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「イディエルテアー××、××トゥエ×××…」


目の前の人間が何事かを早口で捲くし立てている。何を言っているのかさっぱりだけれど、威圧的な口調であることは察せられた。聞き取れた言葉から何か情報を得られないかとしばらく耳を傾けたが、英語でもなければ中国語でもない。多少聞き馴染みのあるその他の言語とも照らしてみるが、全く聞き覚えがない。知らない言語であることだけは確実だ。

そんな訳の分からない状況に混乱する最中、俺は目前の人間の格好に目を奪われた。どこかの西洋中世なんとやらの本で見たような甲冑姿。何かの撮影かにでも紛れ込んでしまったのだろうかと呆けていると苛立った様子の甲冑人間がこちらに歩み寄ってくる。何事かと思っている合間に、俺は頭を掴まれてその場に引き倒された。


「痛、って…」


キン、と不意に響いた金属音に言葉が詰まる。

両刃の、剣。

突きつけられているのは、金属特有の光沢を放つ、一振りの剣だ。


「パエテ」


頭が真っ白なまま鈍色のそれを凝視していたが、真っ直ぐにこちらへ向けられた一言に自然と体が震えた。低いながらも涼やかで、けれど身を貫くように鋭い声音。決して荒げた声ではないのに、怒りの色を感じ取れる。自分へ向けてか?と焦りなのか恐怖なのか自分でもよくわからない何かが胸中を占め、ぱたりと石畳に冷や汗が落ちたところで傍らの甲冑が動いた。

深く頭を垂れて跪き、床に右手を置く。耳障りな音と共に剣が床に落ちた。俺の目の前から恐怖対象は消え去ったが、硬いものを打ち鳴らしたような音が近付いてくるせいで緊張は解けない。


「××ェットラ××…テデ×××…」


甲冑の中から呪詛のような文言が聞こえる。相変わらずの早口且つ今度は声が小さいせいで殆ど聞き取れず、呪詛のようと思ったが実際はどうだか知れないし、知ったことではない。

俺は打ち付けられた体をゆっくりと動かして金属と革に覆われたその手元を見た。必死に押し隠しているが、震えている。そうか、呪詛ではなくて、祈りかと不意に理解した。そいつは許しを請うて、祈っているのだ。


近付く足音は程なくして、止まる。

涼やかな声が何事かを甲冑に囁いた。甲冑は一瞬硬直した後に一言二言の言葉を返し、伏した状態でその場を辞したようだった。俺はといえば、その涼やかな声の主に顎を捕らえられて上向かされた状態で、甲冑の行く末を視界の隅に押さえることしかできなかった。


『妾の声が、聞こえて?』


唐突に聞こえた日本語。しかも、耳で(・・)直接(・・)聞い(・・)た言(・・)葉ではない(・・・・・)


「あ、え?何…?」


まともな反応が出来ずにいた俺の目の前で、切れ長な瞳の麗しいという表現がぴったりな女性が愉しげに笑った。そこでようやく俺は脳内に聞こえた声と先程聞いた声が同じであると気付いた。

目を見開く俺の前で、彼女は更に笑みを深める。


『招かれ人でも通用するようだな?さて…混乱の最中になんだが、説明は言の葉に乗せる。受け取れ』

「…っ!?」


頭に手が置かれた。ちくりと刺すような痛みと共に大量の言葉の波がうねる。自分が思考した断片の言葉ではない、強制的に送られてくるFAXのような、説明だけを箇条書きにしたような言葉の羅列が押し寄せた。処理が追いつかない、でも強制的に言葉は送られる。まるで脳に焼き込まれているような感覚だ。体が意思もなく跳ね、パンクした俺はそのまま意識を失った。



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