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「ティヴィ!」

「…!パシフェ」


突然に聞こえた鋭い声に、未だ腕の中へ閉じ込めていたテインが弾かれた様に顔を上げて視線を彷徨わせた。

それに倣って俺も声の方へと向く。目元だけが見える甲冑に、腰に下がる鞘。その中に何が収められているかを認識すると、三週間前の事が蘇って体が震えた。そいつがあのときと同じ人間であるかは分からないが、荒げた声からすると、仲良くしてくれそうな雰囲気でないのは察せられる。


「ミツル、take」


テインは素早く俺の服の中へ冊子を捻じ込んだ。あまりの勢いの良さに変な声が出たが、焦った様子のテインには聞こえてすらいないようだ。

甲冑男ががちゃがちゃと歩み寄ってテインの腕を握る。幾ばくかの会話がなされた後、無遠慮にテインを引き寄せようと引っ張ったので俺は反射的にそれを阻止した。


「止め…ヴァデーカ!」

「ダーヴィ?」


物凄い睨まれた。んだよお前みたいな感じだろうか、足が竦み上がりそうになる。あのクソ甲冑野郎め、日本の警察だって拳銃使うのにはそれ相応の条件下じゃないと駄目なんだぞ、と心の中で罵倒してみたが震えは止まらない。目の色が違うからきっと奴ではないのだと繰り返し繰り返し念じながら、小僧がなめんなよと睨み返す。一瞬怯んだのでなんとかテインから引き剥がすことに成功した。

厳つい顔でよく子供に泣かれるのがコンプレックスだったが、このときばかりはこの顔で生んでくれた親に感謝した。


「あー、と…乱暴に、するな」


伝える言葉がない。止むを得ず日本語で言いながらテインを背に庇うように立つ。

パシフェは忌々しげに俺を睨み、けれど話が通じる相手ではないと思ったのだろう、テインへと言葉を投げる。彼女はふるふると首を振りながら答え、ぎゅと俺の服を掴んだ。


何を言い合っているのだろう。

…痴話喧嘩か?


「アンシトゥエル×××グァ、ラ×××」


エルの名前が聞こえて俺ははっとする。テインはその名を聞いた瞬間に縮み上がり、ぼろぼろと涙を零し始めた。再度テインへと腕を伸ばす男を阻もうとするが、彼女は応じて進み出た。


「テイン!」

「ミツル…だいじょ、ぶ」


弱々しい笑みに、胸の奥がざわつく。今行かせてはいけない気がした。エルの名前が出てきたということは、このタイミング的に考えても、テインの狼狽振りから考えても、さっきテインが教えてくれたことは不味かったのだ。だから、彼女は罪に問われようとしているのではないだろうか。

それならば、そうであるならば。


「来い、テイン!」


横抱きに掻っ攫う。びきりと腰が強張ったけれど、テインと男にとっては予想外の行動だったようで唖然としている間に室内へ紛れることができた。

出鱈目に走って一つの部屋に滑り込むと遅れて甲冑のがしゃがしゃという音が聞こえた。息を潜めていると廊下を走り抜けていく気配がする。


「は、は…良かった」


ずるりと扉を背にして座り込む。もうこれ以上は走れそうにない。

若い頃はできたことがやはり今となっては難しいのか。筋トレをはじめていてよかった、とぼんやり思う始末だった。

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