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屋台のおじさんがとうとう、ふかふかの帽子をかぶっていた。毎年、ノリトン区に冬が訪れるとき、彼の帽子はわかりやすい目印になっている。冬の訪れを毎日眺めているうちに、いずれは彼が引っ張る屋台が雪道に耐えられなくなるか、あるいは、客足がさっぱり途絶えるほどに吹雪いてくる頃が訪れるのだ。そうなれば、彼がいつもやってくる東の果てへと戻って、小さなストーブの前に足を放り出しているのだろう。
両手をポケットに突っ込み、少し猫背に傾いだ体を、ふかふかのマフラーでごまかしている後輩が、「想像力あふれていますねえ」と、ぼんやり言う。それに至るまでの過程を説明すれば、一度は口をへの字に曲げて、そのあと必ずニッと笑う。そうして白い息をたなびかせながら、「頼りにしていますよお」と、間延びした返事が返ってくるのだ。
こういった話をするときは大抵、その過程を考えざるをえない状況にある。準備運動のようなものだ。しかし、そういった機会は数日ないだろう。
指先で弧を描いて、明かりを灯した。それらをいくつか散りばめれば、扉の先へ続く暗がりを恐れることもない。書庫の空気はいつも通りのカビ臭さを孕んでいて、滑るように部屋に入れば、ほんの少しだけ空気が息継ぎをする。扉を締めれば、いつもどおりの静けさが、息を呑むように、そこにあった。後にば、歩くたびに、鼓動のように足音が響き渡る。
目印として入り口に一つ。続けて、通路の交点にそれぞれ明かりを残す。4つ目の交点で、置きっぱなしにしていた椅子を拾う。もう少し進めば、一冊だけ棚に収められていない本が見えた。それを取り出して、ゆっくりと椅子に座り、棚にもたれかかる。吐いた息が漂うのが見えた。
明かりをいくつか増やして、ページを捲る。挟んであった栞が滑り落ちる代わりに、自然とそこから始まった。