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雪の花

作者: ピコ太郎

ほんの少しの違和感が僕の意識を現実に引き上げる。

窓から差し込む光は薄暗い。

起きるには早い時間。



別に何か予定があるわけでもなし。

寝返りがてら布団を頭までひきあげ二度寝と洒落こむつもりが、ぼすんっと重みのある音が再び僕の意識に声をかけてくる。

畳み掛けるようにすっと冷たい空気が

布団の隙間から滑り込んだ。



「寒っ」



枕元から目線を送ると少し開いた障子。



寝る前に閉めたはずだから犯人は太郎さんに間違いないだろう。



あのキジトラの猫は最近引き戸を開ける技を身に付けた。



普段は飯時にしか起きないグータラ猫だけれども、ふとこうして散歩に出かけることもある。

一度出かけるとなかなか帰ってこない。

犬は人に猫は家につくと聞くが、太郎さん、

ここは君の家ではないのかい?



そんなことを思っている間にも部屋の温度はみるみる冷え込んでいるので、

ここは僭越ながらこの家の家主である

この片柳剣蜂が障子を閉めさせていただきますよ太郎さん。



そんなくだらない繰り言を脳内で流しながら

もそもそと布団から立ち上がると障子を閉めに向かった。



白い。



障子の隙間から見えたうちの小さな庭は真っ白に染まっていた。



昨日やっと花を咲かせた向日葵はずっしり雪を頭に乗せてのけ反っている。



「ちょっ折れる折れる!」



あわてて障子を開き縁側に揃えた下駄を履こうとするがすっかり雪に埋もれてしまっている。

普段は地面から縁側から地面まで一勺半くらいはあるのだけど今は二寸下くらいまで真っ白に埋め尽くされていた。



「あぁ…こんなことなら昨日大根抜いとくべきだった…」



そんなことより向日葵である。

向日葵の種を植えたなんて小学生以来で不思議とワクワクしていたのだ。

簡単には諦められない。

食べても美味しいしね。



何か妙案はと部屋に戻ると部屋の隅にぶら下がった箒が目に入る。

チンパンジーでも棒があれば、ぶら下げられたバナナが取れるのだ。

人が箒を握ればそれはもうグングニルを握りしめたオーディンと変わるまい。

僕は箒を手に取ると高々と天井に突き上げたのだった。





くしゅん。



寒いです。

いくら北欧の主神でも浴衣一枚じゃ風邪をひくって。



僕は箒を畳に放りだすと押し入れに向かった。

上段から木製の茶箱を引っ張り出し蓋を開ける。

樟脳の香りがふわりと流れ出す。

たしか一番下にあったはず。

目当ては綿が詰まったドテラ。

これさえあれば鬼に金棒、オーディンにスレイプニル。



ぎゅうぎゅうに押し込んであったから

着心地は今一つだけれど、これでやっと戦える!



そのまま畳に転がった箒を手に取ると縁側に向かってかけだし向日葵に向けて箒を投げつけた。



あっ…



グングニルとか考えてたのが良くなかったです。

反省してます。

本当です。



しかも外しました。



グングニルをかわすかよ。



かわしてません。



二間ほど離れた桜の枝に直撃しました。



太郎さんが見ていたら大欠伸をかまされていたところです。



しかしっ!



その時奇跡が起きました。

桜の幹に当たった衝撃で青々とした葉桜に蓄えられていた雪が落ちてきて向日葵に直撃!



向日葵の頭に重石となっていた雪を叩き落としたのです!



「よっしゃ!」



計算通り!

全能なるオーディンに不可能はないのだ!



なおも落ちてくる雪。



いや、もういいんやで…



向日葵の頭に乗っていた雪は無くなりましたが

今度は向日葵自体が埋もれて見えなくなってしまったとさ。



そのあとつなぎに長靴姿の僕が朝飯も食べず

スコップ(命名ニョルニル)片手に向日葵救出がてらの雪かきに追われたのは言うまでもない。







ちなみに珍しくいつの間にか戻ってきた太郎さんが縁側から雪かきにする僕をおかずに

何処かで手に入れた煮干しを欠伸しながら噛っていたのは屈辱の記憶である。


ネタ出し的に書いたものをぽつぽつ載せてみようかと。

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