異世界転移は殺人でした!?
殺されたと思ったら殺していた。
どういうことなのか、これだけではよく分からないと思う。
俺も実のところよく分かっていない。
ただ、平凡な毎日を送っていただけの俺。
飽きもせずむしろ飽きるという感覚も忘れて学校に通い、授業を聞き、帰る。
ただそれだけの生活。
しかしその生活は一瞬にして奪われた。
通り魔。
行き場のない感情を、具体的な行動でぶつける人。
俺は近くにいた老婆をかばおうとして、自分の胸に深々とナイフが突き刺さり。
薄れゆく意識の中で、ああ、俺の人生はこんなものなのかと自嘲し。
来世があったらなんとか頑張ろうと、そんなことを思いながら暗転した。
※※※※※※※※
そして現在。
目が覚めたら、俺は異世界に転移していた。
どうやらこの国を統べる王の子供として生きていたらしい。
現実の俺とは似ても似つかぬ容姿に、その顔。
最初はびびったのは言うまでもない。
だが、優しい母に寛大な父。
きれいな姉に囲まれて。
そして絶対能力、『即死』を持っていた俺は、司令官として自ら軍を率いて、戦争にあけくれているこの世界を治めようとしていた。
戦いに次ぐ戦い。
『即死』を持った俺は、相手の死を願うだけで人を殺せた。
何人の屍を築いてきたことだろう。
王子としての、これも悲しいサガか。
そんな風に思っていたところ。
油断もあったのだろう。
自軍は敵軍に囲まれ、陣営は陥落。
俺は『即死』を使いながら戦うも、一日に使える回数には制限がある。
猛攻に耐え切れず、ついにとらえられてしまった。
「すまん。母上、父上」
王子として、その場では殺されず、相手国の宮殿へと移送された俺。
乱暴な扱いは受けず、牢といってもホテルの一室のような場所へと通された。
だが、自由はなく、監視の日々。
相手国の王は慎重な人物で、俺という駒をどう扱ったものか、思案していることが見て取れた。
何日経っただろうか、知れないで過ごしていたところ。
突然、牢が破られた。
てっきり新たな敵襲かと思い身構えた俺に、その仮面をつけた客人は言う。
『お前を逮捕しにきた』
そしてすっとこちらを指さした。
逮捕?
その言葉に違和感を覚えたものの、とにかくいつまでも相手の思うようになっている俺ではない。
さっそく、『即死』を使うことにした。
眼光するどく相手を射る。
これで相手はすぐに倒れる。
そのはずだった。
……なぜだ?
「なぜ倒れない?」
俺の驚愕に、仮面をかぶった男は冷静に
『お前のチート能力は私には通用しない』
そして再び告げる。
『殺人の罪で、貴様を逮捕する』
「殺人?確かに俺はこの戦争でたくさんの人を殺めてきた」
だが、それは国のため。
ひいては、平和のためだ。
そう訴えようとしたところで
『その姿での殺人を言っているのではない』
仮面の男は冷静に言う。
『〇〇よ』
そして男が告げたのは、この異世界での名前でない。
俺の、現実世界での本当の名前だった。
「な、なぜその名を……」
『私は、お前たちから見た、異世界を管轄する行政官だ』
仮面は動じる様子もなく続けて
『お前の殺人は異世界の秩序を乱すものだ。だから貴様を逮捕しに来た』
「殺人?殺人なんて、俺は……」
『その体は誰のものだ?』
声は怒りを帯びたように
『その体は誰のものだった?お前が、この世界に『転移』してきた時点で、お前のその体を支配していた人格はどこにいったのだ?』
仮面は腕をすっと前につきだした。
それだけで突風が吹き、俺の体はくずれおちる。
「なっ……」
『いいか。お前たち『異世界転移』者は、この世界に居ながらにして『殺人者』なのだ』
そして、俺の体は拘留された。
※※※※※※※※
空間をいくつも越え、やがてたどり着いた牢獄。
そこには、俺と同じ、『転移者』たちが幾人もいて……
異世界管轄者と俺たちの戦いが、今、始まる。