スタイリッシュ妖怪もふもふ
俺の名は、もふもふ。
今は訳あって人間の家に居候しているが、実は未来の異世界からやってきたネコ型妖怪だ。
俺の居候先には杉太という小学生の男の子がいるのだが、いまコイツはサッカーに夢中で、将来の夢はJリーガーになることらしい。
俺はある時、杉太にこう言ってやった。
「よし・・・それなら俺が、未来の妖怪道具で杉太の夢を叶えてやろう」
そして俺は自分のもふもふポケットから一本のドリンク剤を取り出した。
「素敵なドーピング薬~っ」
「あの・・・もふもふ? ・・・それは使っちゃいけない道具じゃないのかな?」
と、杉太は心配そうな顔をしたが、俺はクール&スタイリッシュな妖怪なので逮捕されるようなヘマはしないのだった。
「心配するな・・・これは現代科学では検出されない薬なのだ」
「・・・・・・」
「それに杉太よ、日本にサッカーをやってる奴が何人いて、その中からプロになれるのが何人いるかわかってるのか? そもそも世の中は弱肉強食なんだぜ?」
「いや、でも・・・ドーピングはまずいでしょ」
「まあ聞け・・・この薬はあくまで夢を叶える手助けをする薬であって、本物のドーピングとは少し違う。自分がイメージした夢に向かって脳をよりよく働かせるための薬でな・・・例えるならダイエットを途中で投げ出さないための暗示・・・そういう類のものと思えばいい」
「やる気とか根性とか・・・そういうのを伸ばす薬ってこと?」
「そんな感じだな」
「・・・・・・」
俺の説明を聞いた杉太はそのまましばらく考え込んだ。
別に俺だって杉太のことを騙すつもりはないし、本当に杉太の夢を応援している。この薬は飲んだ人間の願いが強いほど効果も高くなるという、本物の妖怪道具なので体に害もない。
しばらく考えてから杉太が言った。
「ごめん・・・やっぱり僕は遠慮しとくよ」
「なに?」
「もふもふの気持ちは嬉しいけど・・・なんていうのか・・・やっぱり何かが違うような気がする」
「・・・・・・」
杉太が自分の意志でそう決めたのなら、俺にはそれ以上何も言うことはできななかった。
ま、世の中にはRPGの高価なアイテムを嫌う人聞もいるし、わざわざ厳しい冬山登山に挑戦する人聞もいる。
つまりはそういうことなのだろう。
★
それから十年後、大学生になった杉太がサッカー部のレギュラーとなり、それで出場した全国大会で準優勝することになるのだが・・・う~ん・・・俺は色々な意味で複雑な気持ちになるのであった・・・。