見る。未希も私の表情で状況を察したようだ。

「なぜダメだったか教えてあげようか?」

 まるで上級者の眼差しで。クレクレゾンビのくせに。

 そんなのわかるわよ。

 だって私は撮影者だから顔出しできないもの。

 もし立場が逆で、未希がカメラを装着していて、私がその前でハンバーグを満面の笑顔で食べていたらとっくに公式ヨイネが付いているはず。

 それとも、棒読みっぽいセリフがいけなかったのかな?

 飲み込むのを待ってセリフを言ったから、ベストなタイミングを逸したとか?

 しかし未希の答えは予想外だった。


「だってこのハンバーグ、アノジモトじゃないもん」


「へっ!?」

 うそ?

 だってママはいつもアノジモトのハンバーグを買ってたはず。

 すると未希は、私のお弁当のハンバーグに箸を当てて観察し始めた。

「断面の玉ねぎの形状から判断すると、これニレイチじゃない?」

 まさか、そんなこと!

 そして未希はパクリと残りのハンバーグを口に放り込んだ。

「うん、これやっぱりニレイチだよ。この玉ねぎの甘みはニレイチにしか出せないんだよね。やっぱ美味いなぁ。これこそミニハンバーグ売り上げナンバーワンのニレイチだよ!」

 満面の笑みで。

 それはそれは本当に美味しそうな表情で。

 と同時にピコピコと音がする。


 ――ヨイネ(ニレイチフーズ)

 

 もう許さん!

 私のハンバーグ半分返せ!

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