24.
外に抜け出ると、なぜか周囲は、鬱蒼と生い茂る森林におおわれている。草木に分け入って中に歩を進める。なだらかな高原と平野が広がる。広大な場所だが、灰色の岩石が散らばっている。緩やかな斜面だと気づいた。ムネノネムの言葉を思い出す。山を登ると言っていた。人が歩いた形跡のある小道があり、とりあえず、そこから登ることにした。
「なぜ、山を登る?そこに山があるからか?」
誰もいない場所で一人つぶやく。
少しずつ、斜面が急になっている。
山登りは嫌いではなかった。太一は、富士山が好きだ。関東周辺であれば、どこからでも見ようと思えば見ることが可能だ。東西南北どこからでも。東は銚子から、西は和歌山県、南は八丈島、北は福島県になるらしい。
今度はどんな変な奴が現れるのだろうか?期待半分、不安半分だ。
小道から少しルートを外れたいと思う気持ちが湧いてきた。単純に飽きてきたのだ。小さな谷間の中に入り込む。ごつごつした岩肌だらけで荒れ果てている。舗装されていないので、注意深く足に力を込める。
岩陰に何かの気配を感じる。小高い丘のようになった岩山に誰が立っていた。目を凝らして見ると、人の顔だと認識できた。太一は、「おーい」と叫んだ。顔は人間なのだが、身体は動物のようだ。今度はキマイラかと思った。キマイラとは、キメラともいうが、神話に出てくる。漫画や小説なんかでもよく、人間と動物のハイブリットは登場する。顔は人間で身体は……ウサギかな……。
太一はさらに近づく。
「もしかして、早苗リデルさん?」
太一は、声をかけた。
「よくおわかりに。はい」
「もう予想がつくさ」
「さすがですね。太一さん。はい」
「ここは一体どこなの?」
「山でございます、はい」
「そりゃ、わかるよ」
「富士山でございます、はい」
「私目についてきていたければ、はい」
早苗リドルが言った。
「長い耳ではないの?」
「耳は普通ですが、よく聞こえますよ。遠くの方まで聞こえます。はい」
「その語尾の『はい』やめてもらっていいですかね」
「すみませんでございます、はい」
太一は、あきらめて「富士山なら登れるんだけどなあ」と言った。
「やつが追ってきてますので、はい」
「やつとは?マグマンです、はい」
「マグマンとは……」と早苗リドルが言いかけたところで、太一は遮る。
「わかった、わかった、もういいよ、ついてく、ついてく」
太一は早苗リドルに遅れぬように後を追った。岩山を抜けると、段々と森林地帯が広がってくる。太一は気にせずに、ついていったが、少しずつ嫌な予感がした。
「道あってます?」
早苗リドルは、太一の声が聞こえていないのか、飛び跳ねながら、先に進む。
木々が増えていく。予想はたぶん的中している。
早苗リドルが立ち往生しているので言ってやった。
「迷ったんでしょ?ここどうみたって樹海じゃないですか」
「いえいえ、到着しました、はい」
早苗リドルが大きな樹木の前で立ち止まり、自信満々に言った。
「どうぞ中へ」
「はい」はどうした、と心の中で叫ぶ、「はい」を待ってる自分がいて思わず歯噛みする。
大木の扉が開く。




