【超短編】セーターを編む女
女はひたむきにセーターを編んでいた。恋人の誕生日にプレゼントするために、毎日少しずつ編みつづけているのだった。
やがてその日の朝になった。セーターはもうほとんど編み上がっている。あと少しで完成となったとき、女はふと手を止めて、編み針の先をじっと見つめた。それからそっと目を閉じて、セーターを受け取る彼の照れくさそうな顔を想像した。自然と涙が頬を伝って流れてくる。
しばらくして女は決意したように目を開けると、編んでいたセーターをゆっくりとほどき始めた。まるで時間を少しずつ後戻りさせるかのように。そして、すべての毛糸をほどき終わると、テーブルの上に置いた恋人の写真に話しかけた。「ごめんね、来年の誕生日にはちゃんと完成させて渡すからね」
三年前のその日の朝、彼女がちょうどセーターを編み上げてしまったとき、恋人が交通事故に遭って即死したという知らせを受けたのだった。それから毎年、一年間かけてゆっくりとセーターを編んでは完成前にほどき、また編み始めるというのを繰り返している。