第1話 プロローグ
突然、スマホが鳴った。
夜の十時。
表示を見ると、意外な名前が表示されている。
――葉山若葉
我がクラス、一年七組の学級委員長である。
高校に入学してから一ヶ月半。女子同士とはいえ、彼女と仲がよいわけでもないし、同じグループに所属しているわけでもない。部活も一緒じゃないし、たまに遊ぶということもない。彼女が委員長でなければ電話番号すら登録していなかったと思われる程度の関係。
入学式直後の委員長の印象は「ちょっと恐い」って感じ。だって、なんだか人を寄せ付けないオーラをまとっているんだもん。まあ、その印象はだんだんと薄れていったけど。
なーんて、説明はまどろっこしい。
高校生活に疲れ、授業中は毎日寝ている問題児。それが私。
つまり『学級委員長なんてよく知らない』。そのひとことに限る。
このまま寝たふりをしていてもいいのだけれど、明日文句を言われるのも嫌なのでとりあえず出てみる。
「もしもし?」
『美作さん?』
聞こえてくるのはガラガラ声。なんかすっごく痛々しい。
「どうしたの? その声」
とりあえず訊いてみる。元の声なんてよく知らないけど。
『風邪引いちゃって……』
ゴホゴホと辛そう。
『申し訳ないんだけど、一つ大事なお願いがあるの』
むむむむ、なんか嫌な予感。お願いだから面倒くさいことは勘弁して。
『熱もあって、明日はとても学校に行けそうにない。だから明日一日、学級委員長の代理をお願いしたいの』
「…………」
予感的中。私はすぐに返事ができなかった。
というか、なんで? 私?
毎日寝ている私が学級委員長代理!?
『明日一日、一日だけでいいから……』
不思議に思った私は訊いてみる。
「なんで、私……なの?」
すると委員長は答える。
『だって美作さん、いつも寝てるじゃない』
へぇ、授業中の睡眠って結構ポイント高かったんだ。
じゃない、そんなんで代理が務まっちゃうものなの?
『ご、誤解しないでね。変な意味じゃないのよ。ほら、学級委員長になるとお務めがあるでしょ?』
お務め?
なんじゃそれ?
『学校にいる時の私って、いつも変な形の眼鏡を掛けてるじゃない。ハ◯キルーペみたいな。あれよ』
うーん、そう言われればいつもそんな格好しているような気もする。
あれは委員長の超個性的なファッションだと思っていたけど、違ってたんだ……。
『最近ね、あれを悪用しようとする生徒が増えちゃってね。試しに明日一日やってもらえれば分かると思うけど。だから、お務めに対してフラットな気持ちで接してくれる人を探しているの。それには美作さんが適任なの』
ふーん、フラットな気持ちねぇ……。
そもそもお務めなんて全く興味がないから、気持ちもなにも真っさらなんだけど。
『もう本当に美作さんしかいないの。他のクラスメートは全然ダメなの』
褒められているんだか、そうじゃないのかよくわかんない。
でもそこまで言われちゃうと断りにくいじゃない。
なんか、シェルターで昼寝してたら外の人がみんなゾンビになっちゃって――みたいなシチュエーションなのかな?
もしそうなら私が立ち上がるしかないわね。クラスの危機を救うために。
「わかった。明日一日だけだからね」
『うん、ありがとう。これから担任の先生に連絡するから、明日はよろしくね』
「それじゃ、お大事に」
こうして私、美作美鈴は学級委員長代理を引き受け、それはそれは大変なお務めに身を投じることとなった。