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年下彼氏 永原さとみ編

作者: さくら おさむ

短編小説と言っておきながら、全然短編小説ではありません。

読んで頂いたら幸いです。


 私は永原(ながはら)さとみは東京にあるゲーム会社に勤めていた。

 勤めていたというのは決して辞めたわけじゃない、このご時世自分から辞めるのはいくら二十三歳だからっていってもなんでも無謀すぎる。

 つまり、会社が倒産したのだ。

 早く次の会社を見付けないと家賃と光熱費が支払いができなくなる。

 しかし、不況なのでなかなか再就職ができない。

 いよいよ、貯金が無くなりかけた頃に京都市にあるコンピューターシステム会社が募集していた。

 駄目もとで申し込んでみたら、なんと採用が決まった。

 正直言って、東京から離れるのは嫌だだったけど、東京に居たい為に別の業種に就いてもはたしてその仕事が続くのか疑問だったので、それなら一層のこと京都で出直した方がいいと思ったからだ。

 幸い京都なら実家がある彦根から通勤ができる。

 私は憧れの東京生活は一年半で終わった。


 一か月後、私は京都の会社の応接室に居た。

 緊張してながら待っているとノックの音がきこえた。

 私は立つと社長と私の同い年ぐらいの男性が入ってきた。


「永原さん、座っていいですよ」


 社長に促されて、私は座る。


「永原さん、わが社に入社してくれてありがとうございます」

「私こそ採用してくれまして、ありがとうございます」

 

 お互い挨拶をすると、社長が一緒に連れて来た男性を紹介した。


「君の上司の堅田君だ」

堅田慎太(かただしんた)です。上司と言われても三か月前に入社したばかりだから、同期と変わらないですよ」

「じゃあ、早速だけど二人共仕事場に向かってくれ」

「はい」


 私達は返事して応接室から出ていた。


「じゃあ、仕事場に向かうか」

「はい」


 堅田さんの後を付いていくと会社から出た。

 私が不思議そうな顔をしていると堅田さんが説明した。


「僕たちの仕事場は草津だよ」

「草津って、滋賀の草津ですか?」

「そうですよ。群馬の草津じゃないよ」


 どういう風に反応していいのかわからず、ただ笑っていた。

 そして、草津の仕事場に到着した。

 中に入ると手前に女性が二人、奥の方に年配の男性がそれぞれの持ち場に付いていた。


元浜(もとはま)課長、永原さんをお連れしました」

「堅田君、ご苦労。永原さんにこちらに来てください」


 私は元浜課長の側に行った。

 そして、紹介される。


「今日から一緒に働いてくれる永原さんです」

「永原さとみです。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げた。


「では、ここで働く仲間を紹介しよう。私が元浜だ。一応、役職は課長でこの部署では一番上って事になっているよ」


 笑いながら言った。

 元浜課長は二人の女性を紹介する。


「次に彼女らを紹介するよ」


 元浜課長は私の向かって左側に居る女性を紹介する。


「左側に座っている子が朝日(あさひ)さん」

「朝日かなです。よろしく」


 朝日は右手を振りながら言った。

 今度は右側に居る女性を紹介する。


「右側に座っている子が国友(くにとも)さん」

「国友ともです。よろしくお願いします」


 国友は立ち上がって挨拶をした。


「では、永原さんは国友さんの隣の机についてくれ」

「はい」


 私は言われた通りに机についた。

 すると、国友さんが話しかけてきた。


「ねえ、永原はどの仕事が担当なの?」

「えっと、プログラミングが担当です」

「良かった。納期が近くなるとここは混沌化するからね。助かる」


 国友さんが喜んだ。

 こんなに喜ぶという事は相当大変なんだと思った。


「お喋りはここまでにして仕事をしてくれるかな」


 元浜課長が私にやってもらう仕事を持ちながら少し遠慮がちに言った。

 私は慌てて仕事を受け取り、作業開始した。

 そして、あっという間に昼間休みになった。

 私は朝日さんと国友さんと一緒に昼食を取っていた。


「さとちゃん、さとちゃん」


 朝日さんが私の顔を見ながら言っていたので、多分私の事だろうと思うが一応確認をしてみた。


「朝日さん、もしかして私の事ですか?」

「そうだよ。名前がさとみだから、さとちゃん。可愛いでしょ?」

「そう、そうですね」


 自信たっぷり言われたので肯定しかできなかった。

 複雑そうな顔していたら、国友さんが言った。


「嫌だったら、嫌って言った方がいいよ」

「えぇ、ともちゃん。さとちゃんって、変かな。可愛いと思うだけどね。あっ、私の事はかなちゃんって呼んでね」

「は、はい」


 もう、かなさんのペースには付いていない。

 私が呆れた顔をしていたらともさんが話かける。


「まあ、朝日はいつもこんな感じだから気にしても仕方ないよ」

「こんな感じって、失礼な言い方だね」


 かなさんは怒った。が、笑顔で言っているから本気で怒ってはいないようだ。

 ともさんが私に声をかける。


「話は変わるけど、永原の仕事は本当に早いな。経験があるとはいえ、正直ここまで腕があるとは思わなかった」

「大げさですよ。皆さんに比べたら、まだまだですよ」

「いやいや、本当だよ。慣れるまで三か月ぐらいはかかると思っていたら、これなら一か月後にはほとんどの仕事を任せられるね」

「そうだね」


 かなさんは私とともさんに手招きした。私達はかなさんのところに近づく。

 かなさんは小声で喋った。


「正直、堅田君は仕事が遅いからね。納期がかなり余裕なものだけしか与える事しかできない」

「本当だね。朝日や永原みたいなスピードで仕事をしろとは言わないから、せめて平均ペースで仕事をしてほしいね」


 この様子だと堅田君はあまり仕事ができないようだ。

 

「まあ、仕方ないか。このチームはある意味は負け組だからね」

「確かにね」


 二人はため息を吐いた。

 さっきの言葉とため息が気になって二人に聞く。


「負け組って、どういう事ですか?」


 私の言葉を聞いて二人は黙ってしまう。

 二分ぐらい黙った後、かなさんが真剣な顔をして喋った。


「さとちゃん、ちょっとだけ心構えをして聞いてね」

「はい、わかりました」

「滋賀県内の新規開拓する為に、実際のところは滋賀県内で受けた仕事は一つも無し。いつも京都本社から仕事をもらっている状態」

「おかげで京都本社からは滋賀支店は会社のお荷物扱い」

「もちろん営業は課長がしているけど、他の会社と変わりばえしないからあまり相手にしてもらえない」

「でも、滋賀支店ができる前は本当に相手にしてもらえなかった。滋賀県は基本的に地元企業を優先するからね。だから、社長は滋賀支店を作ったんだよね」


 そういう事か。まあ、確かに滋賀は地元びいき身内びいきというところはあるからな。

 だからといって、私には何もできないからな。

 そんな会社の内部事情も知ることができたが、私は与えられた仕事をこなすだけ精一杯だった。

 そんなこんなであっという間に週末になった。


 私は湖岸道路沿いにあるカフェに居た。

 基本的に週末はどこかに出掛けるタイプ。別に家に居てもいいのだけど、せっかくの休日なのに何もしないともったいない気がして仕方がない。

 それともう一つ家に居たくない理由があった。

 それは休みに入る前に元浜課長に「滋賀県特有の物や人で仕事になれそうなものって無いかな? 一度、みんなで考えてほしい」と言われた。

 きっと、元浜課長も頭打ちになったから、みんなに助けを求めただろう。

 とはいえ、私は滋賀県に戻ったばかりどうしたらいいのかわからない。

 しかし、会社に入ったばかり協力しないといけない。

 そんな事を考えてばかりいた。

 

「あれ、永原さんじゃないですか」

「あれ、堅田君」

 

 声をした方向を振り向くと堅田君が立っていた。


「隣に座っていいですか?」

「いいですよ」

 

 堅田君は私に確認を取ると隣に座った。


「永原さんはここの近くに住んでいるの?」

「近くではないけど、彦根市内に住んでいるよ。堅田君は彦根に住んでいるの?」

「僕は草津市ですよ。会社から歩いて二十分の所に住んでいますよ」

「じゃあ、今日は何でここまで来たの?」

「昨日、課長に言われた事を考えながら車を運転していたら、ここまで来てしまったですよ」

「よく事故りませんでしたね……」


 私がそう呟くと堅田君は何を勘違いしたのか照れていた。

 私は視線を琵琶湖に向けた。

 この時期にしては波は穏やかで二台のジェットスキーが湖面を駆けていた。

 うーん、滋賀県特有な物や人ね……。

 滋賀県と言えば、琵琶湖、田んぼ、畑ぐらいしか思い付かない。

 人と言えば、滋賀県出身の有名人いるけど肖像権とか著作権とかが絡んでくるから使えないだろうな。

 それらを考えるとかなり難しい。

 

「永原さん、永原さん」

「な、何?」

「やっと、気付いてくれた」


 やれやれという顔で堅田君は私に言った。


「ここで考えても仕方ないからどこか行きませんか?」

「それはいいけど、どこに行くの?」

「それは車に乗りながら考えましょう」


 堅田君は軽い感じで私を誘ってきた。

 まあ、私も暇だからその誘いに乗ることにした。

 私は堅田君の車で長浜方面に向かって走っていた。


「こんな風に琵琶湖を見るは初めてだな」

「えっ、それってどういう事ですか?」

「私はいつも運転しているから、助手席から琵琶湖を見た事ないだよね」

「運転が好きなんですか?」

「好きか嫌いかって言われると好きな方だね」

「わかりますね。僕も運転好きですから」


 そんな事を言いながら、楽しそうに笑っていた。

 そんな堅田君を見て、私は微笑んだ。

 走行中、何台か自転車を通過した。

 その通過する自転車を見て言った。


「ビワイチだったけ? 東京に居た時に話は聞いていたけど結構やっている人が多いだね」

「滋賀県民なら、一度はやっていますからね」

「確かにね。私は車の免許証を取ってすぐにお父さんの車で走ったな」

「永原さんは車ですか。僕は高校の時に友達と一緒に自転車で周りましたね」

「やっぱり男子は自転車で周るね」

「でも、ここによく走っているロードタイプ自転車じゃなくて、ママチャリみたいな自転車だったからパンクとかも頻繁に起きたし、そもそも無計画で琵琶湖一周をしようとしたから散々な目に遭った」

「散々な目って?」

「天気予報では一日中晴天と言っていたのにゲリラ豪雨に遭うわ、一日で周れると思っていたら予想以上に琵琶湖広くて長浜市かびわ町で野宿したら、警察に職務質問をされた」

「職質されたの? それでどうなったの?」

「ちゃんと説明したら、許してくれた。それどころか、頑張れよと応援された」

「警察よ、普通は保護するところだろ……」


 私は呆れながら呟いた。

 走る自転車を眺めながら言う。

 

「ビワイチか……。なんか、できそうな気がする」

「なんかって、なんですか?」

「例えば、タイムアタックとかかな?」

「それはいいですけど、時間に煽られると事故の元になるからあまりお勧めないですね。それにビワイチする人達は速さを求めていないですからね」

「そっかダメか」

「でも、ちゃんとしたタイムは計りたいですね」

「えっ? スマホできないの?」

「できない事はないですけど、走っていると夢中なって忘れる事が多いですよ。だから、センサーみたいなものが道に付いていればいいだけど、一個付けるだけでも結構な金額になりそう」

「どんな物を付けるの? 交通情報も送信するの?」

「そんな大げさな物じゃなくて、時間だけいいです」

「それなら、三千円ぐらいで済むよ。しかも、大量発注すればコストダウンできる可能性は高いよ」

「じゃあ、仮に情報を送信する事もできるセンサーはどれぐらいするの?」

「一万円は超えるね」

「数を制限して主要な場所に付ければなんとかなるな」

「何をするの?」

「走っているとどうしても天候とか先の道路状況をリアルタイムで入手したいですよ。もし、それができれば例えば五キロ先で事故が発生していても回避して第二の事故が防げる」

「でも、それは自動車の交通情報でもいいじゃないの?」

「自動車の交通情報は広域過ぎるし、しかも雑。あくまでも、自転車目線での情報じゃないと駄目」

「なるほど。それなら、自分にケガや病気になってもそのセンサーから読み取って位置も正確に把握できるね」

「それはいいですけど、作るのが大変そう」

「まあ、大変だけどできない事は無いよ。むしろ、作った方がいいね。なぜなら……」

「そこからは僕に言わせて、ビワイチする人達は意外と県外の人達が多いからケガや病気、想定外の自転車の故障が起きても居場所がわからないと助けに行くのにも時間がかかる。でも、それができたら、時間の短縮につながる。これを売りにして行政や企業にPRすれば仕事ができるかもしれない」

「自転車の故障までは考えていたけど、行政と企業までは考えていなかった……」

「明日までにこの件はもう少し吟味して課長に相談してみる」


 堅田君は私の一つ言葉でここまでアイデアを膨らませる事ができるって、凄い。

 あれから黙っているけど、堅田君の頭の中はこの一件で一杯なんだろうな。

 邪魔するのも悪いから私は黙っていた。

 その結果、私が彦根に戻ることができたのは二時間後だった……。


 次の日、堅田君は昨日私達が話していた事を課長に話した。

 課長は少し難色を示したが堅田君の説得が効いたのかプロトタイプの製作が決まった。

 ここからは私と堅田君の仕事だ。

 と、言っても本来の仕事があるのでプロトタイプ製作は後回しになる。

 だから、この日から残業をする事になった。

 本当ならともさんとかなさんにも手伝ってほしいけど、二人にもいろいろ用事があるので余裕がある時だけ手伝ってもらった。

 

 二週間後、プロトタイプが完成した。

 まず、堅田君は自転車屋とケーブルテレビ会社に話を掛けた。

 でも、滋賀県を中心に経営しているところだけに絞っていた。

 私としては会心な出来なのに意外なチョイスに疑問を感じた。

 堅田君に尋ねたけど「大丈夫ですよ。僕に任せてください」と自信たっぷり言われた。

 それが三か月後には県全体を動かすプロジェクトまでに発展した。

 このプロジェクトは成功して、結果会社の知名度が大幅に上がった。

 

 ある日、私はともさんとかなさんと一緒に昼食を取っていた。

 すると、かなさんが喋った。


「あの企画が成功してから、考えられないぐらい知名度が上がったね」

「本当。私も正直、滋賀県内は知られるようになるだろうと思っていたけど、まさか全国に知られるぐらい知名度が上がるとは思わなかった」

「社長はわが社が全国区になったと言って大喜びしていたからね」


 あのビワイチの企画が全国に放送されたのだ。

 テレビの出演者も絶賛するぐらい好評だった。

 その放送された次の日、京都本社には問い合わせ電話が殺到した。

 

「しかし、さとちゃんのテレビ初出演はいろんな意味で良かったよ」

「もう、それは言わないで!」

「テレビであれだけ緊張を伝える事をできるのは永原だけだよ」

「もう、言うな!」


 実は昨日、社長と共に私と堅田君もビワイチの企画の説明の為にテレビに出たのだ。

 しかし、基本的に見知らぬ人の前に出るのは苦手。

 結果は説明は噛みまくり。

 ほとんど、堅田君が説明したに等しい。

 

「けど、堅田君の最後のフォローは良かったよね」

「うん。あの一言は良かった」


 そう、堅田君のあの一言「この企画は僕一人では絶対にできませんでした。これができたのは僕のアイデアをここまで具現化してくれた永原さんの技術力と知識が有ったからです。本当に永原さんには感謝しています」と言ってくれたからだ。

 多分、テレビの取材している間にも私の体面をどうやったら回復させられるか考えていただろう。

 本当に頭が回る人だ。

 

「ここまで成功したら、次が大変ね」

「下手したら、一発屋になるね」

「あの、歌手じゃないだけどね……」


 ともさん、かなさんの適当に近い発言に私は適当に答える。

 

「でも、次の企画は考えているの?」

「全然、考えていません」

「今はあの企画の仕事の受注が多いからいいけど、いつまでも続くわけないからね」

「確かにね」

 

 二人が言う通り、いつまでもこの仕事があるわけではない。

 はたして、次の企画がいつできるだろうか?

 私自身が心配していた。

 

 次の休み、私は堅田君と一緒にびわこ遊覧のミシガンクルーズを楽しんでいた。

 なぜ、ここに居るかというと先週新品タイヤを購入した時、くじ引きでミシガンクルーズのペアチケットが当たったからだ。

 相手がいない私にペアチケットは嫌がらせとしか言えない。

 両親に上げようとしたら、両親が共に船が弱いため駄目。

 兄に上げようとしたら、興味が無いと一言で終わり。

 いろいろ考えた上、この前のテレビの一件のお礼も込めて堅田君に渡す事にした。

 で、堅田君に渡しに行ったらなぜか一緒に行くことになってしまった。

 それを見ていたともさんは「デートだ、デートだ」からかわれ、かなさんは「大丈夫、邪魔はしないから」と意味不明の安心感を与えていた。

 私は周りを見渡した。

 家族連れ、カップルが居た。

 船外でもこれだけの人が居るから、船内だったら更にいるだろう。

 私達は二人で船内を詮索した。

 歩いていると子供とぶつかった。

 その時、堅田君の体に触れたというかもたれてしまった。

 

「こら、伸太。走っていけないって言っているでしょう!」

「ごめんね。ラブラブのお兄ちゃんたち」

「本当にごめんなさい。こら、伸太! 待ちなさい!」


 お母さんが私達に平謝りしてその場を去った。 

 しかし、私はお母さんの言葉よりも子供の言葉の方が心に残った。

 私が喋る前に堅田君が呟いた。


「ラブラブのお兄ちゃんたちか……」

「堅田君、私達はそんな風に見えるかな?」

「この服装とこの体勢ではそう見えてもおかしくないですね」


 私は慌てて堅田君から離れた。

 そして、堅田君の服装を見た。 

 まあ、確かにはたから見たら仲のいいカップルに見えるかもしれない。

 なぜなら、同じ色のスウェットパーカーを着ていたからだ。

 事前に話合って決めたわけじゃない、偶然同じになった。

 待ち合わせ場所で会った時は初めは声こそは出さなかったが驚いたが、次第にお互い笑みがこぼれて最後は声を出して笑ってしまった。

 しかし、それから私達は会話らしい会話をしていない。

 正直、何を話していいのかわからず戸惑っていた。

 多分、堅田君も同じ状況だったかもしれない。

 

「永原さん、もうそろそろお昼ですからご飯にしましょう」


 堅田君が言うので時計を見たら、十二時を過ぎていた。


「そうだね。ご飯にしましょう」

「では、一階に食事ができる所がありますからそこに行きましょう」

 

 私達は一階にあるミシガンダイニングに来た。

 堅田君は入ろうとしたので、私が袖を引っ張った。


「ここは予約制だよ。私、予約してないよ」

「僕が予約しました」

「予約してくれたの? ここ結構な金額だよ」

「ミシガンクルーズに誘ってくれたお礼ですよ。これぐらいはしないと男として駄目でしょう」


 それだけ言うと私は堅田君の後に付いてミシガンダイニングに入った。

 楽しい食事を終えて、私達は外に出た。

 

「堅田君、ごちそうさまでした」

「どうもいたしまして。実は行ってみたいところがあるですよ。一緒に来てくれますか?」

「いいですよ。どこに行くの?」

「それは行ってからのお楽しみ」

 

 堅田君はもったいぶりながら言った。

 仕方ないなと思いながらも私は堅田君の右隣を歩いていた。

 着いた場所はラバーズポイント。いわゆる、恋人の聖地だった。

 

「ミシガンって、こんな所があるんだ」

「そうなんですよ。食事の予約をする時に調べていたらわかったですよ」

「へえ、やっぱりカップルはここで記念写真を撮るのかな?」

「そうですね。結構、撮る人達多いですよ」

「じゃあ、私達も撮ろ」

 

 私はスマホを取り出して、堅田君にくっついて自撮りをした。

 写した画像を一緒に見た。

 

「ちょっと、表情が堅いよ」

「急に言われても顔は作ることはできませんよ」

「じゃあ、もう一回」


 私はもう一回撮った。今度はいい笑顔で撮れた。

 

「次は堅田君のスマホで撮ろ。スマホ出して」

 

 堅田君はスマホを出してもらい撮った。これもいい笑顔で撮れた。

 満足そうな私の顔を見ながら堅田君は言った。


「さっきとほとんど同じ画像なんですけど……」

「違うよ。私のスマホは私が右側に居て、堅田君のスマホは私が左側に居るよ」

「それは意味があるですか?」

「うーん、なんか同じようで同じじゃないっていいかなと思って」

「……そういうものなんですかね」


 堅田君はいまいち腑に落ちない顔をしていたが私が喜んでいたので、最後には納得したようだ。

 

「あっ! さっきのラブラブのお兄ちゃんたちだ!」


 声がした方向に振り向くとさっきの子供とお母さん、そして多分お父さんと思われる人が居た。


「こら、邪魔しないの!」

「写真撮っているの? 僕が撮ってあげるよ」

「伸太、こっちに行くよ!」

 

 お母さんが子供を引っ張ってその場から離れて行った。


「ごめんなさいね、息子が邪魔して。おわびに僕が撮りましょうか?」

「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「いいですよ」

「それじゃあ、お願いします」


 私と堅田君はお父さんに自分達のスマホを渡して撮ってもらった。

 堅田君のスマホには手を繫いだバージョンで、私のスマホには腕組みしたバージョンを撮ってもらった。

 私達はお父さんにお礼してラバーズポイントから離れた。

 

「あのお父さん、僕にスマホを返してもらう時に『かわいい彼女さんだね。幸せにしてあげなさいよ』と言われた」

「私には『君たちみたいな二人を見ていると昔の自分達を思い出すよ』と言われた」


 少しの合間を取って堅田君が言った。


「やっぱり、僕たち恋人同士に見えるのかな?」

「そうかもね……」


 そう言った後、堅田君を見た。

 偶然にも目が合った。

 同時に顔が真っ赤になった。

 すぐに顔を逸らした。

 恥ずかしいのと照れくさいのが同時に出てしまったからだ。

 堅田君は目を逸らしたまま話をかける。


「永原さん、港に戻った後まだ時間は有りますか?」

「は、はい。あ、ありますけど、なん、何でしょうか?」


 うわ、かみかみだ。恥ずかしい。

 

「あの、こんな事を言うのはおかしいですけど、もう少し恋人同士ごっこしてみませんか? なんか、楽しいからもう少し楽しみたいです。でも、永原さんが嫌でしたら止めますよ」

 

 顔を真っ赤にしながら言っていた。

 そう言われると確かに楽しい。

 案外悪くないかも。


「いいですよ。じゃあ、今日は一日恋人同士ごっこを楽しみましょう」

 

 堅田君の提案で私達は恋人同士ごっこを楽しむことにした。

 港に戻った私達は近くにある複合型アミューズメント施設に行ってボウリングとゲームを楽しんで、その後京都大津電気鉄道の石山坂本線の電車に乗って滋賀神宮に行った。

 お参りした後、おみくじを引いた。


「やった! 大吉だ」

「私も大吉だよ」


 お互い運がいいことに喜び合った。

 そして、滋賀神宮から出て大津港に戻った。

 すっかり、日は落ちて夜になっていた。

 私達は大津港名物の噴水を見ていた。


「テレビしか見たことないけど、実物は大きくて綺麗だね」

「うん。色とりどりの光が綺麗さを更に上げている」

「この風景や建物が地元の人しか知らないって勿体ないね」

「そうだね。もっと、他の人達も知ってほしいな」


 噴水に見とれていた。

 いけない、噴水ばかり見ていては。

 私は堅田君に話し掛ける。


「「あの」」


 なんと被ってしまった。


「永原さんからどうぞ」

「いえ、堅田君からでいいですよ」

「僕は後でいいですよ」

「私が後にします」

 

 お互い譲りあってなかなか先に進まない。

 結局、じゃんけんで勝った方が言うことに決まり、堅田君が勝ったので堅田君が先に言うことになった。


「あの、今日は恋人同士ごっこを楽しんだけど、これからはごっこじゃなくて本当の恋人としてお付き合いしてくれますか?」


 その言葉を聞いて私はきょとんとしてしまった。


「聞いていました?」

「違う、違うの。実は私も同じ事を言うつもりでいたから、ちょっとだけ驚いていたの」

 

 今度は堅田君がきょとんとしてしまった。


「実は恋人同士ごっこを楽しんでいるうちに本当に私の彼が堅田君だったら、楽しいだろうなと思っていたの。だったら、今日思い切って言ってしまえと思ったら、まさかの同じことを考えていたとは……」

「じゃあ……」

「でも、堅田君が先に言ったから私が返事するね」


 私は深呼吸を一回して、堅田君の顔を見ながら言った。


「謹んでお受けします。よろしくね、堅田君」

「こちらこそよろしく、永原さん」

「なんか、名字だと堅いね」

「そうだね。なんか堅い」

「名前で呼ぼうか?」

「うん、それがいいね」

「じゃあ、改めて。謹んでお受けします。よろしくね、慎太君」

「こちらこそよろしく、さとみさん」


 うん。やっぱり、こっちの方がいい。

 慎太君も言ってはいないが同じ考えだと思った。

 慎太君は私の両手を優しく握って、顔を見ている。

 私も慎太君の顔を見ていた。

 顔を近づけてきたので、少しだけ顔を上げて目を閉じた。

 唇が重なった感触が伝わった。

 私達、本当の恋人同士になった.


 次の日、昼休みにともさんとかなさんに昨日の結果報告をした。

 というよりも「聞かせてくれるでしょ?」と二人の期待している顔に負けてしまった。


「ねえ、ミシガンデートはどうだった?」

「景色がいいから楽しかったでしょう?」

「はい、良かったですよ。景色は最高でミシガンダイニングの食事もとても美味かったです」

「ダイニングにも行ったんだ。いいな」

「ともちゃん、そこに食いつかないで」


 かなさんが違う方向に行きそうなるのをすぐに修正した。

 私にとってはその方が良かっただけど……。

 

「ミシガンを降りた後、どこ行ったの?」

「あの後、アミューズメント施設に行った。それでも夜になるまでまだ時間があったから近江神宮に参拝してきた」

「夜はあの噴水を見たんだね。定番だけど、このコースは外すことができないからね」

「うんうん」


 かなさんの意見にともさんも同調する。

 確かにあの夜の噴水は雰囲気がいい、見る者を虜にさせる。

 

「そして、噴水を見ながら告白された」

「いやいや、堅田君にはできないでしょう」

 

 二人は笑っていたが私は一つも笑うことができなかった。

 まるで、見ていたのと思うぐらい的確な発言に完全に言葉が失った。

 笑っていない私を見て、二人は次第に笑い声が小さくなり最後には完全に無くなった。


「ねえ、もしかして本当に告白されたの?」


 かなさんが言ったので私は頷いた。

 

「「ええ! 本当に!」」

「本当ですよ」


 二人が前のめりになって聞いてきたので後ろに下がってしまう。


「で、返事はしたの?」

「OKしたの? OKしたの?」

「はい。ただいま交際をしております」


 もう少し、落ち着いて聞いてくれてもいいだけど……。

 私はそんな事を思いながら二人の質問に答えていた。

 そんな事をしている慎太君が外から戻ってきた。

 慎太君の姿を見たなり、ともさんが有無を言わせずに慎太君を自分の椅子に座らせた。

 もし縄があったら縛り付けてそうだ。

 早速、かなさんが慎太君に質問した。


「堅田君、唐突だけど質問に答えてもらいたい。もちろん、嘘偽り一切無しだ」


 なぜか、かなさんはさっきとはうって変ってシリアスな口調で喋る。

 慎太君が私を手招きしている。まあ、言われる言葉はわかっているが一応聞く。


「なんで、僕はこんな状況になっているんですか?」

「慎太君ごめん、昨日の事を喋った」

「ああ、そういう事ですか。でも、僕に聞いても答えは同じですけどね……」

「そうなんだけど、かなさんの遊びに付き合ってくれる?」

「まあ、さとみさんが言うならいいですよ」

「慎太君? さとみさん?」


 小声で話していたのにかなさんが食いついた。


「へえ、二人はもう下の名前で呼び合うぐらい仲がいいんだ」

「「はい」」

「同時に返事したよ。チッ」

「朝日。裏朝日が出ているよ」


 ともさんが注意するとかなさんは我を取り戻した。


「いけない、いけない。つい、別の私が出てしまった」


 別の私って……。

 でも、確かにあのかなさんは別人だった。

 多分、ともさんなら何か知っていると思うけど、聞くと触れては聞いてはいけないところを触れそうだから黙っていた。

 かなさんは一回咳すると慎太君に聞いた。


「何で三人の中からさとちゃんを選んだのかな?」

「三人って、朝日さんと国友さんとさとみさんの事ですか?」

「そうだよ」


 言葉こそ短いがこの四文字に込められた聞きたいという思いはどんな鈍感な人でも伝わるだろう。

 慎太君は仕方ないという感じで言った。


「一番の理由は僕の話を理解してくれる人だったから」

「それだけ?」

「それだけじゃないですけど、自分が説明が下手という事もありますが僕の話は理解されにくいです。でも、さとみさんは話を理解してくれるし、それどころかそれその物を作ってしまう。今まで、いろんな人達に会ったけど、さとみさんみたいな人はいなかったから、仕事を一緒にしているうちに惹かれていました」


 慎太君が説明するとともさんはうんうんと頷きながら納得していた。

 私は初めて聞かされる好きなった理由に恥ずかしい気分になった。

 かなさんは「それじゃあ、それだけじゃない方を聞かせて」と言ってきた。

 どうやら、全部聞くつもりだ。


「本人を目の前に言うのは正直照れくさいですけど……。やっぱり、可愛いという事とスタイルが自分の好みたった事と性格も良かったからです」


 始めの方は照れくさそうに言っていたが最後はきちんとはっきりした言葉で言った。

 確かに本人の前にして好きな理由を言うのは照れくさい。

 でも、はっきり言ってくれた。

 正直、嬉しかった。こういう事はなかなかはっきり言えないからだ。

 私がその立場になったら言えるだろうか?

 けど、言わないと相手を傷付けることになる。

 だから、慎太君その事をわかっていてはっきり言ったと思う。

 それを考えると私もその場になったらはっきり言おう。

 そんな事を考えていたら、かなさんが次の質問をしてきた。


「じゃあ、堅田君次の質問だけどいいかな?」

「一応聞くですけど、断わるはできますか?」

「できません」

「やっぱりですか……」


 慎太君はため息を吐いた。

 そんな事はおかまいなしでかなさんが言う。


「何がきっかけで告白をしようと決めたの?」

「えっと、滋賀神宮に参拝した時におみくじを引いて大吉が出たですよ」

「それが理由?!」

 

 かなさんとともさんが驚く。私も驚いた。

 三人を見て、慌てて喋る。


「まだ、話の途中ですよ。最後まで聞いて下さい」

「確かに先走り過ぎた感はあるわ。ごめんなさい。で、告白しようと決め手は?」

「おみくじの待ち人のところにすぐ側にいる。願い事のところに思いは叶う。恋愛のところは年上に縁あり。と書かれていたです。自分の思いは伝えたという気持ちは前々からあったですか、どうしても一歩が踏み出すことができなかったです。これを見た時に滋賀神宮の神様が味方というかチャンスくれたというかよくわからないですけど、後押ししてくれたと思い告白しました」

「あ、私も似たようなことが書かれたあった」

「さとちゃんはどんなこと書かれたあったの?」

「私は縁談のところは思うに任す。願い事のところは叶う。恋愛のところは身近なところに縁あり。と書かれていた」

「……なんか出来すぎた話のような気がするけど、でも実際にこれで両想いなったのは事実だから認めるしかないのね」

「へえ、私も今度の休み日に滋賀神宮に行っておみくじを引いてみよう」


 かなさんは若干納得していないようだが認めたみたい。

 ともさんは納得して、なおかつ休み予定まで決めたようだ。

 そんなこんなしているうちに昼休みは終わった。

 そして、トラブルも無く今日の仕事を終えることができた。

 かなさんとともさんは私達に遠慮したのか先に帰った。

 私は慎太君と駅に向かっていた。

 慎太君の家は駅と真逆の方向だけど、駅前にあるスーパーに行くために一緒に歩いていた。

 

「今日の昼休みは大変でしたね」

「本当。慎太君もあんな突き詰められるとは思わなかったでしょう?」

「はい。やっぱり、女性の方は恋愛が好きなんですね」

「まあ、間違いではないけど」

 

 どっちかというと嫉妬の方が近いだけど、黙っておこう。

 そんな事を考えていたら、慎太君が私に尋ねた。


「ところで一つ聞いていいですか?」

「何?」

「昼休みに話していた事なんですけど。おみくじで告白を決意したですけど正直どうですか?」

「どうって、どういう事?」

「うーん、なんて言うかな……。物事を決めるのに何かに頼る。そんな男性って駄目ですか?」

 

 そういう事か。

 慎太君の気持ちはわかるような気がする。

 私は少し心配した慎太君の顔を見ながら言った。


「私はそうは思いません」


 慎太君はその言葉を驚いた顔をした。私は更に喋り続ける。


「確かに全て物事を決めるのに何かに頼るのは駄目です。けど、未来の事は誰にもわかりません。だから、おみくじや占いがあってその助言をヒントに行動するぐらいは悪いことだとは思いません。それに……」

「それに?」

「私もおみくじの言葉で告白をしようと決めましたからね」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。告白って、かなり勇気がいる行動ですから、何かに頼らないととてもできない事。これは男性女性は関係ないですよ」

「そうですか。そう言ってくれると助かります」


 そう言いながら笑った。

 私もつられて笑った。

 買い物を終えて、私達は駅で別れた。

 

 次の日、慎太君は元浜課長と京都本社から来た人と会議室で喋っていた。

 三人はその事を話していた。


「堅田君と課長、かれこれ一時間近く話しているね」

「さとちゃん、何か知ってる?」

「ううん、知らない」

「さとちゃんが知らないという事はかなり大きいプロジェクトが始まろうとしているね」

「かなさん、本当ですか?」

「ううん、言ってみただけ」


 それを聞いて、ともさんと私は呆れる。

 かなさんの性格はわかっていたが、改めてそのいいかげんさに呆れてしまう。

 そうしていたら、三人が会議室から出てきた。

 本社から来た人は「それじゃあ、よろしくお願いします」と頭を下げながら言って会社から出て行った。

 元浜課長は慎太君に尋ねていた。


「うーん、京都本社も困ったものだな。堅田君、なんかいいアイデアがあるかね?」

「まあ、あると言えばありますけど……」

「え、あるの?! さっき無いって言っていたのに」

「まだ、できるかできないかわからない状況であるとは言えませんよ。せめて、できると確定してからじゃないと」

「そうか。じゃあ、大変だけど頼むよ」

「はい」


 慎太君は自分の机に戻り、作業を始めた。

 その顔は少し困っていた。


 昼休み、私と慎太君は外で食事をしていた。

 いつもはともさんとかなさんと一緒に食事をしているだけど、今日は二人に「彼氏を助けれるのは彼女のあなただけだから、一緒に居て相談にしてあげてよ」と言われてこの状況になっている。

 この事を伝えたら「もう楽しんでいるとしか言えないね」と呆れていたが、「でも、感謝しないといけないね」とも言っていた。

 

「あの、単刀直入に聞くけど京都本社の人に何を言われたの?」

「簡単に言うとあの企画が成功して京都本社もなんとか企画を練り出そうしているだけど、しょぼすぎるとか既に他社がやっているとかで全然駄目状況なんですよ。結局、こちらに助け船を求めてきたという事です」

「そういう事ですか。私が力になればいいですけど……」

 

 何を企画するというのは私は大の苦手だ。

 頼まれた仕事をこなすのは得意なんだけどね……。


「大丈夫ですよ。既にさとみさんからアイデアを頂きましたから」

「私、なんか言った⁈」

「ミシガンデートの時、噴水を見ていたに話していた事を覚えていますか?」

「この風景や建物が地元の人しか知らないって勿体ないねって事?」

「そうです。京都が隣にあるから大津に来るのはそんなに難しい事は無いですよ。ただ、どうやって大津に来てもらうかが問題なんですよ。観光PRはとくにやっているし」


 そう言いながら、スマホ観光PRのホームページを見せた。

 確かに観光PRしている。


「動画の方がいいかな? でも、動画を見てもらう為にどうやってやるかだね」

「普通にホームページに載せればいいじゃないの?」

「さとみさん、僕も始めは考えたですけどそれだと静止画が動画に変わっただけなんですよ。もう一つ変えないと駄目なんですよ。それがどこかなんですよ」

 

 なるほど、慎太君の頭の中ではだいたいのプランは決まっているだけど、決め手が無い。

 もう一つ変えないいけない。

 どこを変える?

 すぐに動画を見てもらえる方法……。


「そうだ。QRコードを使う方法はどう?」

「そうか! それなら動画が見てもらえる。さとみさん、頭いい!」

「でも、どこにQRコードを表示するかなんだけどね……」

「さとみさん、答えが出ました。全て、さとみさんおかげです!」

 

 慎太君は私の手を握りながら言った。

 突然の行動に驚き、声を失った。

 周りは私達を見ている。


「ちょ、ちょっと待て。みんなが見ているから」

「あっ、すみませんでした」


 慎太君は慌てて手を離した。

 私はしばらくドキドキが止まらなかった。

 周りはというとなんだもう終わりかいう顔をして食事を取っていた。

 とりあえず、自分達も食事を取った。

 昼休みが終わって仕事場に戻った。

 慎太君は課長にさっきの話を打診した。

 すると、一時間会議することなった。


「堅田君、大津に観光してもらうためにQRコードを使って動画を見てもらうことだね」

「課長、そういうことです」

「けど、どこにQRコードを貼るの?」

「それはカードです」

「「「「カード?」」」」

「そうです。京都大津電気鉄道全線で使えるカードです」

「なるほど、それなら大津に来てもらえる可能性は高いね」

 

 みんなは感心していたが、私は一つだけ疑問を感じた。


「けど、観光PRをしているだけの動画って見てもらえるかな?」

「まあ、日本人は無理だね。だけど、外国から来てくれた人達なら見てくれる」

「どういうこと?」

「外国人旅行者の京都に来た理由はテレビやネットで見て、その風景を自分の目でみたいから理由が多いからね。それを利用してみようと思った」


 なるほど、既にリサーチ済みとはさすが慎太君。

 私は慎太君を褒めていたら更に続けて喋る。


「まあ、万が一動画が駄目でもこのカードは特定の施設で提示すると特典がありますよという字幕を入れておきますよ」


 それを聞いて少しがっかりした。

 でも、仕方ないかあくまでも大津に観光に来てもらうのが目的だから。


「で、その動画は誰が出るの?」

「朝日さん、人が出ないと駄目ですか?」

「だめでしょう! 人が出てその土地の魅力を伝えないとただの風景画だよ!」

「わかりました。じゃあ、出てくれますか?」

「私では無理だよ。ビジュアルは一番大事だよ」


 かなさんは断わった。

 慎太君はともさんを見た。すると、片手を大きく横に振りながら無理無理とジェスチャーをした。

 

「堅田君、悪いけど君が出てよ」


 課長の言葉に慎太君は硬直した。

 自分の企画に自分で出演するとは考えても思わなかっただろう。

 

「一人だけでは画がさみしいからさとちゃんも出てあげてよう」

「そうだね。さとちゃん出なさいよ」


 ともさんとかなさんは私に出演させようとしている。

 自分達が出たくないからだろうか、必死感がひしひしと伝わてくる。

 結局、出演は私と慎太君、カメラはともさん、メイクはかなさん、その他雑用は課長が担当する事になった。

 多分、某動画サイトよりも手作り感がたっぷりの作品ができそうな気がする。

 作った動画を見て企業が採用してくれるのか心配になってきた。


 土曜日。

 私達は浜大津駅にいた。

 正直、嫌だのだが仕事だから仕方ない。

 まさか、コンピューターシステム会社に就職して動画を作るうえにさらに出演するとは入社した時、想像できただろうか。

 いや、できるわけがない。

 ともさんはカメラを私に向けながら言った。


「さとちゃんの今日の服装はいいね。これからデートかな?」

「今日はデートみたいな感じで撮影するって言ったのはともさんでしょう」

「そうだったね」


 軽くすませないでください。

 それにしても慎太君がなかなか戻って来ない。

 今朝集まった時、かなさんが慎太君の恰好を見て「なんだその姿は! もう少しまともな恰好できなかったのか!」と激高していた。

 で、かなさんは慎太君の手を引っ張ってワゴン車に入れられた。

 かなさんの気持ちはわからないではない。

 あまりにもずぼらすぎるからだ。

 早朝に集合したので身だしなみが雑になってしまっただろう。

 けど、デートみたい感じの撮影だからそれは許されるわけなく、ただいまワゴン車の中で身だしなみを直しているところだ。

 そんな事を考えていたら、慎太君とかなさんが戻ってきた。

 私は慎太君の姿を見て驚いた。

 髪の毛の寝癖はきれい無くなって、服はかなさんが用意していた物に変わっていた。


「念のため、兄さんから服を借りて正解だった。これなら、センスのいい男性に見える」


 いやいやかなさん、センスのいい男性どころじゃないですよ。

 メンズ、コーデ、今年の秋冬、画像と検索したら間違いなく出てくるぐらいの人になっていますよ。

 

「さとみさん、似合ってますかね?」

「十二分に似合ってます。私が隣に並ぶのがおこがましいぐらいです」

「そんな事無いですよ。今日もさとみさんの服装はとてもいいですよ」

「あ、ありがとう」


 私は慎太君に褒められて嬉しかった。

 思わず顔が赤くなった。

 それを見て慎太君も赤くなった。


「はいはい、撮影する時間が無くなるから早く坂本大社に行くよ」


 かなさんは私を坂本大社に行かせる為に引っ張っていた。

 他の皆さんも私達の後に付いて来る。

 

 坂本大社に着いた。

 拝観料を払って中に入ると木々の中に社があって、私と慎太君は境内を一緒に歩いていた。

 普段と違った景色、マイナスイオンが満ち溢れている空間、同じ滋賀県とは思えないぐらいの場所だった。

 本当に心が洗われるようだ。


「カット! カット! 駄目だよ、二人とも! 会話しないと!」

 

 かなさんが大声で叫んだ。

 

「え、もう撮影しているの?」

「してるよ。黙っていたら、動画の意味が無いでしょう。もう一度、入り口からやり直し!」


 それを言われるとかなさんの意見が正しい。

 仕方なく、私達は入り口に戻る。

 今度は積極的に会話をする心がける。


「さとみさん、坂本大社って、なぜここにあるか知っている?」

「いえ、知りません」

「鬼門は方角は知っている?」

「北東ですよね」

「その通りです」

「鬼門と坂本大社が何か関係あるですか?」

「坂本大社は鬼門除け・災難除けの役割があるからね」

「どこの鬼門除けですか?」

「鬼門が北東なら反対には何がある?」

 

 私は南西の方向を向いた。

 木々しか見えなかった。

  

「あの直接見ても、正解は見えないですよ」


 慎太君は困った顔しながら言う。きっと、漫画だったら大粒の汗が書かれているだろう。

 私は考えた。

 直接は見えない。でも、これだけの物を建てるだから余程重要なものだろう……。

 頭の中で地図を広げてみた。

 すると、ある事に気付いた。


「京都だ」

「正解です」

「なるほど。昔、京都は首都だったから災難があったら大変だからね」

「そういう事。鬼門とかは迷信と言われているけど、やっぱり災いは避けたいかあらね」

「ごめん、ちょっと待て」


 会話をしているのにかなさんが止めた。

 なんかおかしいところあったかしらとお互い顔を見た。

 

「あの、私が想像していた会話と違うだけど……」

「朝日さん、何が違うでしょうか?」

「うーん、デートと想定して撮影しているからそういう会話をしてほしいな」

「わかりました。頑張ってやっています」


 慎太君はそう答えたが私はできるだろうが心配になってきた。

 また、入り口まで戻って撮影を再開する。

 すると、慎太君は私の手を握ってきた。

 驚いたがかろじて声に出さずに済んだ。

 顔を見ると少しだけ顔が赤かった。

 結構、思い切ったことするな。

 でも、悪くない。むしろ、嬉しかった。

 あ、会話しないといけない。

 私達は恋人同士の会話みたいな事した。

 かなさんもOKをしてくれた。


「緊張したね」

「はい。本当に緊張しました」


 課長から差し出されたお茶を飲みながら、景色を見た。

 紅葉が綺麗だった。


「紅葉が綺麗だね」

「はい。こうやって、紅葉を見ることは無かったから改めて見ると楓やいちょう以外にもあるですね」

「うん、そうだね。私も知らなかった」

「撮影の為に来ましたけど、来て良かったですね」

「紅葉のスポットとは知っていたけど、彦根からだとなかなか来れないから来て良かった」

「来年は二人だけで来ましょう」

「うん」


 風が吹いて、色付いた葉が地面に落ちた。


「さとみさん、もうすぐ冬が来ますね」

「冬は嫌いだな」

「何で?」

「だって、寒いし雪が降るんだよ。雪が積もったら雪かきしないといけないだよ。慎太君が住んでいる所はあまり雪降らないからいいけど」

「僕も冬は好きじゃないです。けど、今年の冬から好きになれそうな気がします」

「どうして?」

「だって、こうできるから」


 慎太君は私の体に寄り掛かった。


「一人なら寒い冬でも、二人なら温め合うことができますからね」

「ばか」


 慎太君の額を軽く叩いた。

 けど、今年の冬から好きになれそうなのは間違いかも……。

 

「そろそろ、大津港に行くよ」

「かなさんが呼んでいる。慎太君、行きましょう」

「はい」


 大津港。

 ミシガンに乗って撮影をした。

 乗船は二回目だったのでここはスムーズに進行できた。

 昼食は石山寺駅の近くにある懐石料理屋に行った。

 懐石料理屋だから懐石料理でも食べれると思っていたら、普通の昼食だった。


「課長、せっかく懐石料理屋に来たのに懐石料理じゃないですか? もちろん、これはこれで美味しいですよ」

「朝日さん、僕もね懐石料理を食べたかったけど、予想以上に値段がかかるだよね」

「製作費からおりないですか?」

「国友さん、これでもビワイチの成功のおかげでかなり優遇された方だよ。京都本社の人達からブーイングを受けたぐらいだよ」


 その後、課長は二人のブーイングを受けていた。

 京都本社から二人からブーイングを受けていている課長は哀れで仕方ない。

 私は視線を慎太君にやった。

 既に食べ終えて、何かを考えていた。


「どうしたの?」

「懐石料理ってそれなりの値段はすると聞いていたけど、最高が二万円という金額を見た時にちょっと考え直した方がいいなと思いまして……」

「確かに二万円は高額だよね」

「そうなんですよ。少なくても、十二万円は掛かるんですよね」

「何で六人分?」

「それは僕と僕の両親とさとみさんとさとみさんの両親の分ですよ」

「どういう事?」

「先の話ですけど、いつかはお互いの両親を顔合わせする時にこういう料亭でしようかなと考えていたけど、予想以上の値段に挫折しそうです」


 慎太君はここまで考えているんだ。

 それに比べて私は今が楽しいから先の事を考えていなかった。

 やっぱり、付き合っているからそれなりに考えないといけないな。

 でも、今は慎太君の悩みを解決しよう。


「ねえ、慎太君」

「何?」

「確かにいずれはお互いの両親を合わせる事になるけど、私は……、その……、なんて言うのかな……」

「はっきり言ってもいいですよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて。無理しなくてもいいですよ。自分達の身の丈にあったやり方でいいじゃないですか」

「それでいいのかな?」

「それがいいのですよ。少なくとも私の両親には高評価を得ることはできますよ」

「そう言ってくれると心強いです」

「ありがとうございます」

「でも、できる限りのことはさせてもらいますよ。僕たちの大事なことですから」


 笑顔で言うので、私はこの件に関しては慎太君に全て任せることにした。

 昼食を終えて、最後の撮影場所なぎさ公園にむかっていた。

 しかし、夜の噴水を背景にして撮影したいので夕方まで自由行動になった。

 私は琵琶湖を眺めていた。

 すると、慎太君が温かい飲み物を持ってきてくれた。


「ミルクティーですけど、飲みますか?」

「ありがたく頂戴します」


 一口飲むと温かさが体中に広がった。


「何を考えていましたか?」

「ううん、何も考えていないよ。ただ、琵琶湖を眺めていただけ」

「そうですか」

「慎太君、これから夜までどうする?」

「そうですね。課長は一度家にもどりましたし、朝日さんと国友さんはカフェに行ってしまいましたからね」


 それだけ言うと考えてしまった。

 そして、一言。


「京都に行きましょう」

「京都?」

「明日は京都で撮影だから下見がてら行きましょう」

「まあ、時間はあるから行ってもいいですね」

「じゃあ、決定」


 私達は京都に行くことにした。

 ほとんど思い付きだけど。

 浜大津駅から電車一本で京都の中心部に行ける。


「よく鉄道ファンの人が京津線は劇場型路線と言われるけど、乗ってみると確かにそう思えるね」

「そうだね。駅を出たらいきなり路面電車になって、専用路線になったらカーブの連続で、トンネルを抜けると誰が見てもわかるぐらい急坂で、最後は地下鉄になるというのは他になかなか無いからね」

「うん。ただ、料金が高いというのが難点だけどね……」


 そんな事を喋っていたら、電車は地下に入っていた。

 私達は御陵で六地蔵行きに乗り換えた。

 目指す駅は醍醐駅。そして、目的地は醍醐寺。

 始めは御所に行く予定だったが、さすがに宮内庁の管轄では撮影の許可は下りないと思い断念。

 京都なら名所は限りなくあるけど、今回は地下鉄沿線に限定してしおかないといけなかった。

 一つは一日乗車券の沿線限定しておかないと今回の企画の意味が無くなる。

 もう一つは夕方までになぎさ公園に確実に戻らないといけないからだ。

 少しでも遅れたら、間違いなくあの二人のことだから変なこと言い出すからだ。

 その事を慎太君に伝えたら「ありえそうな話ですね……」と同意をしてくれた。

 醍醐寺に到着。


「慎太君、意外と人が多いですね」

「ここは桜の名所ですけど、紅葉の名所でもあるですよね」

「大概、京都の紅葉は嵐山の方に行くからね」

「でも、今回はそれをPRするにはいいきっかけになりますね」


 私達は醍醐寺を散策した。

 けど、何か特別なことするわけじゃない。

 ただ、たわないのない話をしながら散策するだけ。

 それがいいかもしれないと思った。

 慎太君も同じ気持ちかもしれないと思いたい。


 夕方になる前になぎさ公園に戻った。

 集合場所には課長が一人だけ居た。


「課長、二人は?」

「あ、堅田君。二人は居ないよ。さっき電話したら、すぐに戻りますと言っていたからもうすぐ来るだろう」


 良かった、早め戻って。

 二人きりの時間が短いのは少し残念だけど、それは別の機会で今日の分を取り戻せばいい。

 そんな事を考えていたら、かなさんとともさんが戻ってきた。

 何かちょっとだけ楽しそうな顔をしていた。

 

「かなさん、ともさん。何か、面白いことが有りましたか?」

「ううん、何もないよ」

「うん、何もないよ」

 

 微妙に怪しいだけど、信用することにした。

 深追いして火傷するもの嫌だったからだ。

 それからすぐに撮影に取りかかった。

 今日一日撮影していたので、要領がわかってきた。

 それは慎太君も同じだった。

 そして、今日の撮影は終了した。


 日曜日。

 私達は三条駅に居た。

 私の服は自前で慎太君はかなさんが用意してくれた服装なのだが、三人には昨日と全く同じ服装だった。


「あーの、課長はいいとして。かなさんとともさんはなぜ同じ服なんですか?」

「まあ、今日も仕事みたいなものだから同じいいやと思った」

「私も同じ」


 二人の服のセンスは私は尊敬しているだけど、この辺の雑さ加減が玉にキズなんだよね。

 

「今日はどこで撮影をするのですか?」

「清水寺か金閣寺に行こう」

「嵐山もいいね」

「二人とも自分達が行きたいところを聞いているわけじゃないだよ」

「朝日さんと国友さん、基本的に地下鉄沿線にしてもらえないかな? 一応、仕事の一環なんだからね」

「歩いて行こう思えば行ける」

「散歩がてらと思えば」

「じゃあ、私と慎太君と課長はタクシーを使うから、かなさんとともさんは歩いて来てね」

「「ごめんなさい」」


 素直に謝った。

 本当にこの二人は息が合うな。

 そんな事を思いながら、私達は東山駅に向かって行った。

 

 東山駅。

 ここは京都神宮の最寄り駅。

 しかし、京都神宮で撮影をするわけじゃなくて、その周りにある店を撮影をした。

 さすが、名所の側にある店だけあってどれも美味しそうに見える。

 どこにするか悩んでいたら、課長が「堅田君と永原さんが映るだから、二人が決めた方がいいよ」と言われた。

 課長は自分で決めるのが面倒だから、私達に丸投げしたな。

 

「どうする?」

「自分の今の気分で決めてもいいですか?」

「堅田君、それでいいよ。みんなもいいよね?」

 

 課長の早く進めよう私達にせかすように促す。

 でも、私も決めることができないので慎太君の気持ちに任せることにした。

 で、行った店は蕎麦屋。


「てっきり、イタリアンレストランに行くと思った」

「昨日、ピザを食べたから今日は蕎麦がいいかなと思って」

「……まあ、堅田君に任せた以上は僕たちもここにしよう」


 私達は蕎麦屋に入った。

 三十分後。

 私達は食べ終えて店を出た。

 

「美味しかったね」

「蕎麦を選んで正解だったでしょ?」

「大正解です。蕎麦を馬鹿にしてすみませんでした」


 私は慎太君に対して深々と頭を下げた。

 そして頭を上げる。

 少し間を空けた後、お互いの顔を見て笑った。

 

「永原さん、堅田君。次はどこに行く?」

「僕たちが決めていいですか?」

「プランがあるなら任せるよ」


 課長が言うと慎太君は腕を組んで考え始めた。

 

「慎太君、そんな考え込む事なの?」

「さとみさん、どうせなら何か変わった事をしたいですよ」

「変わった事って?」

「簡単に言うとまだやっていない事」

「簡単に言ったけど、それは結構難しいですね」

「そうなんですよ」


 それだけ言うとまた考え込んだ。

 私も考えてみる。

 京都でできること……。

 

「舞妓さんになったの!」

「似合ってる?」

「似合ってる似合ってる!」


 話がする方向を見ると女子高生だろうか、舞妓さんの衣装を着ていた。


「舞妓さん体験か……」

「これだ!」

「何、慎太君⁈ 急に大声を出して⁈」

「体験だよ、体験! これをやっていなかった」

「え、堅田君。舞妓体験するの⁈」

「朝日さん、そんな事はしません!」

「なんだ、つまんない」

「国友さん、変な期待をしないでください」

「で、話を戻すけど体験って、どんな体験をするの?」

「この近くで誰もが気軽に体験ができるところは……」


 慎太君がスマホで調べた結果、茶道体験にした。

 なぜ、茶道にしたかというと陶器や扇子を作る体験は器用な人ならいいけど、不器用な人だと苦行にしかならないからだ。

 茶道は礼儀作法が大変だけど、それでも作るよりはかなりましだと思う。

 電話したら、幸いすぐに体験できるとのことだったのですぐに店に向かった。

 

 一時間後、茶道体験を終えて店を出た。


「意外と茶道って、手順が多いですね。正直、出されたお茶を飲んで器を褒めるだけいいと思っていました」

「そんなわけないでしょう」


 私は呆れながら突っ込んでいた。

 茶道体験に行くと自分で決めたのに何も予習をしないとは想像していなかった。

 まあ、そこが慎太君らしいけど


「永原さんは上手かったね。茶道の経験があるのかい?」

「課長、高校の時に部員が少ないから入ってほしいと言われて名前だけ貸していたら、少しずつ出るようになって最後には全国大会まで出るようになりました」

「「茶道に全国大会があるの?」」

「ごめんなさい、嘘です」

「「嘘かい!」」

「かなさん、ともさんごめんなさい。実際は地味に部活動して、文化祭の時にお点前を披露するですけど、その時に有名な家元の人が来ましてお点前を披露しましたら、素質があると褒められました」

「へえ、だから作法がきれいなんだ」


 慎太君が褒めてくれた。初めて茶道部に入って良かったと思った。

 

「ねえ、次はどこに行くの?」


 かなさんが私の顔を見ながら尋ねてきたがプランが無いので慎太君に助けを求めた。

 それに気づいたのか考えてくれているようだ。

 しばらくすると、少し渋った顔で言った。


「マイナーな場所なんですけど、地下鉄沿線だとここしかないな」

「どこ?」

「京都文化工芸ミュージアム」

「そんな場所あるの?」

「初めて聞いた」

「確かに自分もたまたまネット検索していたら、見つけたところですから」


 その口ぶりに私は確認の為に聞いてみた。


「もしかして、行ったこと無いの?」

「無いです」

「言った本人が行ったこと無い場所に行くの?」

「ごめんなさい。他に思い当たる場所が無かったです」


 慎太君は申し訳ないように頭を下げた。

 ちょっと、言い過ぎたかな。

 私は慌てて喋る。


「ごめんなさい。そんなつもりで言ったわけじゃないだよ」

「わかってますよ。で、どうします?」

「何が?」

「何がって……、京都文化工芸ミュージアムの事ですよ」

「そうそう。ミュージアム、ミュージアム。ミュージアムに行こう」


 私はみんなを促すように東山駅に向かわせた。


 京都文化工芸ミュージアム。

 烏丸線東西線の烏丸御池駅から徒歩三分にある。

 始めは地元の工芸品を展示をする場所だったが、今は地元の工芸品だけではなく日本全国の工芸品をテーマに沿って一年間展示をしている。

 今年は万華鏡を取り扱っていた。

 入場料を払い荷物をコインロッカーに預けて中に入るといろんな万華鏡があった。

 

「一口に万華鏡と言ってもいろんな種類があるんですね」

「何を言っているの慎太君。たくさん展示物がないとミュージアムとは言わないでしょう」

「そうじゃなくて、これですよ」


 慎太君が指を刺した方を見ると万華鏡の仕組みが書かれた図表があった。

 オブジェクトだけ五種類、ミラーシステムとなると七種類もある。

 万華鏡はいろんな見え方をするとはわかっていたけど、まさかこんなに種類があるとは思わなかった。

 慎太君はそれを見ながら、メモをしていた。

 普通ならスマホで撮ればいいと思うのだが、京都文化工芸ミュージアムは撮影禁止なのである。

 ですので、他の三人は二分ぐらい見て隣のカフェテリアでお茶を飲んでいる。

 撮影できないなら、そうなっても仕方がないと思う。

 多分、慎太君も同じ考えだろう。

 そうしていると三時なった。

 すると、学芸員の人が来た。


「今から投射式万華鏡を上映します。部屋を暗くしますので動くのはできるだけ控えてください」


 注意事項を言うと部屋を暗くした。

 と言っても完全に暗くするわけじゃなく、薄暗い青い光は照らされている。

 音楽と共に四方の壁に万華鏡の画像が映し出された。

 こうやって見ていると、幻想的な雰囲気な感じ出ている。

 慎太君は映像を見ながら、映写機も見ている。

 変わっているっていうか、着眼点が違うというか……。

 その行動が人とは違ったアイデアを生み出しているからね……。

 それが才能なんだろうな。

 残念ながら、私にはそんな才能は持ち合わせていないな。

 五分後、上映が終了して私達は三人が居るカフェテリアに向かった。

 かなさんが私達の姿を見付けると手を振って場所を教えてくれた。

 席に着くと早速聞いてきた。


「どうだった?」

「まあまあかな」

「そうか」


 かなさんは私の簡単な返事にすぐに理解してくれた。

 そして、特に理由は聞かないでくれるから助かる。

 慎太君はコーヒーを飲みながら何かを考えていた。

 あれだけの数の万華鏡と幻想的は映像を見たら慎太君の創作力が発揮して無理はない。

 三十分ぐらい休憩してミュージアムから出た。

 

「これで撮影終了する?」


 かなさんが言うと少し黙った後、慎太君が言った。


「五か所撮れたからいいと思うけど、皆さんはどうですかね?」

「そうだね、堅田君の言う通りだね。これで終了しよう」


 課長の一言で撮影は終了した。

 三人は家に帰り、残ったのは私と慎太君だけだった。


「慎太君どうします、これから?」

「せっかくだし、もう少し京都に居ましょう。それとも何か用事ありましたか?」

「ううん、今日は一日空いている」

「じゃあ、決まり」

 

 それだけ言うと慎太君は私の手を握って歩き出した。

 地下鉄に乗って北山駅で降りた。

 ここまで来るとどこに行くのかわかった。

 階段を上がって地上に出ると京都植物園があった。

 入場料を支払って中に入ると家族連れとカップルがたくさんいた。


「やっぱり、家族連れとカップルが多いな。さとみさんと来て正解だった」

「ここに来たかったの?」

「はい。でも、ここに一人で来るのは勇気が要りますからね」


 私は辺りを見渡したが一人で居る人は本当にごく少数だ。

 なんとくなく、慎太君の言っている意味がわかる気がした。

 私達は園内を散歩した。

 といっても、冬に入る直前なので花などはあまり咲いていない。けど、紅葉がきれいに色付いていた。

 そしてくすのき並木に来た。

 この並木道を歩いているとまるで自分はドラマの主人公になった気分になる。

 でも、ドラマに出てくるのはいちょうだけどね。


「この並木道って東京の神宮外苑に似ていませんか?」

「うん、私もそう思った。けど、あれはいちょう並木だけどね」

「……いちょうだったのか、知らなかった……」

 

 慎太君は聞こえないように言ったつもりだけど、私の耳にはしっかり聞こえた。

 まさか、知らなかったとは思わなかった。

 有名だと思っていたのは私だけだったのかと考えてしまう。


「あっ、お兄ちゃん達だ」


 声がした方向を見たら、ミシガンクルーズの時に見た子供が居た。

「伸太君じゃない。元気だったかい?」


 慎太君は伸太君の視線に合わせながら言った。


「元気だよ。お兄ちゃん達はデート?」

「そうだよ、お兄ちゃん達はデートだよ。伸太君は今日ここに何しに来たのかな?」

「今日は図画工作で写生の宿題が出たからここで絵を描いたの」

「へえ、そうなんだ。良ければ、お兄ちゃんに見せてくれる?」

「いいよ」


 伸太君は私達に絵を見せてくれた。

 何の花だろう……。

 赤や白の花としかわからない。

 

「ポインセチアだね。上手に描けたね」

「でしょ」

 

 伸太君は満足げに返事した。

 ポインセチアだったのか。

 そんなに花には詳しくないけど、正直わからなかった。

 

「伸太君は一人で植物園に来たの?」

「ううん、お父さんとお母さんと来ているよ」

「どこに居るの?」

「多分、はす池に居るよ」

「じゃあ、今からそこに行こう」


 慎太君と私は伸太君と一緒にはす池に行く事になった。

 なぜか、慎太君は伸太君の右手を繫いで私は伸太君の左手を繫いでいた。

 あれ? なぜ、こんな構図になっているだろう……。

 伸太君は自分が見てるテレビ番組を慎太君に話していた。

 というよりも伸太君が一方的に言っている方が正しかった。

 それでも慎太君はその内容を一つ一つ真剣に聞いていた。

 そうこうしているうち、はす池に到着した。

 はす池のほとりに伸太君のご両親が居た。

 

「お父さん! お母さん!」


 伸太君が大声で呼ぶと二人とも驚いた。

 自分の子供に呼ばれただけのにそんなに驚くのかな?

 内心のそんな疑問を感じていた。

 そんな事を考えていたら、伸太君のお父さんが話かけてきた。


「確か、ミシガンでお会いしましたね?」

「はい。あの時はお世話になりました」

「いえいえ、大した事はしていませんよ。それよりもまた伸太が邪魔しているようで申し訳ない」


 そう言いながら、伸太君の頭を掴んで一緒に頭を下げた。

 そこまでする必要は無いのに……。

 私は慎太君を見ると晴れ着を身にまとったカップルを見ていた。

 そのカップルは何かの撮影をしていた。

 伸太君のお父さんは慎太君に声を掛けた。


「あの二人はもうすぐだね」

「もうすぐというのは結婚の事ですか?」

「そうだよ。ここは結婚式の撮影するにはいい場所だからね」

「お父さんとお母さんも結婚式の写真をここで撮ったよ」

「伸太、そんな事をなんで知っているんだ⁈」

「お盆休みの時、礼二叔父さんが言っていた」

「礼二、余計な事を……」


 苦虫を噛んだ顔をしていた。

 伸太君には知られたくない事だっただろうな……。

 私だったらそんな事は気にしないだけど……、男の人は知られたくないのかな?

 そして伸太君の家族と別れた。

 伸太君は私達に手を振った後、お父さんとお母さんに楽しそうに話しかけていた。


「まさか、植物園で伸太君に会うとは思わなかった」

「確かにそれは思った。けど、この時期に写生をするだったらここに来るしかないね」

「どうして?」

「まずは外は寒い。そうなると、温かい場所で写生したいから温室があるところになる。結果、植物園に行くことになる」


 それを言われるとわかるような気がする。

 

「今も昔も同じなんだな。僕も写生の宿題が出た時、ここで書いていたからな」

「えっ?」


 予想外の言葉に一瞬思考回路が止まった。

 でも、すぐに思考を開始する。

 そして、一つ結論が出た。


「もしかして、慎太君も同じ事をしていたの?」

「植物園の温室で栽培されているポインセチアを写生する。一つも違ったところが無かった」


 そう言った後、少しだけ苦笑いしていた。

 自分の子供の時にやったことがそっくりそのまま再現されたら、私だって苦笑いするだろうな……。

 そんな事を考えながら、植物園を出た。

 

「どうする、慎太君。これから?」


 私が尋ねると慎太君はスマホを取り出した。


「これ以上市内観光は時間的に無理ですから、三条辺りで食べて家に帰りましょうか?」

「うん。じゃあ、そうしよう」


 私達は三条に向かっている間に何を食べるか話し合っていた。

 

「三条と言えば……。あそこだね」

「……四嶋亭の事だと思うけど絶対に駄目だからね」

「やっぱり、駄目か」

「当たり前です」


 慎太君は釘を差すように言った。

 もちろん、初めから期待していない。

 あの料亭の価格設定は一般市民にはとても手が出せないからだ。

 昼コースでもかなり厳しい。

 四条通りにあるデパートの地下にも系列店がある。

 価格は三条と比べるとかなりリーズナブルになっているが、それでも元々が高いからここでも手が出しにくい。

 けど、すき焼きは食べたいので四嶋亭の近くにあるさつき軒ですき焼き定食を食べて帰宅した。


 一か月後。

 私達は京都大津電気鉄道本社の会議室に居た。

 二週間前、この様な企画があると電話に打診したらたまたまビワイチのテレビ取材を見ていた人が対応してくれて、「是非とも、お会いしたい」と答えがきた。

 ここで京都大津電気鉄道の事を簡単に説明。

 京都大津電気鉄道ができる前は京都鉄道交通と大都(だいと)電気鉄道の二つの鉄道会社だった。

 しかし、京都鉄道交通は地下鉄設営の時に発生した巨額な建設費がなかなか償還されない事、大都電気鉄道は利用客の伸び悩みでお互い赤字状態。

 その結果、大都電気鉄道は撤退を決めた。

 大津市と京都市はそれでは困るので、大津市と京都市と京都鉄道交通と大都電気鉄道の二つ自治体と二つ企業が出資する京都大津電気鉄道という第三セクターができた。

 

「お待たせしました」


 そう言いながら、男性三人が入室してきた。

 一人は六十歳ぐらいの年配の方で後の二人は私より三つか四つぐらい年上の人達だ。  

 私達は名刺交換した。

 六十歳ぐらいの方が(いずみ)さん、その部下と思われる二人が(いま)さんと(かつ)さんだ。

 慎太君は電話でできなかった部分をスライドを使いながら説明をした。

 三人の男性を見ると泉さんと今さんはかなり食い付いているが、勝さんはあまり反応が良くない。

 完璧とは言わないが決して悪いとは思わない。

 なのにここまで食い付かないとは少し気になる。

 一通りの説明を終えると部屋を暗くして動画を流した。

 あれ? 何か違う。

 そう会社で見た動画と一部違うのだ。

 私は相手先に気が付かれないように慎太君に近付く。


「これ映像違うよね?」

「違う。なんでこの映像が流れているの?」

「わからない」


 やっぱり、違っていた。

 動画は企画に沿っているが映像はあの時撮ったものとは少しだけ違う。

 坂本大社の紅葉について会話が流れていたからだ。

 さすがにこの動画は恥ずかしい。

 しかし、止めるわけにはいかない。

 動画が終わるのを待つことした。

 長い。この動画こんなに長かったかな?

 みさき公園を撮影する前に醍醐寺の散策まで撮られている。

 この様子だとあれの撮られているだろう。

 やっぱり、京都植物園のデートも撮られていた。

 やっと動画が終わった。

 恥ずかしかった。

 仕事じゃなかった逃げ出したいところだ。

 幸い、相手先には気付かれていない事だった。

 部屋を明るくした。

 相手先の人達の顔を見る。かなり渋い顔をしている。

 慎太君を見ると落ち着いている。

 どうして、この状況で落ち着いていられるの?

 私にはそこまでの度胸ない。

 そんな事を考えていると慎太君が喋る。


「動画を見て頂きありがとうございました。なぜ、この様な動画にしたかというと一般な映像だと建物の紹介や風景が多いと自分は思っています。もちろん、それでも魅力は十分に伝わりますが自分は敢えて自分達が出て別な角度で魅力を伝えることにしました」

「なるほど、君の意見は一理ありますね」


 やった。泉さんの好感触を掴めた。

 喜んでいるのもつかの間、泉さんは話を続けた。


「でも、あの動画を見ているとカップル向けに作られた感じがするだけど。それについてはどうかなと思うけどね」


 やっぱり、突かれた。

 私の不安が当たった。

 どうやって、返そう。

 

「確かに今の動画を見てもらうとそう取られても仕方ないと思います。ですが、自分たちがあくまでも外国人旅行者向けPR動画を作っています。画面の下に英訳文を出しています」


 すぐに慎太君は回答した。

 まるで、この質問が来ることがわかっていたのかと思うぐらいに。

 更に回答は続いた。


「なんで男女のペアの二人だけにしたかというと一人だと画的に寂しいし、三人以上になると風景が狭くなるか引き画になってしまい人物がわかりづらくなります。同性同士だと話がずれていく可能性が有ります。男女のペアなら会話が成立しやすいし、見栄えもいいと思いこのような設定しました」

「うーん、そこまで考えているとはさすがとしか言えないね」


 ここまでしっかりした回答を相手もこれ以上質問できない。

 

「あの、お二人は何か意見があるか?」

「自分はそのままとは使うわけにはいかないですけど、採用したいですね」


 スライドで説明していた時に関心を示してくれた今さんだ。

 二人はいい感触だ。

 後は勝さんだけだ。

 私はいまいち関心が無い人を見る。


「僕、いえ私はこの案には乗る気は無いですね」

「それどうしてでしょうか?」

「永原さん、京都は既にこの手の情報はたくさんあります。それが一つ増えただけです」

「ですが、この手の動画は他には無いと思いますが……」

「確かにこの手の動画はありませんが、それでもこの案には乗る気は無いです」


 これは厳しい。

 けど、この人を納得させないと採用されなくなる。

 ここなんとかして乗り越えないと……。

 私はそう考えていると今さんが勝さんに突っ掛かるように言う。

 

「どうして京都鉄道交通さんはいいものはいいと言えないのかね」

「大都さんと違いますから」

「どういう意味だ?」

「いいものだとよく考えもせず取り入れて、結局赤字にしてしまう。うちは慎重に判断しています。これもいいとは思いますが、採用まで行きません」

「なんやと。あなたのところも赤字だろうが」

「赤字は赤字ですけど、内容が違います」

「止めてください、商談中ですから」


 二人がけんかしそうなところを泉さんがまあまあと言いながら止めた。

 私がはらはらしていると慎太君が三人に声をかけた。


「そちら側の諸事情はわかりかねますが、僕が見ている限り京都鉄道交通側は不採用で大都側は採用でよろしいでしょうか?」

「うーん、どうしようかな?」

「私はこの案は採用しません」

「自分は先程言いましたが、そのまま使うことはできませんが採用したいです」

「少しはわしの意見も聞いてほしいだけど……」


 二人が即決してしまい泉さんの出る幕が無かった。

 私はこの光景に疑問を感じていたが話はどんどん進行していた。


「とりあえず、大都電気鉄道さんだけでも採用してくれるとこちらしては助かるですけど、どうでしょうか? もちろん、修正はさせていただきます」

「では、よろしくお願いします」

「ありがとうございます。そちら側の期待に応えられるように努めます」


 慎太君と今さんと握手した。

 手を離した後、慎太君は勝さんにところに寄る。


「見てもらったと思いますが大都電気鉄道さんと契約しましたが、QRコードに関しては京都鉄道交通さんの協力も必要です。どうか、ポスターとカードにQRコードを載せてください」


 慎太君は深々と頭を下げた。

 その行動に相手は驚く。


「ちょ、ちょっと待ってください! ポスターなら載せることできますがカードは今まで発行した物を破棄することになりますよ! それはいくらなんでも無理です!」

「でも、協力してもらわないとこの企画が成立しません」


 それだけ言うと勝さんは腕を組んで考えた。

 その時、私は勝さんの不敵な顔を見た。


「じゃあ、無理矢理カードに載せますので印刷代を負担してください」


 と言いながら電卓を慎太君に見せた。


「こんなにかかるですか?!」

「これでぐらい出してもらわないとこちらが困ります。駄目なら、この企画が成立しませんよ」


 慎太君はかなり悩んでいる。

 私は電卓を見た。

 その数字を見て驚く。


「この金額は高すぎます!」

「これぐらいが普通ですよ」

「そんな事ないです! 私の友達は印刷屋です。それに私は事務のアルバイトもした事あります。だから、印刷の見積もりもしたことあります。枚数にもよりますが千枚だったらこれぐらいですよ」


 私は電卓を打って勝さんに見せた。

 それを見て勝さんは渋い顔した。

 やっぱり……。


「この金額でも京都鉄道交通さんには一割の利益はあります。これを断わるなら、京都鉄道交通さんのカードを一旦全部こちらで預からせてもらって、こちらで印刷しますがどうでしょうか?」

「……わかりました、この金額でお願いします」


 勝さんは自分の考えが見破られた事がわかったのか、素直に私の条件を飲んだ。

 この後、納期や映像の修正点と金額など話し合いをした。

 二時間後、それらを書かれた契約書にお互い名前をサインした。

 私達は三人に見送られて京都大津電気鉄道本社を出た。


「さとみさん、助けてくれてありがとう」

「いいですよ。むしろ、慎太君の手助けできて良かった」

「さとみさんが印刷屋でアルバイトしたことあったおかげです」

「まさか、大学時代の経験が役に立つとは思いませんでした」


 本当に役に立つとは……、人生何が起こるかわからないものだ。

 そして、あの事を思い出す。


「それにしても勝さんは酷いです。人の足元を見て暴利と言ってもいいぐらいの金額を出すなんて、勝さんとは今後お付き合いしたくないです」

「自分も同じ意見だけど、仕事だからそんなわけいかないだろうね。この先も」


 やっぱり、そうなるか……。

 でも、勝さんとは仕事したくないな。


「さとみさん、これ以上気にしても仕方ないですから、気分を切り替えていきましょう」

「うん、そうする」


 私は慎太君に励まされて、私達は職場に戻った。

 

 一か月後。

 大都電気鉄道さんから指示された通りの仕様に仕上げた動画が今日から配信される。

 私は念の為みんなに聞く。 


「本当に配信するですか?」

「さとちゃん、今さら何を言っているの?」

「そうよ。ここまで来たら、突き進むだけよ」


 ともさんとかなさんは出ていないからそういう事を言えますけど、出ている者としては嫌なんです。

 なんでこんな仕様になってしまったのだろう……。

 確かに大都さんにはこの線で行ってほしいとは言われたけど……。

 正直、後悔しかない……。

 そんな事を思っていたら、慎太君が動画をホームページに上げた。

 潔いな……、私はとってもあんな風にはなれない。

 

「じゃあ、動画を見ますか」

「動画見るの?!」

「そ、そうだよ、さとみさん。ちゃんと、動画が問題無く作動するか確かめないと」

「そ、そうだよね」


 そうだ、これはあくまでも仕事だから恥ずかしがってはいけない。

 慎太君みたいに堂々としていないと。

 動画を流し始めた。

 うーん、やっぱり恥ずかしい。

 私は慎太君を見る。

 真剣な表情で動画を見ている。

 もちろん、この動画は何十回も見ている。

 それでもどこかに不備が無いか確かめる。

 やっぱり、この時の慎太君はいい顔している。

 そうしていると視線が感じたので、振り向くとともさんとかなさんがニヤニヤしていた。


「さとちゃん、堅田君を見るじゃなくて動画を見るだよ」

「動画に映っている堅田君よりも実物の堅田君が見たいだよ」

「そうか、あはは」

「もう、からかわないでよ」


 私は二人を叩く。

 と言っても力を一切は入れていない。

 

「あのさ、今仕事中なんだけど……」


 慎太君は小さな声で呆れるように呟いていた。

 結局、動画のチェックは慎太君一人でやっていた。

 ごめんね、慎太君。

 

 昼休み。

 私達は昼食を終えて動画の再生回数を見ていた。

 

「……三回」

「少ない」

「その一つは自分達が見た分だから、実質は二だね」

「大丈夫かな?」


 私達が心配していると慎太君が外から戻ってきた。

 そして、動画再生回数を見た。


「三回か。まあ、初日だからこんなものだね」

「「「それでいいの?!」」」


 慎太君の予想外な反応に私達は驚く。

 それを見て慎太君も驚いた。


「なんで、そんなに驚くのですか?」

「だって、三回だよ。三回だよ。少なすぎるよ」

「今日は月曜日だし、観光はオフシーズンだからこんなものだよ」

「でも……」


 私が不安そうしていると慎太君は頭を描きながら言った。


「さとみさん、これで終わりじゃないですよ。再生回数が一週間過ぎても百回越えなかったら、次の作戦はありますよ」

「そうなんだ。で、次の作戦って何?」

「海外中心に発行されている旅行雑誌に売り込みに行く」

「なるほど、認知度を上げるだね」

「大変だけど、それしかないからね」

 

 慎太君が一通り説明すると私達は安心した。

 

 一週間後。

 私達はパソコンの画面を見て目を疑った。


「一万回……」

「嘘でしょ?」

「どうして、こんな事になったの?」


 かなさんは再生回数の履歴が見れる画面を出した。

 月曜日四回。

 火曜日十一回。

 水曜日十二回。

 木曜日十五回。

 金曜日五十四回。

 土曜日三千五回。

 日曜日一万二百五十二回。


「金曜日ぐらいの増えた方なら認知されてきたなと思えるけど、土曜日曜の増え方は明らかに異常だよね」

「うん、確かに」

「でも、なんでこんなに増えただろう?」


 ともさんの疑問に私とかなさんは答えることはできなかった。

 もしかして、動画に答えがあると思って見てみたがわからなかった。

 

「あ、これだ!」


 かなさんが大声で叫んだ。

 びっくりしながら、私とともさんはかなさんのところに行った。


「何があったのですか?」

「これだよ、これ!」


 かなさんのパソコンの画面には慎太君の顔が出ていた。

 下のコメント欄には「この男の子、カッコいい!(^^)!」と書かれていた。

 別の画像にはみさき公園で女の人が座っていて、コメント欄には「堅田さんと同じベンチに座りました(*^-^*)」とご機嫌なコメントが書かれていた。

 他に同じような画像とコメントが無数に出てきた。


「これが原因だね」

「そうかもしれない。けど、堅田君ってこんなに有名だったけ?」

「この動画を機に有名になってしまいましたね」

「でも、結果はどうあれこの動画が世間に広まったから良かったね」


 私達は動画が有名になったことを喜んだ。

 この事を慎太君に伝えると「予定とは違った方向に進んでしまったな」と少しがっかりしていた。


「明日から旅行雑誌を出版している会社に売り込みに行ってくる」


 そうだよね、元々は海外旅行者の為に作ったものだからね。

 せめて、売り込みが成功するように企画を手伝おう。

 

 その日の午後。

 慎太君は京都本社に行った。

 多分と言うより間違いなく京都大津電気鉄道の動画の件だろう。

 午前中、電話で二十分以上やりとりしていたが結局折り合いが付かず京都本社に行く事になった。

 行く間際「何でこんな展開になるだろう……」と呟いていた。

 どうやら、何かに巻き込まれたようだ。

 助けたいけど、同行できないから何も出来なかった。

 

 終業時間が終わる直前に慎太君が戻ってきた。

 かなり疲れた顔をしていた。

 

「大丈夫? 顔色が良くないよ」

「うん、大丈夫」


 全然、大丈夫に見えない。

 さすがのかなさんともさんもこの状況ではからかうことはしなかった。

 私は休憩室からミネラルウオーターを持ってきて慎太君に渡した。

 一口飲むと安堵を付いていた。

 

「ありがとうございます」

「それはいいけど、何があったの?」

「さっき大都電気鉄道の社長と会ってきた」

「「「大都電気鉄道の社長!」」」

「そう」


 そう言うとミネラルウオーターをまた飲んだ。


「で、その社長さんと何を話してきたの?」

「始めから話すね。あの動画が好評だから第二第三を作りたいと大都さんが申してきただよ」

「いい話じゃない」

「ここだけ聞けばいい話なんですけど」

「悪い話なの?」

「その動画に僕が出演してほしいと言われたですよ」

「ああ、そういう事ね」


 かなさんが言うとともさんは頷いた


「始めは大都さんの広報部長と常務、自分とうちの事務部長と話していたけど、なかなか大都さんも折れてくれなくて時間切れを狙っていたら大都さんの社長が京都本社に来まして『どうしても君が出演してほしいというか君じゃないと困る。この勢いを止めるわけにはいかない。他の人では駄目なんだ』と物凄い勢い説得されまして、それでも断わっていたけど『じゃあ、この前上げた動画の掛かった費用は当社が負担する。そして、第二第三動画の製作費は当社が負担する事を約束する』と言ったら、うちの事務部長が大都さん側に寝返りして、結局引き受けることになった」


 なるほど、こんな事があったら疲れるもの無理はない。

 この様子だとうちの事務部長は相当押しただろうな。

 しかも大都電気鉄道の社長が出てくるなんて慎太君の事を余程期待しているだな。

 でも、その期待に潰されそうになっている慎太君がここに居るだけど……。

 私は慎太君と一緒に家に向かっていた。

 あまりにも元気が無いから心配で仕方ないからだ。


「慎太君、深く考えても仕方ないよ。私もできる限り協力するから元気出して」

「心配してくれてありがとう。うん、さとみさんの言う通りだね。そうするよ」


 そう言ったけど、やっぱり元気が無かった。

 一度だけならなんとかできるが二度三度となるとしんどい。

 基本的に自分達の仕事は裏方みたいなものだからこのような仕事は正直苦手と言っても等しい。

 そんなこんなしているうちに家の近くに来ていた。

 私は思い切って言った。


「ね、家でご飯一緒に食べていい?」


 思いがけない言葉に慎太君は驚く。


「ご、ご飯ですか?」

「はい。駄目でしょうか?」

「い、いいですけど。家にご飯もおかずになるようなものは無いから買いに行かないと駄目なんですけど……」

「じゃあ、一緒に買いに行きましょう」


 私と慎太君は近くスーパーに買い物に行くことになった。

 夕飯のメニューはカレーライスにした。

 初めて慎太君に作る料理だから、変に凝った物を作るより定番の方がいい。

 一応、リクエストを聞いたけど「さとみさんの家で普段食べているカレーが食べたい」と言ってくれた。

 家に戻り、早速カレーを作りを始める。

 四十分後、カレーが完成した。

 ご飯は炊く時間が無かった為、レンジでできる物した。

 慎太君は手を合わせて「いただきます」と言うと私は「どうぞ、召し上がってください」と勧めた。

 が、口に合うか心配で仕方がない。

 こればかりはなんともならないから。

 食べ終えたが黙っている。

 あれ、口にあわなかったかな?

 心配していたら……。

 

「これが永原家のカレーなんですね。とても美味しかったです。ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」


 良かった、美味しいって言ってくれた。

 思わず顔がほころんでしまう。

 それを見ていた慎太君も笑顔になる。

 

「さあ、片付けしますか」

「私がやるよ」

「いいよ。作ってもらっただけでもありがたいのに片付けまでさせるのは失礼だからね」


 そう言いながら、食器を持って洗い場に向かった。

 私は食器を洗う慎太君を見ていた。

 それに気付いたのか、声を掛けてきた。


「何か、あった?」

「ううん、何となく見ていただけ」

「そんなに見られると恥ずかしいですよ」

「じゃあ、もっと見る」

 

 意地悪して更に見た。

 洗い物を終えた慎太君は私の側に来た。

 そして顔をそっと近づける。

 私は目を閉じて、キスをした。

 ああ、やっぱり私は慎太君のことが好きなんだな。

 そんな事を思いながらキスする。

 唇が離れると目を開けると真っ赤になった慎太君が居た。

 多分、いや間違いなく私も真っ赤になっているだろう。

 もう一度、キスをしようと顔を近づけたら私のスマホの着信音が鳴り出した。

 私達は驚いて離れてしまった。

 画面を見たら家からだった。


「もしもし」

「さとみ? お母さんだけど、まだ会社に居るの?」

「会社にはいないけど、草津に居る」

「……なんかよくわからないけど、草津には居るんだね」

「居るよ」

「今ね、湖東湖北地域が強風でね琵琶湖線と北陸線が運転見合わせになっているの」

「電車、動いていないの?」

「動いていないよ。お父さんが車で向かいに行くと言っているけど、どうする?」


 私はそれだけ聞くと送話口を塞いだ。


「どうしたの?」

「強風で電車が止まっているだって。お父さんがここに来るって言っているけど……」


 それを聞いたら慎太君が固まった。

 まあ、お父さんに対面することになると思うとこうなるわね……。

 受話器から声が聞こえる。


「もしもし」

「良かった繫がっていた。誰か居るの? 代わってくれる?」

「ちょっと待って下さい」


 再び送話口を塞ぐ。


「ねえ、お母さんが代わってほしいって」

「……わかった」


 私は慎太君にスマホを渡した。

 

「初めまして、自分は堅田慎太と申します。いつもさとみさん……じゃなくて、永原さんにはお世話になっています。あ、はい。お付き合いさせてもらってます。……はい、二か月ぐらい前からです。……はい、そうです。……はい、そういう事になります。……はい。……はい。ところで……はい、そうです。あの……はい。……はい。……はい」


 ……お母さん、少しは慎太君にも喋らせてあげて。

 約三分ぐらい会話の後(というより一方的にお母さんが喋っていたと思う)、スマホが私の手元に戻ってきた。

 少しだけ慎太君が疲れた顔していた。


「もしもし」

「もしもしさとみ、堅田さんいい人だね」


 一方的に喋っていて、慎太君の性格がわかるのか?


「だから、今日は堅田さんの家に泊まりなさい」

「うん? 今、言った?」

「だから、今日は堅田さんの家に泊まりなさい」

「なんで、そうなるの? それとだからの使い方が違うよ」

「いいじゃないの、そんな細かい事」


 いや、結構重要な事を言っているよ。

 

「お父さんには適当に言っておくから、心配せずに泊まりなさい。じゃあ」

「じゃあ。じゃなくて、もしもし! もしもし!」


 切れてしまった。

 お母さんは時々とんでもないことを言い出すからな。

 慎太君を見るとどうやら私と同じような事を言われたらしく少し対応に困っていた。

 

「ねえ、もしかしてお母さんに私を家に泊めてもらえないかって言われましたか?」

「それも言われましたが、……それ以上のことも言われました」


 母よ、慎太君に何を言った。

 恐る恐る尋ねる。


「……なんて言っていたの?」

「……娘をたくさん可愛がって下さいねと言われました」


 それを言った後、慎太君の顔が赤くなっていた。

 なんて事を言っているの、お母さんは!

 私は母の恥ずかしい発言に顔が赤くなる。

 気まずい空気が漂う。

 どうしよう? この空気をどうやって変えよう。


「さとみさん、取りあえず泊まる準備しませんか?」


 その発言に思わず身構えてしまう。

 その行動に慎太君は慌てる。


「決して変な意味じゃなくて、この家一度もお客さんを泊めた事が無いから準備しないといけないですよ」

「そう、そうですよね。早速、準備しましょう」


 お母さんが変な事言うから、変に意識をしてしまった。

 私達は家を出て駅前に大型ショッピングセンターに行った。

 近くにもコンビニはあるがそれでは色々不都合があるからだ。


「じゃあ、慎太君は明日の朝ご飯を買いに行ってくれますか? 私は二階に行くからお願いね」

「僕も一緒に行くよ」

「それは駄目」


 両手でバツを出した。

 しかし、慎太君は首を傾げた。

 ああ、わかっていない。


「明日、仕事行くのに今日と同じ服装では行けないでしょう。だから、その服を買いに行くの」

「じゃあ、一緒に選びましょう」

 

 やっぱり、わかっていない。

 私は諦めて本当の事を言う。


「あの服も買うけど、寝る時に服のままでは寝にくいから寝巻を買いたいし、それに……ね」


 それだけ言うと慎太君の顔が変わった。

 やっと気付いてくれた。


「ごめんなさい、気付くのが遅くて」

「わかってくれたら、いいですよ」


 それだけ言うとお互い目的の物を買いに行った。

 服と寝巻はすぐに決めることができたが問題はあれだ。

 そう、下着だ。

 本来なら専門店に行きたいのだが、すでに専門店は閉店している。

 下着売り場を周ってみると、結構かわいいデザインが多い。

 けど、これが慎太君の好みとなると話は別だ。

 いかんせん、好みは人それぞれだから。

 いずれはこういう事もするだろうと思っていたけど、まさか今日になるとは……。

 こんな事なら、早くリサーチをかけるべきだった。

 私は慎太君の性格を考えてみた。

 真面目な人だから、派手なよりも清楚の方がいいだろう。

 清楚な下着を買った。

 一階に下りる慎太君は既に買い物を終えていた。


「お待たせしてごめんなさい」

「いいですよ。今、来たところですから」


 私達は家に向かった。

 家に着いて、慎太君は風呂を沸かし始めた。

 私は慎太君が買った物を冷蔵庫の中に入れようとしたら、慎太君が来て「僕が入れますから、さとみさんは風呂が沸くまでゆっくりくつろいでください」と言いながら部屋に入れられた。

 テレビを見ながら楽しく会話していたら、風呂が沸いた。

 慎太君は私に先に入ること勧めてきたので入ることにした。

 髪と身体を洗い湯船に入る。

 私はあの事を考えていた。

 マイバックの中にドラッグストアの紙袋があったことを。

 ただ、一つ疑問を感じた。

 薬やサプリメントなら普通ならビニール袋か薄い白い紙袋だ。

 でも、マイバックに入っていたのは厚手の茶色紙袋だ。

 女性ならあれを買った時に入れて貰えることがあるが、男性があれを買った時に……まずその状況が無いか。

 じゃあ、男性は何を買ったら茶色の紙袋に入れるだろう。

 天井を見ながら考える。

 もしかして……。

 可能性はあるかもしれない。

 私は湯船から出て、もう一度身体を洗った。

 かなりに念入りに洗った。

 風呂から出ると慎太君は風呂場に行った。

 部屋には布団一つが引いてあった。

 私はあの紙袋を探す。

 ゴミ箱の中にあった。

 もちろん、中身はカラだ。

 もし、私が考えている物なら取り出しやすいところに置いてあるはず。

 例え暗くてもだ。

 私はテレビ台の引き出しを開けた。

 見つかった。

 二十分後、慎太君が風呂場から戻ってきた。

 慎太君はスマホのタイマーをセットした。


「明日の準備もしたから、早く寝ましょう」

「そうだね。準備万端だね」

 

 そう言いながら、布団からさっき見つけた物を出した。

 それを見た瞬間、慎太君の顔が青くなった。

 私が出したの男性用避妊具だ。


「これ、さっきドラッグストア買ってきたよね?」

「……はい。今晩、必要かもしれないと思いまして」

 

 その言葉を聞いて、溜息が出てしまった。


「今から慎太君の考えている準備の事を言うけど最後まで聞いてくれる?」

「はい」

「私がここに泊まると決まった時からどうやったら私とエッチをできるか考えていたでしょう。いつも慎太君なら泊まると決まった時点で、布団一式を買っている。けど、買ってしまうとチャンスが大幅に減ってしまう。だから、わかっていたけど口には出さなかった。そして、一緒の布団に入って雰囲気を作る。だけど、私が『安全日じゃないからダメ』とか『赤ちゃんができるからダメ』と言われる可能性もあるから避妊具を買った。そうすれば、慎太君の思った通りになる。これが慎太君が考えていた準備だけど、合っていますか?」

「……全部、合っています」


 慎太君は頭を下げて両手付いていた。

 八割ぐらい合っているかなと思っていたけど、まさか全部とは思わなかった。

 

「いつから、わかっていたですか?」

「ドラッグストアの紙袋を見て、入浴中にもしかしたらと思い部屋中探したら見つけました」

「しまった。これだけは自分で持っていれば良かった……」

 

 かなり落ち込んでいる。

 後少しだっただけにショックは大きいだろうな。

 

「ねえ、慎太君」

「何?」

「そんなにしたいの?」

「……はい」

「明日も仕事があるから一晩中は無理だけど、一回だけならいいよ」

「いいの?! 本当に?!」


 慎太君の顔が明るくなった。

 テンションは上がるだろうと思っていたがここまで上がるとは……。

 一応、くぎを刺しておこう。

 

「でも、自己中心的だったらすぐに止めるよ」

「しない、しません。約束します」

「それと……、どんなことあっても私を受け入れてくれる?」

「受け入れます」


 大丈夫かな……。

 でも、今さら無しとは言えないからな。

 ここは慎太君の言葉を信じよう。

 私は布団に入った。

 続いて慎太君も布団に入る。

 

「じゃあ、電気消しますね」

「豆球だけ点けてくれますか?」

「はい、いいですよ」


 リモコンで豆球だけ点けてくれた。

 慎太君が私の顔をみつめる。

 私も慎太君の顔をみつめる。

 

「さとみさん」

「慎太君」

 

 お互い名前を言った後、慎太君は私の背中に手をまわす。

 私は慎太君の首に手をまわす。

 そしてお互いの体を求め合った。


 次の朝。

 スマホのアラームで目を覚ました。

 慎太君は既に起きていた。

 

「おはよう、さとみさん」

「おはよう、慎太君。いつ起きたの?」

「五分ぐらい前かな」

「そうなんだ」


 五分前から起きているんだ……。

 そんな事を思いながら起きようと思ったら、ある事に気付いた。

 

「ねえ、五分間何をしていたの?」

「ただ、さとみさんの可愛い寝顔を見ていただけです」


 それを聞いて顔が赤くなる。

 そして、布団を頭から被った。

 

「なんで隠れるです?」

「だって、恥ずかしい」


 顔をだけ出して言う。

 

「恥ずかしがること無いですよ。昨日の晩なんか、途中からは積極的に迫ってきたじゃないですか」

「言わないで!」


 慎太君の言葉を遮るぐらい大声で言った。

 確かに途中から私が主体になっていたな……。

 いつもそんなつもりは無いだけど、盛り上がる連れて我を忘れしまう。

 これが私の一番悪い癖だ。

 私は軽く慎太君の手を引っ張る。


「ねえ、こんな私は嫌い?」

「何がですか?」

「だって、大人しそうに見えてエッチな事になると人が変わったぐらい積極的になるから」


 最後の方は自分でもわかるぐらい声が小さくなっていた。


「僕はそんな事では嫌いになりませんよ」

「でも、そうやって言っていても今まで付き合っていた人達は何か違う、そんな人とは思わなかったと言って、結局は離れて行ってしまうだよね」


 それを言うと慎太君は私を強く抱きしめた。

 

「僕はそんな事ぐらいで離れたりしなせんよ」


 優しく耳元で言った。

 

「だって、人は本当の部分は隠しているのが普通ですから。それを見せてくれたことは僕を信用してくれた証拠。だったら、それを裏切ることはできません」

 

 その言葉を聞いて、私は涙が出てきた。

 それを見た慎太君が慌てる。


「どうしたですか? 僕、何か変なことを言いましたか?」

「ううん、違うの。慎太君に出会えたことが嬉しかったです」


 涙を拭いて話を続ける。


「色んな男性と出会ったけど、私を受けくれた人は慎太君だけでしたから。正直、私を受け入れる男性はいないと思っていました」

「それじゃあ、その期待を裏切ることはできませんね」

 

 慎太君は笑顔で言う、私も笑顔になった。

 この幸せがいつまでも続きますように。

 スマホのアラームがまた鳴った。


「ああ、時間だ。もう少しさとみさんとこうしていたかったな」


 名残惜しそうに私から離れた。

 

「その気持ちは私も同じだよ」


 慎太君の耳には届かないぐらい小さな声で言った。

 もし、聞こえたら調子に乗るかもしれないから。

 私達は起き上がり仕事に行く準備と朝食の準備を始めた。


 お昼。

 私はともさんとかなさんの三人で昼食を取っていた。


「そういえば、さとちゃん。昨日は大変だったね」

「かなさん、何が?」

「何がって、昨日は強風で琵琶湖線が止まったでしょう?」


 そうだ、すっかり忘れていた。


「そう。強風で電車が動かなくなって困ったよ」


 私は慌てて話を合わせた。


「で、どこで泊まったの?」


 しまった、そこまで考えていなかった。

 早く答えないと矢継ぎ早に質問される。


「駅から少し離れたホテルですよ」

「へえ、名前は?」

「名前は忘れてしまいました」

「料金は?」

「六千円ぐらいかな」


 少し安すぎたかな。


「私がホテルの名前を当てようか?」

「え?」


 私が料金の事を考えていたら、かなさんが予想外の事を言ったので驚いてしまう。


「ずばりホテルの名前は……、ホテル堅田!」

「ちょっと待てください。何で堅田君の家に泊まったってわかるですか?」

「だって、さとちゃんはいつもは駅から来るのに、今日は全く反対から来た」


 そうか、来るところ見られていたのか……。

 遠回りしていいから駅から来れば良かった。


「それだけじゃないよ。いつもなら、さとちゃんと堅田君はほぼ同時に来るのに今日だけ十分のズレがあった」

「そこまで知っているですか……?」

「何か気になるだよね、二人がね」


 そんなところ気にしないでください。


「ところで永原さん、昨日の夜は堅田君とどのように過ごされましたか?」


 ともさんがスプーンをマイクに見立てて聞いてきた。

 かなさんは近くにあったテレビのリモコンを私の前に差し出した。

 多分、ICレコーダーの見立てているのだろう。

 本当にこういう時は二人の息が合うなと思う。


「普通にご飯を食べて、テレビを見ていました」

「それだけですか?」

「それだけです」

「そんな事無いですよね。恋人同士の二人が同じ部屋に居るのに何も無いっておかしいですよ」

「本当に何もありません」

「本当ですか?」

「本当です。プライベートの事なのでコメントは差し控えます」

「ちょっとだけいいですから、教えてください」

「プライベートの事なのでコメントは差し控えます」


 私が少し強く言うと二人はそれ以上言わなかった。

 

「ところで昨日は家に帰れなかったけど、家には連絡はしたの?」


 どうやら、私が不機嫌になったと思ったのかともさんが話題を変えてきた。


「実は琵琶湖線が止まっている事をお母さんから聞いたの」

「連絡を貰ったんだ。それはそれで良かったね」

「うん。助かったよ」

「その時に堅田君の家に泊まる事を伝えたんだ」

「いえ、どっちらかいうとお母さんが堅田君に私を泊めてほしいとお願いしたんだよ」

「永原のお母さん、顔も知らない男性に頼むなんて大胆だね」

「大胆というより何も考えていないと言った方が正しいですね」

「お父さんにも言った?」

「多分、お母さんが伝えたと思います」

「そういう事は直接言った方がいいよ。私、経験あるけど家に帰った後うんざりするぐらい問い詰められたからね」


 それを聞くと私のお父さんもやりそうな気がする。

 娘を持つ世間のお父さんはどこも一緒なんだな。


「昨日の夜はさとちゃんのお父さんは気が気では無かったと思うよ」

「きっとこんな感じだったと思うよ」


 私をそっちのけにともさんとかなさんは話を進めていく。


「さとみは彼氏の家に泊まるのか?」

「そうですよ。何かおかしいですか、お父さん」


 どうやら、かなさんはお父さん役でともさんはお母さん役みたいだ。


「おかしいだろう。いくら、電車が動かないからって彼氏の家に泊まる事は」

「でも、ホテルとか旅館に泊まるとお金がかかりますよ」

「だから、俺が迎えに行くって言っただろう。それを止めたのはお母さんだろう」

「だって、彼氏さんの家の泊まるだから迎えに必要は無いじゃないですか」

「だからって、男の家に泊まるのはどうか思うだが……」

「何を言っているですか、さとみは大人ですよ。彼氏が居てもおかしくない年齢です」

「それはそうだけど……」

「彼氏がいなくて、気付いたら四十歳になっていました。それでもいいですか?」

「それはそれで困る」

「だったら、彼氏が居ることに感謝しないと」

「うーん……」

「お父さん、落ち込まないでください」

「お母さんは落ち込まないのか?」

「落ち込ますよ。いつかはこの家から出て行くのかと思うと……。けど、好きなった男女をくっつくことは自然の摂理。私達ではどうにもなりませんよ」

「……そうだな」

「それに楽しみが一つ増えますよ」

「楽しみ? 何かあるのか?」

「十か月後には私達に孫が誕生するのですよ」

「避妊はしています!」


 黙って聞いていたが孫という言葉に思い切り反応してしまった。

 それを見たともさんとかなさんはニヤニヤしていた。

 しまった。これは昨日の夜の事を聞き出す為の芝居だったのか。

 

「やっぱり、していたんだ」

「まあ、始めからわかっていたけどね」

「それだったら、聞かないでくださいよ……」

「でも、事実は確認しないとね」

「だからって、ここまでしますか?」

「しないと変な勘違いする恐れがあるから、それだけは避けたいからね」

「余計な気遣いありがとうございます」


 呆れながら言う。

 でも、この事が聞けた事で満足したのかこれ以上聞く事はしなかった。

 この話が終わったと同時に慎太君が昼食から戻ってきた。

 あっ、戻ってきた。

 きっと、聞きに行くだろうな……思っていたが、二人とも行くこと無く普通にご飯を食べていた。

 良かったけど、これはこれで不安になる。

 何か企んでいそうで……。

 私は二人を見ていたが特に何もすること無く、一日が過ぎていた。

 

 一か月後、私と慎太君は四条大宮駅に居た。

 今日は大都電気鉄道の子会社の嵐山電車のPR動画撮影の日だ。

 

「さとみさん、いい天気になりましたね」

「本当ですね」

「今日と明日は四月上旬ぐらいの気温になるそうです」

「三月でその気温は嬉しいね」


 多分、ともさんとかなさんがこれを聞いたら「熟年夫婦か、あなたたちは」と言われそうな会話だ。

 でも、こういう会話でも私は嬉しい。

 そうこうしているうちに一台のマイクロバスが私達の目前に止まった。

 ドアが開くと一人の男性が降りてきた。


「堅田さん、お待たせしました」

「加納さん、今日はよろしくお願いします」

「永原さん、この方は大都電気鉄道広報部長の加納さん。加納さん、この方は自分と同じ会社に勤めている永原さんです」


 慎太君に紹介されて、私と加納さんは名刺交換をした。

 

「堅田さん、永原さんがなぜここに居るのですか?」

「えっ、今日は撮影ですよね?」

「はい、今日は撮影ですが……。あ、大変申し訳ありません。今回から、堅田さんの相手役を変えさせてもらう事を伝えるのを忘れてました。本当の申し訳ございません」

 

 加納さんは私達に対して深々と頭を下げていた。

 この頭の下げ方を見ていると普段から相当ミスをしているなとわかりたくないがわかってしまう。

 慎太君は加納さんを宥めていた。

 宥め終わると加納さんはバスに戻っていた。

 すると、加納さんが一人の女性を連れてきた。


「堅田さん、紹介します。この方が今回から撮影に参加してもらうことになりましたマキノアリサさんです」

「初めまして、マキノアリサです。撮影は初めてですが精一杯がんばりますのでよろしくお願いします」


 緊張しているのか、言葉が少し震えていた。

 でも、私が気にしたところはそこでは無かった。

 顔がとてつもなく美人だった。

 これなら私にとって代わられてもおかしくない。

 なんか嫌な予感がして仕方が無いです。

 その二に続く。

読んでくれましてありがとうございました。

最後まで読んでもらっておわかりと思いますが完成していません。

一応、頭の中では物語は完成しているがいかんせん素人が書いているのでつじつまを合わせるのにストーリーが追加されているという悪循環になってしまっている状態です。

できる限り早く完成つもりでいます。

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