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12.

夜の大学は深閑としている。七時限目が終わった直後は、教場から多くの学生が流れ出てくる。ただ、昼間と違って、学生は大学に留まらず一直線に駅を目指す。そのため、午後九時過ぎになると、大学構内に人気はない。

太一は、サークルの部室に寄った。部室には、先輩の白井さんしかいなかった。パソコンに向かって何か作業をしている。

「お疲れ様です」

 白井さんは手を止めて「お疲れ」と太一に言った。

「太一くん、ちょっと疲れてない?」

 白井さんが心配そうな表情で訊いてくる。

「最近、あまり眠れなくて」

「試験勉強?」

「色々と将来のことを考えていたら……」

「考えていたら?」

「すみません、レポートか何か作ってますよね?俺、すぐ帰りますから」

「いいのよ。それにちょうど行き詰ってたところなのよ」

 白井さんは座っている椅子を反転させ、こちらに向き直り、立ち上がった。

「コーヒーでも飲む?カフェインでますます眠れなくなっちゃうかな?」

 太一は苦笑する。

「そうですね。昼も飲んだし遠慮しておきます。でも、お気づかいありがとうございます」

「お茶淹れるね。少し待って」

 お茶にもカフェインは入っているんじゃないだろうか、という言葉は飲み込んでおいた。

「寝不足なの?」と言われた。

 太一は「そうなんです」と首肯した。

「顔色良くないもんね。風邪も流行ってるから気を付けないとね。睡眠は大事だよ」

「何か悩みでもあるのかな?」

白井さんはカウンセラーを目指していただけあって、優しく語りかけてくる。

 卒業したあと、白井さんとも疎遠になっていた。今はどうしているのだろうかと、もう一人の俯瞰している太一は思った。

「移動する?ご飯でも行こうか?」


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