6.
西の魔女が急に何かに憑りつかれたような声を出す。西の魔女は鬼のような形相になり、話し始めた。
「悪の大魔王は、今夜降り立つであろう。言う迄もなく、彼はこの世界の支配者である。今宵、楽しみに待つがよい。世界はふたたび、我の手の中に戻ってくるであろう」
西の魔女の表情が一気にもとに戻る。顔が和らぐが、本人はあっけらかんとして、先ほどまでと同じ口調に戻ると「さあ、出発しましょう」と言った。
太一も訳を聞かずに、車を発進させた。悪の大魔王とは、一体何なのだろうか?頭を掠めるが、どうせ答えは出てこない。それなら、いっそ楽しむだけこの世界を楽しんでやろうじゃないかと思った。
太一は、ハンドルを握りなおし、アクセルを踏み込む。道をどんどん進んでいく。ビーチラインから今度は山間に車は入っていく。フロントガラスの向こう側には、濃い緑の山々が広がっている。さらに進むと、地中から湯けむりが棚引くように上っているのが見える。どこかで見た光景だ。懐かしい気持ちが湧いてくるが、一体それが何なのか思い出せない。
気が付くと、周囲には、車がない。太一の車以外に走っていないようだ。湯けむりの中を疾駆していく。だんだんと当たりが白い靄がかかってくる。視界が悪い。
「何でしょうね」
西の魔女は「これは霧だわ」と答える。
山間部ということもあり、霧が視界を遮っているようだ。段々、数メートル先も見えないほど霧が濃度を増していく。
「危ないな……」
太一はスピードを下げる。
「何だが変な感じがするわ」
「確かにそうですね」
このまま、黄泉の国に続くような気さえしてくる。太一はかぶりをふる。よく考えたら、すでに黄泉の国のようなものである。